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表面粗さRaの適正化で過剰研磨を止める仕上げ基準の作り方

目次
はじめに:なぜ今、表面粗さRaの適正化が必要なのか
製造業の現場では、「やりすぎ」の研磨や仕上げが常態化していませんか。
精度を追い求めるあまり、必要以上の美しさや平滑さを求める。
その結果、コストやリードタイムが膨らみ、生産性低下や利益圧迫の原因にもなっています。
特に昭和の時代から根付く「念のため」「困らないように」の文化が色濃く残る事業所では、さほど必要のないRa(算術平均粗さ)の数値を追いかけ、作り込みすぎてしまうケースが後を絶ちません。
この記事では、“表面粗さRa”の正しい知識と、過剰研磨を防ぐための仕上げ基準の作り方、そして現場に根づかせるコツをプロの目線で解説します。
バイヤーや調達購買担当者、サプライヤー、工場長、そしてこれから製造業に携わる方、いずれの立場でも役立つ内容です。
表面粗さRaとは何か?製造現場での基礎知識
Raは表面品質の“見える化”指標
Ra(算術平均粗さ)は、部品表面の凹凸(微細な波形)の平均値です。
「面のなめらかさ」や「ザラツキ」を数値で示し、μm(マイクロメートル)単位で表されます。
機械部品、金型、板金、樹脂パーツ、医療機器など、ほぼすべての工業製品で品質の一部を担っています。
Raが小さいほど滑らかで、数値が大きいほど粗い表面になります。
例えば、Ra0.2μm以下は鏡面仕上げ、高光沢の外観部品に。
Ra1.6~3.2μmは一般的な機械加工部品、Ra6.3μm以上になると鋳物の肌などが該当します。
よくある誤解:「低いRa=高品質」なのか?
高価な製品や重要な部分は“できるだけRaを下げて滑らかにせよ”、という指示が現場に舞いがちです。
しかし、Ra値が小さいことと、製品機能や寿命が長いことはイコールではありません。
むしろ、仕上げに時間・コストをかけてRaを下げ過ぎてしまうと、無駄な工数・材料ロスが嵩み、企業競争力を損なう恐れさえあります。
なぜ過剰研磨が起きるのか?現場で根付くアナログ発想
“昭和型”製造現場の代表的な仕上げ文化
・とにかくピカピカにしておけば安心
・数値指示がなければ“念のため”過剰仕上げ
・ベテラン技術者の経験値(俺の感覚)が基準
・部門をまたいだ工程変更がしにくい
「不具合を出さない」「取引先を裏切らない」ことを最優先してきた歴史もあり、現場ではどうしても余分な仕上げや再研磨が発生します。
過剰研磨の具体的な弊害
・研磨や仕上げに熟練工が長時間張り付き、コスト高や納期遅延
・表面を過度に削り落とし、寸法精度や部品寿命に悪影響
・バイヤー側も過剰品質が続き、適正コストが見えづらい
・ムダな工程が多いことで自動化・DXのボトルネックになる
業界内でも「伝統」「でなければならない」のマインドが強く、現場は変革しにくいのが悩みどころです。
表面粗さRaの適正値はどう決めるか?ラテラルシンキングで考える基準作り
“使い方”と“場所”がRaを決める
Raの基準値を決めるために最初に考えるべきは、「その部品がどう使われ、どこに組み込まれるか」です。
単純な表面の美しさではなく、下記に目を向けることが重要です。
・摩擦やすり減りが問題になる部位なのか
・塗装や接着など後工程に影響するか
・見た目の外観品質が重視される部位か
・潤滑や油の保持が必要な面か
・接合・シールで漏れや剥がれが発生しやすい位置なのか
目的によって適正なRaは全く異なります。
「必要十分な仕上がり」をお客様や設計、品質部門と合意することで、過剰研磨を厳しく排除していくことができます。
“ラテラルシンキング”で工程全体を見直す
従来の「より細かく、より美しく仕上げる」一辺倒の思考から脱却しましょう。
水平思考(ラテラルシンキング)を使って次の考えを取り入れてみてください。
・摩耗部には本当にRaは必要か?それ以外の公差管理は?
・防錆や防食を優先すべきならラフな仕上げの方が良いことも
・工具コストや加工コストを含めた“総合評価”で考える
・3DスキャンやAIによる表面評価で新たな数値基準を作れないか
また、顧客図面のRa指定が間違っている(むやみな低値指示)場合は、根拠をもって設計変更提案を出せる現場を目指します。
バイヤー・サプライヤーの目線から見たRa適正化の着眼点
バイヤーで重視したい「コストと納期の見える化」
見積依頼時点から「Raの数値指定」が本当に妥当なのか検証しましょう。
仕上げ度合いを下げられれば、加工単価・所要日数ともに大きく短縮できます。
サプライヤー側が自社の技術情報(最適なRa範囲や自動化対応可能な工程)を積極的に示すことで、「品質≠過剰」「ミニマムで最大効果」を共創できます。
サプライヤーがバイヤーの意図を読み解くコツ
・図面指示が「従来通り」となっていても、設計意図や最終用途を深掘りする
・不明な点は必ずQCDに基づいて“逆提案”をする(例:「Ra3.2μmでも通常の摩耗部品なら問題ありません」など)
・コストアップ要因になる加工工程を隠さず明示する
この姿勢が、単なる「下請け」から「技術パートナー」への進化に直結します。
過剰研磨をやめるための現場DX・自動化のアプローチ
仕上げ工程においてもDXの波は着実に到来しています。特に現実的なアプローチとして以下が有効です。
自動表面粗さ測定とフィードバックループ
従来のワイヤーゲージや表面粗さ計(触針式)の手測定だけでなく、AI画像処理&非接触センサー方式で加工直後のRaを瞬時に測定、自動記録できるシステムが増えています。
設定したRa値から外れた品だけを再加工ラインに流すことで、過剰な“すべて仕上げ”を防げます。
研磨・仕上げ作業の自動化/ロボット化
ロボットによるサンディング・ポリッシング装置なら、人の手の「念には念を…」作業をルール化し、規定Raだけを達成するように制御できます。
研磨剤・工具の寿命管理や再置換タイミングも自動化し、ヒューマンエラーも大幅に低減します。
現場に根付かせるための運用ルールと教育の工夫
根拠を示し「なぜこのRaなのか」を浸透させる
現場は指示内容に腹落ちしないと変わりません。「設計値のRaにする理由」「それ以下ではなぜ駄目か」をきちんとストーリーで説明します。
・現場回覧用の技術書を作る
・社内研修でRa‐サンプル(実物)を並べ比較する
・QCサークル活動で“工程別に最適Raを選ぶ”という課題を書かせる
・社外・顧客へのプレゼン資料に仕上げコスト構造と共にRaを説明する
評価KPIも現場目線で再設計
過剰研磨による“美しさ”を評価する指標から、適正Raを守ってコストダウンしたケースを高く評価する仕組みへ。
「どれだけ省力化・効率化したか」「自動化で標準化を実現したか」などKPIを再整理しましょう。
まとめ:今こそ“適正Ra”で製造業の競争力を高めよう
表面粗さRaは、ただ小さくすれば“良い製品”になるわけではありません。
その部品・製品の用途や機能にとって「必要十分」なRaを戦略的に選ぶ。
過剰研磨をやめ、工程標準を見直し、現場の無駄とコストを徹底的に削減する。
そのためにはバイヤーやサプライヤー、そして現場作業者が共通認識を持つことが何よりも大切です。
昭和型の“念のため仕上げ”から脱却し、ラテラルシンキングを現場に根付かせましょう。
AI・自動化の力で測定・記録・工程を変革し、「仕上げ基準」を時代に合わせて進化させれば、日本の製造業はもっと強くなります。
「本当に求められる価値あるRaとは何か」
現場の最前線から、今日から一緒に見直してみませんか。
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