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CO2排出削減を数値化する製造業の環境経営の進め方

目次
はじめに
製造業において環境経営は避けて通れないテーマとなっています。
特にCO2排出削減への取り組みは、国際的な潮流、国内の法規制、顧客や市場からの要請とさまざまな圧力によって推進が求められています。
しかし「どう可視化するか」「どのように数値で管理するか」という問題に直面している現場も少なくありません。
この記事では、現場目線の実践的なアプローチを交えつつ、製造業がCO2排出削減を数値化し、環境経営を推進するための具体的な進め方を詳しく解説します。
CO2排出削減はなぜ求められるのか
社会と市場の要請
地球温暖化対策に関するパリ協定の発効以来、多くの企業が温室効果ガス削減に取り組むことが常識となっています。
加えて、国内でも2050年カーボンニュートラル宣言やSDGs(持続可能な開発目標)が追い風となり、多くの大手企業では取引先に脱炭素の取り組み状況やCO2排出量の開示を厳しく求めるようになっています。
バリューチェーン全体での対応
もはや“自社分”だけでは済まなくなり、調達先や外注先などサプライヤーも含めたバリューチェーン全体での排出量(スコープ1、2、3)の算定と削減が問われる時代です。
従来のようにアナログな対策や「環境意識の高さ」で差別化する段階は過ぎ、国際的な標準に基づいた数値管理と報告の重要性が高まっています。
CO2排出量をどう「見える化」するか
現場主義の壁を越えて
製造現場は数十年にわたり、Q(品質)・C(コスト)・D(納期)を最優先し培ってきました。
いまだエクセルや紙の帳票、工程ごとの勘コツに頼る現場は多く、「環境」に対しても「省エネしているつもり」「心がけている」という温度感が根強く残っています。
この意識から一歩進み、環境データを単なる数字ではなく、業績や現場改善の指標として「使いこなす」文化を育てる必要があります。
CO2排出量算定の基本
CO2排出量の算定は、「エネルギー投入量×排出係数」が基本です。
工場であれば、電気・ガス・重油などエネルギー源ごとに使用量を取得し、各エネルギーのCO2排出係数(政府や業界団体が公開している数値)と掛けあわせて算出します。
スコープ別管理の重要性
国際的には、CO2排出量は以下の3つのスコープに分けて算定します。
- スコープ1:自社敷地での燃料使用による直接排出(例:ボイラー、炉)
- スコープ2:購入した電力・蒸気・冷熱の間接排出
- スコープ3:原材料調達・物流・使用・廃棄などバリューチェーンに伴う間接排出
製造業の現場では、スコープ1・2が比較的取り組みやすい一方、スコープ3はサプライヤーや顧客との連携が不可欠で、難易度が高いのが実情です。
現場データの集め方
・工場の請求書やメーター値からエネルギー使用量を月別・工程別に抽出
・ラインごと、設備ごとにエネルギー分配を推計(難しければ代表機種から標準値を作る)
・可能であればデータロガーやIoT計測器を導入し、紙から自動収集へシフト
地味な作業ですが、「現物に触れて実測し、データをその場で可視化する」ことで現場の納得感・巻き込み力が増します。
CO2排出削減の実践例
エネルギーロスの洗い出し
現実の工場では、蒸気・圧縮空気・冷却水などユーティリティ系のロスがどこかで必ず発生しています。
例えば、未使用時にもラインが稼働し続ける、古いコンプレッサーの空気漏れ、不適切な照明・空調制御—これらを「見える化」し現場のスタッフでピンポイントに改善することで、驚くほどのCO2削減に結びつくことが多いです。
「ムダ取り」からの始動がカギ
実践的なアプローチとしておすすめなのが“省エネの小さな改善(KAIZEN)”です。
CO2を削減しようと構えると予算も手間もかかりそうですが、日々のムダ取り活動(例えば待機運転の削減、歩行・搬送の削減、清掃・点検のルーチン化など)が、結果としてエネルギー・CO2削減に直結します。
設備更改・生産プロセス改革
特定の工程でエネルギー消費が突出している場合、思い切った設備更新も検討すべきです。
最新機器は省エネ設計が進んでおり、20年以上前の設備と比較して圧倒的なCO2削減効果を発揮します。
また、工程間のレイアウト見直しやバッチ工程の見直しなど、生産管理目線での大幅改革も中長期的な貢献が期待できます。
CO2管理の「数値目標」とPDCA運用
KPI設定のコツ
CO2排出量の目標管理においては「原単位」を指標にすることが有効です。
生産数量あたり、売上高あたり、機種別など、現場が日々管理できる尺度でKPIを持つと、改善効果の見える化が加速します。
例えば「週間トータルで電気使用量1%削減」「1台あたりCO2排出20kg以下」など現場が追いやすい目標が大切です。
現場の工夫と“巻き込み”の重要性
指示や仕組みだけでは長続きしません。
生産現場、調達、品質管理など、部署横断で意見交換しあえる「場」(カイゼン提案会、定例ミーティング)を設け、現場目線の生きたアイデアを積み上げていくことが、「本当に生きた環境経営」の土台となります。
サプライヤー・バイヤーの視点から見る環境経営
バイヤー視点での選定基準
製造企業の購買担当(バイヤー)は今、「安さ」や「納期」だけでなく、サプライヤーがいかにCO2排出量を削減し、正確に算定・報告できる体制かを重視しています。
調達先のCO2開示状況(グリーン調達ガイドラインの遵守など)は今後、見積段階から必須要件として厳格化されていきます。
サプライヤーが知っておきたいこと
サプライヤー側も「単なるコストダウン」ではなく「脱炭素の実績」を武器に差別化する発想が大切です。
また、バイヤーの求める「第三者認証」やLCA(ライフサイクルアセスメント)対応なども今後は強く求められる方向にあります。
自社の強みや独自の削減ノウハウをストーリーや数値で整理し、わかりやすく伝える準備が生き残りのカギとなるでしょう。
デジタル化・自動化による環境経営の加速
IT化の導入ポイント
エクセル集計や手書き帳票から、IoT・クラウド導入でデータをリアルタイムに集計・分析する流れが加速しています。
デジタルツールを使ったCO2計測・可視化には、
- 設備ごと・工程ごとの細かなモニタリング
- 過去データのトレンド分析や異常検知
- 自動レポート出力・社内外への説明資料の充実
など大きなメリットがあります。
現場への展開と課題
現場には新しい仕組みへの不安やハードルもつきものです。
しかし、「データが現実とどうつながるのか」「作業現場にどう活かせるのか」を具体的に説明し、現場と一体となった運用を意識すると定着が早まります。
これまで昭和的な「経験と勘」に頼ってきた現場を、データ駆動型にアップデートする絶好の好機です。
今後の展望と製造業の新たな地平線
環境課題はもはや「一部の取り組み」ではなく、製造業全体の競争力を左右する決定的なファクターとなりました。
CO2排出削減の数値化に本気で取り組み、現場・サプライヤー・バイヤー全体で知恵を結集することで、日本の製造業は「脱アナログ」「世界標準」への新たな道を切り開いていくことが可能です。
ベテランの現場経験とデジタル・グローバルの新潮流が交錯する今こそ、新たなラテラルシンキング—つまり「当たり前を疑い、新しい結合アイデアを創造する習慣」を全員が持つべきタイミングです。
まとめ
製造業は今後、単なるモノづくりにとどまらず、CO2排出を中心とした環境経営でも世界をリードしていく必要があります。
CO2排出量を数値で可視化し、具体的なKPIに落とし込み、現場が主役となるKAIZENを繰り返すことで、自社も、取引先も、産業界全体も成長していきます。
これからの時代、自社の取り組みを「数字で語る」こと、そして現場発のイノベーションを「みんなで育てる」ことが、製造業の新しい強さとなるでしょう。
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