投稿日:2025年7月1日

災害に強い複数の通信手段を調達する方法とその実施のポイント

はじめに:製造業現場における通信手段の重要性

近年、日本国内では地震や台風、豪雨など自然災害の頻発が目立っています。

そのたびに、製造業の現場では通信手段の途絶による大きな混乱や損失が発生しています。

工場の生産ライン、品質管理、設備保全、そして従業員の安否確認に至るまで、情報伝達は組織をつなぐ生命線です。

災害時こそ、迅速で確実な意思決定と連携が求められます。

しかし、昭和から続くアナログ文化が色濃く残る工場ほど、「なんとかなるだろう」「固定電話と社内内線があるから充分」といった過信や慣習が根強いのも事実です。

本記事では、現場目線で「災害に強い複数の通信手段を調達する方法」「調達と運用における実践的なポイント」を詳しく解説します。

調達購買担当者はもちろん、工場長や現場の管理職、サプライヤーやバイヤー志望の方にも有益な内容となっています。

なぜ「複数の通信手段」が必要なのか

1つの手段に依存するリスク

工場や物流拠点、サプライチェーンの分岐点では、今も固定電話や社内メールシステムだけに依存しているケースが少なくありません。

しかし大規模地震では、電話線の断線や通信局舎の損傷、さらにはインターネット設備の途絶等、単一の通信手段が一気に使えなくなる危険があります。

また、スマートフォンが普及している現在でも、基地局や充電インフラが被災すれば“携帯も繋がらない”状況は度々発生しています。

現場の“実態”に即した通信環境の設計

製造業の現場は、工場棟、倉庫、事務棟、屋外ヤードなど、広い敷地に設備や人が分散しています。

そのため被災時にも「現場指揮所⇔本館」「現場作業者⇔管理者」「本社⇔各工場間」と、様々な通信が同時多発的に必要です。

また、災害時は電気やネットワークインフラも断たれる可能性が高く、複数の通信経路と媒体の用意が不可欠となります。

現場で必ず実感するのは「普段の連絡手段は頼れなくなる」「設備や機械の異常も人による伝達が最後の砦になる」ことです。

調達購買担当者が考えるべき「通信手段の多重化」の軸

1. 通信インフラの多様化

災害時の備えとして、以下の点は最低限押さえておきたい軸です。

– 固定電話(公衆交換電話網:PSTN)
– 携帯電話・スマートフォン(各キャリア、VoLTE/3G/5G)
– 無線(業務用簡易無線、特定小電力無線、デジタル無線)
– 衛星電話(docomo Iridium etc.)
– インターネット(有線/無線ブロードバンド、LTEルーター)
– 内線放送設備(館内アナウンス)
– メッセンジャー・グループウェア(クラウドベース)
– その他(手旗・伝書パターンも用途限定で有効)

これらを“冗長化”し、「1つが切れてもどれかが使える」形に組み合わせておくことが重要です。

2. 電源喪失時の対策

災害時に最初に失われるのが電源です。

通信機器、特にルーターやWi-Fiアクセスポイント、衛星電話や無線機の基地局も、電源がなければ無力化します。

無停電電源装置(UPS)、非常用発電機、太陽光パネル+バッテリー、車載電源の活用など、冗長な電源提供策も調達計画に必ず組み込んでください。

3. サプライヤーとの連携体制

調達側の視点だけでなく、サプライヤーにも「納入時の非常連絡手段」「災害時の供給体制・連絡プロトコル」をあらかじめ共有し、体制を確認しておくのがベストです。

実践的な調達手順と評価ポイント

1. リスク評価(現場調査とシナリオ策定)

まず自社の現場や物流ライン、協力会社を含めたリスク評価を実施します。

過去の災害発生時の状況ヒアリングや、現場ウォークスルー(実際の設備配置を確認する現地調査)を徹底しましょう。

主なチェック項目は以下の通りです。

– 通信不能時の影響予測(指令系統・安全確認・品質異常伝達)
– 必要な通信範囲、通信人数、用途(連絡・指示・情報共有)
– 各通信手段の現行インフラと弱点
– 想定停電時間とバッテリー/電源確保体制

調達購買部門は、「自社のリスクシナリオ」をサプライヤーに伝えることで、無駄のないソリューション選定が可能になります。

2. サプライヤー選定と評価基準

複数の通信機器・サービスには特徴とコスト差異があります。

主な検討ポイントは以下の通りです。

– 導入・維持コスト、イニシャル費/ランニング費
– 機器の可搬性、耐環境性(防塵・防水・耐衝撃)
– 利便性・操作性(現場作業員でも直感的に使えるか)
– バックアップ部品や追加増設の柔軟性
– 運用保守体制・緊急時技術サポート
– サプライヤーの納品実績・BCP(事業継続計画)対応力
– 複数手段のパック提案や、試用機の貸出

また、衛星電話や無線系は“通信制限や法令規制”があるものも多いので、技術部門や法務部門と連携しトラブル防止策を明確化しましょう。

3. バイヤーが押さえるべき実地運用・教育

せっかく多重化した通信手段も、マニュアルの中だけに眠っていては意味がありません。

現場で「使い方が分からない」「誰が持ち出すのか混乱する」といった事例は後を絶ちません。

調達後は、以下のステップまで抜かりなく実施しましょう。

– 配備場所・担当者・メンテナンス管理の明確化
– 年次・半期ごとの操作訓練の実施と履歴管理
– 操作マニュアルの現場常備と分かりやすいポップ掲示
– 簡易な導入教育映像やOJT(現場教育)の実施
– 定期的な機器点検(電池や消耗部品のチェック)

このプロセスを徹底することで、現場で“通信がつながる安心”を実感しやすくなります。

昭和型アナログ現場が陥る「3つの落とし穴」

新しい通信機器を導入する際、各現場で共通する主な“落とし穴”も再確認しておきます。

1. 形式的な導入だけで満足してしまう

「とりあえず防災倉庫に入れただけ」「現場へリスト配備したけど教育は省略」という状態では、いざ災害時に“肝心な人や場面で使えない”事態が発生します。

2. 計画見直し・点検のサイクルが抜ける

通信手段も車や設備機器と同じで、使わなければバッテリーや備品が劣化します。

「点検周期の徹底」「新入社員への教育託し」「年に一度の訓練」など、地道なメンテナンス活動が信頼性を支えます。

3. 人員の固定化による属人化

「無線担当のAさんが休みだと、誰も分からない」「配備リストが机の中のまま」など、属人化は重大リスクです。

ベテランも新人も最低限の取扱いができる――そんな“災害時の分厚い現場力”構築が肝要です。

先進現場が実践する「通信手段確保」のトレンド

1. 情報共有プラットフォームの導入

BCP(事業継続計画)先進現場では、チャットワークやスラック、Microsoft Teams等のクラウドチャットシステムの併用がメジャーです。

被災時、社内サーバが使えなくてもパソコン・スマホからグループ連絡網を維持できます。

また、安否確認システムや緊急通報アプリを組み合わせれば、社員や協力会社との情報共有が容易です。

2. 無線・衛星との「3段活用」

最先端工場では、「館内業務無線(簡易デジタル無線)+スマホグループウェア+非常用衛星電話」をセットで運用するパターンが増えています。

これにより、
– 通常時:社内内線やメール+業務無線
– 混乱時:携帯やグループウェア=誰でも即レス可能
– 完全被災時:衛星電話でヘッドクォーターや関係省庁と通信

こうした多重化により、「どの非常事態でも最低限の指令・情報共有が維持できる」体制となります。

サプライヤー目線:バイヤーはここを見ている

製造業のバイヤーが重視するサプライヤーポイントは以下の通りです。

– 「緊急納品体制」「BCP認証」など災害対応への本気度
– 機器・部品だけでなく導入支援や教育・保守の一括提供可否
– 複数拠点一括納入や増備需要へのフレキシビリティ

これに加え、普段から「予備機のストック」や「現場の声に基づく改良提案」を積極的にアプローチするサプライヤーは、必ず信頼を勝ち取ります。

取引先バイヤーの現場訪問やヒアリングを通じ、真の課題把握と具体的ソリューション提案こそが最重要です。

まとめ:多重化と「運用力」が現場を守る

災害対策の通信手段は、“単にモノを揃える”だけでなく、“現場で最適に使える仕組みと人づくり”が何よりも重要です。

調達購買としては、自社現場やサプライチェーン全体の実態に即した多重化と、サプライヤーとの緊密な連携体制・現場教育を強く推進してください。

業界全体で昭和型アナログ志向の“常識”を打破し、先進事例を学びつつ、「どんな災害でも強く、しなやかに生産を止めない現場」の実現に貢献していきましょう。

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