サンクションとデナイドパーティの自動スクリーニングで取引停止リスクを抑える方法

はじめに：グローバル時代の製造業における取引リスク

グローバル化が進む製造業では、調達先や取引先が国内外幅広く拡大しています。

しかし、多様なサプライチェーンを構築する中で、避けては通れないリスクもあります。

そのひとつが「サンクション（制裁）」や「デナイドパーティ（取引拒否リスト）」に関連した取引停止リスクです。

こうしたリスクの見落としは、企業の信用失墜や巨額のペナルティに繋がりかねません。

今回は製造業の現場目線で、サンクションやデナイドパーティの自動スクリーニング活用によるリスク管理について、実践に即した視点で解説します。

サンクション・デナイドパーティとは何か

サンクションとは

サンクションとは、主に国際的な安全保障上の理由や人権侵害、違法行為への対策として、国や国際機関が特定の企業や個人、団体との取引を制限または禁止する「制裁」を指します。

経済制裁リストは、アメリカのOFAC（米財務省外国資産管理局）のSDNリスト、EU制裁リスト、日本の外為法に基づくリストなどが代表例です。

デナイドパーティとは

デナイドパーティとは、各国の政府機関などが「輸出入や取引をしてはならない相手先」として指定した対象のことです。

アメリカのBIS（商務省産業安全保障局）のDPL（Denied Persons List）やEUのDual-use Regulation（デュアル・ユース規制）など、国ごとに複数のリストが運用されています。

たとえば、取引先がこれらリストに掲載されている企業だった場合、知らずに商品の輸出や調達を行うと、あとになって重大な法規制違反となるケースがあります。

なぜ取引停止リスクが高まるのか？

時代背景：サプライチェーンの複雑化と制裁の厳格化

令和のいま、サプライチェーンが環境・人権・地政学リスクと密接に関連するようになり、取引先チェックの重要性が急速に高まっています。

特に米中対立やロシアのウクライナ侵攻以降、サンクションやデナイドパーティ規制がグローバル規模で拡大・複雑化しました。

たとえば、アメリカのSDNリストに載った中国企業や個人と取引をした場合、日本企業であっても米ドル決済が凍結されるなど、直接的・間接的な影響が現場にも及びます。

昭和流のアナログな管理方法では限界

以前は「新規取引先には紙のチェックリストを使って都度確認する」というアナログな方法が主流でした。

各現場や担当者の“目利き”に頼って、定型的なブラックリストチェックを形だけ実施しているケースも少なくありませんでした。

しかし、取引先数の増大やリストの更新頻度の多さ、複数国に跨る規制対応など、もはや手作業や非効率なチェックでは追いつけません。

結果として、確認漏れによるコンプライアンス事故のリスクが日々高まっています。

自動スクリーニング導入の必要性

リスト更新・多言語対応など現場の「手が回らない」課題

サンクションやデナイドパーティリストは、各国・各機関ごとに頻繁に内容が追加・削除されます。

たとえば、OFACのSDNリストだけでも、週に何度も更新が入ることがあります。

さらに、リスト記載の名称も日本語、英語、中国語など多言語・さまざまな表記ゆれが発生します。

現場担当者がエクセルや紙のリストで一つ一つ突き合わせるには、時間と手間、そして専門知識が膨大に求められます。

自動スクリーニングの導入効果

こうした背景から、最新リストを自動取得し、アルゴリズムによって企業や個人、エンティティーの名前を多言語・表記ゆれまで自動で照合する「自動スクリーニングシステム」の導入が、業界で加速度的に進んでいます。

さらに最近では、ERP（基幹業務システム）やSRM（サプライヤリレーションシップマネジメント）と連携させることで、見積依頼から新規調達先登録、発注、出荷管理に至るまで、バックオフィス業務と一体化したチェック体制を作ることが可能になりました。

自動スクリーニング導入のステップと着眼点

1. 対象となる業務範囲と現状の確認

まずは自社で調達・購買・輸出入・販売など、どのプロセスで規制リスクが発生するか棚卸します。

また、サプライチェーン上のどこまで（一次、二次、三次サプライヤまで）チェック対象を広げるのか事前に定義しておく必要があります。

2. 用いるリストの選定

日本国内での調達や販売であっても、最終製品の輸出や米国ドル決済が発生する場合、主要各国（米国、EU、中国、日本など）のサンクションリストを網羅する必要があります。

たとえば、グローバル企業であれば、SDNリスト、BISリスト、UNリスト等の多面チェックが求められます。

3. 導入するシステム・サービスの評価

導入に際しては以下の観点を重視してください。

– 最新リストを自動で毎日取得できるか
– 多言語・異体字（アルファベット・カタカナなど）での照合精度
– ERPや調達システムとの連携可否
– 複数担当者による承認・チェックワークフローの設定可能性
– ディテールなスクリーニング結果の証跡保存
– 万一の疑義発生時の即時アラート通知

特に海外子会社や現地法人でもグループ統一で使える仕組みを併せて検討すると、内部統制力が大きく向上します。

4. 運用・定着化のためのプロセス標準化

新しいシステムを導入しても、人ごと・部門ごとで運用ルールがバラつけば意味がありません。

従業員向けのeラーニング、チェック結果の二重確認、異常検出時のレポート・エスカレーションなど、現場レベルでの運用フローの標準化が重要です。

昭和流から脱却できない企業の落とし穴

現場を見ていると、いまだに「大手だから大丈夫」「過去に事故がないから安心」といった昭和的な“なあなあ”慣行が根強く残っています。

特に老舗の加工メーカーでは、昔からの馴染みのサプライヤーを「信頼」でしか評価していない場合があります。

しかしグローバル企業や高度なサプライチェーンネットワークにおいては、「過去が安全だったから今後も安全」という保証はありません。

むしろ、何十年も取引している会社が知らぬ間に制裁対象となっていることも珍しくない時代です。

業界動向：自動スクリーニングがスタンダードに

国内外の規制強化、取引先審査はグローバル基準へ

世の中の動きとしても、製造業各社が次々と自動スクリーニングを標準化しています。

大手総合商社や自動車メーカー、グローバルに展開する電機メーカーでは、取引開始前にAIベースの自動チェックを必須プロセス化し、リスト情報のメンテナンスや監査体制を充実させています。

ESG投資やSDGs経営の観点からも、法令順守だけにとどまらず、人権・環境面でのネガティブ評価を未然に排除する流れが加速しています。

そして、日本の中堅・中小製造業でも、OEM供給元や上位企業から「自動スクリーニングによる証拠提出」を求められる事案が増えており、今後は“できていて当たり前”の時代になるでしょう。

調達バイヤー・サプライヤーそれぞれの視点

バイヤー（購買担当）視点

「コスト削減や納期保証だけでなく、サンクション対応も調達責任」

バイヤーにとっては、単なる取引先選定だけでなく、コンプライアンスリスクを排除する体制そのものに責任が求められるようになりました。

また、部品や原材料だけでなく、設備工事の外注先や物流業者まで含めて監査する必要があるため、網羅的なチェック体制を構築するのが肝心です。

サプライヤー（供給業者）視点

バイヤー側が自動スクリーニング体制を持っているかどうかは、自社の安定取引にも直結します。

また、海外販路拡大やグローバルOEM展開を進める場合、自らも最新の制裁情報を常にキャッチアップし、自社やグループ会社がいつの間にか「取引拒否リスト」に入っていないかチェックすることが必要です。

サプライヤー自身も、「最新のサンクション対応体制を有している」ことを強みとしてアピールし、信頼性の高い取引先として選ばれることが次の競争力になります。

まとめ：自動スクリーニングで“攻め”のリスクマネジメントを

製造業におけるサンクション・デナイドパーティ対策は、もはや法務・コンプライアンス部門だけの“守り”ではなく、現場全体のバリューチェーン競争力を高める“攻め”のリスクマネジメントです。

業界や会社規模を問わず、自動スクリーニング体制の構築が、顧客や社会から信頼され続ける製造業経営の必須条件といえます。

「取引停止リスク」は、一歩間違えば会社の存続を揺るがしかねません。

昭和的な「慣れ」と「属人化」からの脱却、そして自動化・標準化により、経営者も現場担当も安心してグローバル競争に挑める環境を整えていきましょう。

これが、今後10年、20年先も選ばれ続ける製造業の第一歩です。

ご質問や導入アドバイスが必要な場合は、どうぞお気軽にご相談ください。