投稿日:2025年11月12日

スクリーン印刷のメッシュ洗浄で静電気発生を抑える方法

はじめに

スクリーン印刷の現場では、「メッシュの洗浄」が品質確保の最前線といっても過言ではありません。
特に静電気の発生は、印刷不良や歩留まり低下の大きな原因です。
昭和時代から続いた手作業・アナログ主流の現場でも、静電気による悩みは根深いものです。
今回は、製造現場での20年以上の実体験をもとに、メッシュ洗浄時の静電気トラブルの発生メカニズムと、その抑制手法について掘り下げます。
また、日本の製造業が今なお抱える課題や、バイヤー、サプライヤー双方の視点も交えてご紹介します。

スクリーン印刷工程とメッシュ洗浄の重要性

スクリーン印刷とは、細かなメッシュ(網)を利用してインクを通過させ、製品に精密なパターンや文字を転写する技術です。
半導体、プリント基板、ガラス、フィルム、車載部品など幅広い業界に不可欠な工程です。

メッシュの目詰まりや汚れは、印刷欠陥や異物混入の直接的原因となります。
そのため、定期的な洗浄は製造現場の常識です。
しかし、この「洗浄」というプロセス自体で、思わぬ落とし穴として静電気が発生するのです。

静電気トラブルの発生要因とメカニズム

メッシュ洗浄時の静電気は主に以下の原因で発生します。

1. 摩擦帯電による静電気

メッシュは一般的にポリエステルやステンレスなどが使用されます。
特にポリエステルメッシュは絶縁体であり、乾燥工程や乾いた布での拭き上げ時、あるいは手でのこすり作業で帯電しやすい性質を持ちます。
洗浄液そのものにも帯電性が低いものがあるため、乾燥との組み合わせで静電気が蓄積します。

2. 空気乾燥による急激な帯電

エアブローや強風による乾燥工程は、とくに冬季や乾燥した作業環境下で静電気の大きな原因となります。
吹き下ろし時にメッシュ表面と空気がこすれ合い、電子移動が発生するのです。

3. 洗浄設備や作業環境のアース不良

工場における設備のアースやグラウンド管理の不備により、せっかく放電された静電気が逃げきれず、メッシュや作業者の体に溜まり続けるケースも見受けられます。

静電気発生を抑制する現場対策

スクリーン印刷の要、メッシュ洗浄における静電気対策は多層的なアプローチが必要です。

1. 湿度管理の徹底

静電気の発生しやすい環境は、相対湿度40%未満がボーダーラインと言えます。
加湿器の設置や、洗浄ブース周囲の環境モニタリングを実施し、湿度40~60%を目標にコントロールします。
これだけでも体感できるほど静電気トラブルは減少します。

2. 帯電防止洗浄液・帯電防止剤の活用

従来の溶剤系洗浄剤よりも、帯電防止成分を配合した洗浄液への切り替えを推奨します。
また、メッシュ洗浄後に帯電防止スプレーや帯電防止クロスで拭き上げることで、表面の帯電を効果的に抑制できます。
新旧並行で小ロット運用からスタートし、徐々に現場全体への展開がおすすめです。

3. アース設備・作業者アースの徹底

洗浄台や作業台は金属部に明確なアースポイントを設け、メッシュが常にグラウンドへ電圧逃しできるよう構造を見直してください。
作業者も帯電防止靴・リストバンドを装着します。
製造現場の安全衛生委員会で定期的に点検運用することが重要です。

4. 離型処理済みクロスやウエスの使用

拭き取り用クロスも通常の綿ウエスではなく、帯電防止処理済みや導電性繊維入りのものを選定すると効果が高いです。
また、乾式よりも湿式拭き取り、すなわち水や洗浄剤で軽く湿らせた状態での拭き取りを徹底しましょう。

5. 乾燥工程の見直し

乾燥には温風乾燥よりも自然乾燥、または除電装置を組み合わせた低風量ブロワーへの切り替えを検討します。
近年はイオナイザーや除電バーを洗浄乾燥ラインに後付けするソリューションも増えてきました。

バイヤー・サプライヤー視点から見る静電気対策の今

スクリーン印刷の分野は「昭和型のムラ・バラツキ・人依存」から脱却しきれない現場も多く見受けられます。
IT投資より現場の職人技、という気風が強いエリアです。

しかし、グローバルな品質保証や精密化が求められる現代では、静電気トラブル一つでクレームや納期遅延に直結します。
バイヤー(調達担当者)は、サプライヤー選定時に「静電気対策の有無」「帯電防止プロセスの運用状況」を必ずチェックしています。

一方、サプライヤー側は投資や新技術導入への腰が重いのが現状です。
「これまで大きな事故がないから」「自分たちのやり方で十分だ」という昭和的マインドが根強く、新規提案が現場力で跳ね返されることがたびたびあります。

共創がもたらす生産性・品質革新


静電気対策の強化を契機に、バイヤーとサプライヤーが生産現場の見える化や共同改善を実施することで、従来にはない品質安定化が期待できます。
今や、現場の「ふしぎな現象」や「なんとなく困っていること」をしっかり数値化し、技術的アプローチで解決することがサプライヤーの競争力そのものです。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの担当者どちらにとっても、静電気を例にとった「まさかの落とし穴」発見と共有は大きな武器となります。

まとめ:静電気対策は現場の守りから攻めの品質保証へ

スクリーン印刷のメッシュ洗浄工程における静電気発生は、古くて新しい製造現場の課題です。
摩擦や乾燥、環境由来の帯電といった「目に見えない」現象が、印刷不良やクレームとなって現れてきます。

対策のポイントは、湿度管理と帯電防止グッズの積極活用、そして作業工程やマニュアルへの「見える化」です。
自社だけでなく、取引先との連携・情報共有こそが今後のサプライチェーン全体の信頼性向上につながります。

最終的には、「静電気対策の有無」がサプライヤーの選定基準そのものとなる時代が到来するはずです。
製造業で働く皆さんには、この変化の波を的確にとらえて、現場力のアップデートを進めていただきたいと強く願っています。

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