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材料価格高騰時に仕入先からの値上げ要請を受けた際の対応と交渉戦術

目次
はじめに ― 材料価格高騰が製造業にもたらすインパクト
2020年代に入って原材料価格は大きく乱高下しています。
新型コロナウイルス感染症によるサプライチェーンの混乱、ロシア・ウクライナ情勢、中国情勢など、世界の不安定要因が複雑に絡み合い、鉄鋼・アルミ・樹脂・電子部品など幅広い材料が値上がりしています。
製造業に従事する方、あるいはバイヤーや購買を目指す方にとって、「仕入先から値上げ要請がくる」のは他人事ではありません。
本記事では、20年以上の現場経験に基づいた視点から、値上げ要請への対応方法や実践的な交渉術、昭和型アナログ文化のなかで実際に使われている暗黙のルールや今後の業界動向までを深く掘り下げます。
値上げ要請の基本構造 ― サプライヤーの立場・心理を知る
サプライヤーが値上げ要求をする理由
サプライヤーが値上げ要請をしてくる主な理由は、原材料費の高騰の転嫁です。
「仕入先は本当に材料費が上がったから値上げしたいのか?」
これは単純に見えて実は奥深い問題です。
業界によっては“価格据え置きの慣習”が根強く、サプライヤーは本音をあまり言いません。
現場側である我々が知るべきなのは、
・サプライヤーにも生活があり、利益を確保しなければ生き残れない
・一方で、ユーザー企業が“足元を見る”ことも日常茶飯事
状況証拠や材料市況グラフから「値上げ要請が合理的か?」を見極める目が重要です。
サプライヤーからよくある値上げ要請のパターン
1. 書面で「●月から●%値上げさせていただきたく、お願い申し上げます」と通告
2. 電話や対面口頭で「ここまで仕入価格が上がってしまいまして…」
3. 納期遅延・QCDの悪化とセットで「もう現状では不可能です」と暗に脅してくる
これらの背景には、「競合他社には既に価格を飲んでもらった」「うちだけが値上げできていない」といった比較情報も交えてくる場合が多いです。
バイヤー視点からの心理負担
購買担当者は、単に値上げに「ノー」と言うだけでは業務が成り立ちません。
自社の生産現場からはコスト低減の圧力、サプライヤーからは値上げ要請、板挟みで精神的なストレスがかかります。
だからこそ、感情的にならず「冷静」と「誠実さ」が大切なのです。
値上げ要請を受けたら最初にやるべきこと
受領・状況整理・社内共有
まず、書面・メール・口頭いずれの場合も一次的リアクションは慎重にしましょう。
即答で「ダメです!」と返すのは禁物です。
理由は、足元を見られて「交渉余地ゼロ」だと見なされてしまうからです。
まずは、「ご要望、確かに受け取りました」と伝え、
・要請内容(日付・値上げ率・対象製品)
・値上げ理由(どの材料、何%上昇か詳細)
・サプライヤーの提示する根拠資料
を整理して記録します。
そして製造・生産管理・経理とも速やかに情報を共有して、現場側の経済的インパクトを数値化しましょう。
社内でまずシミュレーションする
・今回の値上げが自社の原価率や利益率にどの程度影響するのか
・調達替えは可能か、他社サプライヤーの市況は?
・過去にも同様の要請はあったか? ログ・資料を振り返る
ここが現場主導の製造業らしい“地道な積み上げプロセス”です。
最初のリアクション・対話で印象が決まる
「まずは話を聞く」という姿勢
サプライヤーからの値上げ要請に対して、表向きはまず冷静に耳を傾けることが大切です。
「どうしてこんなにもコストアップしたのか、詳細を教えてください」
「他の材料・ロットではどうなのか?」など、現場目線で具体的数字を追求していきましょう。
この段階でのポイントは、
・あくまで冷静に、疑義があれば数字ベースで確認
・サプライヤーに「誠意」を持って接触
サプライヤーも苦労しているという前提を忘れず、仲間意識を醸成しておくことが、将来的な関係に大きく関わります。
値上げ要請時の現場実践的な対応とは?
値上げの根拠を徹底してヒアリング・検証する
・原材料の調達先の納品書、相見積もり、価格推移グラフなど、すべてエビデンスを求める
・「値上げ分には何が含まれますか? 運賃、光熱費、人件費は混ざっていませんか?」
・単なる材料費でなく、副資材・管理費の便乗分が“上乗せ”されていないか厳しく精査
現場感覚があるからこそ、「それは本当にコストアップか?利益拡大を狙っていないか?」の嗅覚を働かせましょう。
競合サプライヤーの状況調査と相みつけ
業界で“お付き合い”が長いサプライヤー相手でも、外部の競合価格情報は欠かせません。
・同一グレード品の最新相場
・他社納入条件(数量・納期・価格)比較
・調達先が変えられるなら、その影響度
値上げ交渉では「情報量の多さ=交渉パワー」になります。
情報が多い方が主導権を握りやすくなります。
値上げ幅・タイミング等、段階的な折衝方法
いきなり「全額NO」ではなく、段階的に交渉するのも有効です。
例えば、
・「一度に●%ではなく、時期を分けての段階的値上げはできませんか?」
・「ほかのスペック品は据え置きにできませんか?」
・「値上げ幅の根拠となる時期の為替レートや市況情勢を再精査してください」
“小分け交渉”することで、自社現場のコストインパクトを緩和できます。
昭和型現場文化に根付く“なあなあ交渉”への対処
メーカー間、長期取引実績がある場合は、「おたくとは昔からの仲」と感情論が未だに根強いです。
この昭和的世界観では、「阿吽の呼吸」で
・互いに美味しいところを分け合う
・“持ちつ持たれつ”の案件ごとの妥協
が数多く行われています。
ここでも大切なのは、安易に情に流されず、論理的+現場的な数字をベースに話を詰めること。
ただし、一方的な拒否ばかりしていると、“付き合いにくい会社”とレッテルを貼られるので、バイヤーの「バランス感覚」が物をいいます。
バイヤー・購買担当に求められる交渉マインドセット
「ギブ&テイク」「ウィン・ウィン」発想の大切さ
バイヤー業務の本質は、「自社コストを最小化すること」だけではありません。
調達先の事業継続と、結果として自社の安定的なサプライチェーン維持が両立できて初めて、長期的な成功となります。
・値上げ交渉をきっかけに、納期短縮や品質向上を同時に要求する
・次回プロジェクトでの優先納品枠確保とバーター交渉する
・困った時はお互い様精神
これらの現場レベルでの「ギブ&テイク」思考を持つことが、昭和型のアナログ業界では特に求められます。
「冷静」「数値根拠」「関係継続」の三本柱
1. 冷静で感情的にならない
2. 数値根拠を徹底追求してファクトで押し通す
3. 信頼関係を損なわず、次につなげる(取引継続)
この三本柱こそが、プロのバイヤー/調達担当として現場で尊敬される存在になる秘訣です。
今後の業界動向と従来型調達戦略の限界
デジタル化・価格連動条項・LCA/SDGs時代の新しい常識
昭和から続くなあなあ文化に加え、令和の製造業では、
・スポット取引から中長期契約へのシフト
・価格自動連動型契約やITによる原価見える化
・サプライチェーン全体でのCO2排出量管理
といった動きが急速に進んでいます。
DX時代は「材料価格は毎月自動で調整」「値上げ交渉が人間同士でなくAIで進む」可能性すら高まっています。
アナログな現場感覚も大事にしながら、新しい枠組みに順応し、自社の交渉力を持続的に高めていく必要があります。
まとめ ― 値上げ要請の本質を見抜き、現場力で勝ち抜く
材料価格の高騰時、サプライヤーから突きつけられる値上げ要請。
そのすべてが正当とも不当とも言い切れません。
重要なのは、現場目線で
・膨大な経験値から本質を見抜く
・“なあなあ”や空気に流されず、冷静に数字で対話
・信頼関係を保ちつつ、自社の利益を最大化
このプロセスに終わりはありません。
現場の皆さんは、次世代バイヤーとして、「アナログ」と「デジタル」両方の知見を活かし、混沌とする時代を現場力と洞察力で切り拓いていきましょう。
今後どんな時代が来ても、ものづくり現場の知恵と誠実さが、製造業の真の競争力になると信じています。
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