投稿日:2025年10月24日

OEMで得たデータを活用して新製品をヒットさせる市場洞察力の磨き方

はじめに:OEMデータ活用は製造業の命綱

製造業の現場では、OEM(相手先ブランドによる生産)によって得られる大量のデータが日々蓄積されています。

ところが、まだまだ「納品命」で終わってしまい、データを“仕事の証拠”程度にしか扱っていない現場も多く見受けられるのが実情です。

昭和のものづくりから抜け出せない企業体質が色濃く残る今、OEMで得たデータは、実は新製品開発や市場洞察の宝庫です。

本稿では、製造現場で20年以上培った経験を元に、OEMデータ活用による市場洞察力の磨き方、そして新製品ヒットの道筋を、現場目線かつバイヤーやサプライヤー双方に役立つ視点でまとめます。

OEMデータが持つ“現場ならでは”の価値

OEMデータとは何か?

OEM業務において発生するデータには、注文履歴、納入仕様、生産実績、品質検査記録、納期回答履歴、クレームデータ、工程異常時の対応履歴など多岐にわたります。

特に受注・仕様の変更履歴や、納入前後での改良要求、短納期対応の要請に記録された“顧客の生の声”は、現場が最も触れやすい市場情報です。

アナログとデジタルのはざまで眠る情報資産

多くの中小企業では、FAXや電話、手書き帳票でやり取りされる情報が依然多く、これがデジタル化・分析を妨げてきました。

一方で、「真のニーズは現場にある」と信じて疑わない熟練技術者は、日々のやりとりのなかで敏感に市場変化を感じ取っています。

この両者を橋渡しする「現場起点のデータ活用」が、差別化とヒット商品の種となるのです。

OEMデータから市場洞察を得る実践的アプローチ

1. 仕様変更・要望記録の“理由”まで深掘り

顧客からの仕様変更や設計要求の裏には、単なるコストダウン要請や品質向上だけでなく、「本当はどんな問題があるのか」という現場の声が潜んでいます。

その変化や理由、使い方の背景(たとえば現場作業の負担軽減や新たな安全基準への対応)をヒアリングすると、顧客業界全体でのトレンドや課題が浮かび上がります。

2. 品質・クレームデータの“用途別”分析

不良発生やクレームデータの中には、「今までなかった使われ方」によって発生した問題が隠れています。

たとえば、“通常の工程では起きない”異常が増えた場合、ユーザーが新しい使い方や新システムで本製品を利用している可能性があります。

これを察知できれば、顧客の新事業や開発動向を敏感にキャッチし、次のヒット製品への種を自社開発に活かせます。

3. 短納期・特急依頼の“隠れた真意”を読み取る

急な短納期依頼は、サプライチェーン変化や新製品ローンチ、緊急需要増と密接にリンクしています。

単なる業務負荷としてではなく、「なぜこのタイミングで急ぎ需要が生まれたのか?」を分解し、業界全体の潮流を探ることが大切です。

たとえば、EV化の波が押し寄せる自動車業界、半導体材料の急増産、医療分野での緊急対応需要など、OEM先で起きる変化を自社でもリアルタイムに感じ取る訓練が不可欠です。

現場発!新製品ヒットに繋げるデータ活用術

1. “間接体験”から“直接体験”型商品企画へ

長年OEMをやっていると、「ウチは縁の下の力持ちだから…」と控えめになる現場も多いですが、顧客現場で起きている課題を“自分ごと”としてとらえ、仕様や工程ノウハウを自社ブランド(PB)商品に生かす発想が重要です。

OEMの受諾内容から世の中の困りごとをストックし、量産ノウハウ・品質安定性を活用して、顧客だけでなく他社にも刺さる“横展開型”製品企画が実現できます。

2. 定性的データ×現場インタビューで仮説を磨く

定量データとしての不良率や納期短縮回数を整理するだけではなく、「なぜ?」「どんな現場事情が?」という生インタビューや作業見学を組み合わせることで、データの意味付け精度が格段に上がります。

外部バイヤーや設計担当者との壁を越え、「現場対現場」対話を実施することが、今後のサプライチェーン強化にもつながります。

3. 既存OEM得意先情報の“水平展開”モデル設計

1社から得たデータや要望は、他業界・他用途へ展開できるヒントの宝庫です。

たとえば、自動車部品で培った軽量化ノウハウをロボット部品や医療機器部品へ、耐薬品性や耐熱材技術を食品プラント部材にも転用する、といった応用思考です。

これにより、自社技術の「裾野」を一気に拡大し、OEMの枠を超えた新しいマーケット開拓が可能となります。

バイヤー・サプライヤー双方が意識したい“これから”の市場洞察軸

調達・購買担当が期待するOEM先の進化

DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む中、バイヤー側は単なる納品・価格競争力だけでなく、”気づき”や“現場ストーリー”の共有、そして改善提案力のあるOEMパートナーを求めています。

「御社現場から見て、業界課題や技術変化で気になることはありませんか?」と積極的に提案できるOEMこそ、今後時代に選ばれる存在に成長します。

サプライヤーこそ“需要兆候”の最前線

サプライヤー現場は、お客様発の仕様変更や急な増産対応など、日々“需要のゆらぎ”と向き合っています。

これを「イレギュラーな面倒ごと」として終わらせず、一歩踏み込んで「なぜその変化が発生したのか?」を分析する習慣をつければ、バイヤーと共に業界を導く真のパートナーに変われます。

調達側と共に“現場データ分析会”を主催するのもオススメです。

お互いの視点をぶつけ合い、業界イノベーションの“起点”を現場から生み出せます。

昭和型アナログ業界から抜け出すための3つのポイント

1. データ可視化の“最初の一歩”を現場主導で

DX化というと構えてしまう現場が多いですが、「とにかく5つの顧客から来る仕様変更メールをエクセルにまとめる」など、できることから“現場主導”で始めるのがコツです。

一度まとめて可視化すれば、今までのやり方を変える強い動機にもなり、経営層の理解も得やすくなります。

2. “暗黙知”を“形式知”に変える徹底共有

「あの担当が毎回現場で何とかしている」だけで終わらせず、「現場でどんな工夫があり、どう変化を読んだか」を日報や朝会・業務マニュアルの中で情報化し、全員でノウハウを磨いていきましょう。

その積み重ねが現場の意識変革、ひいては新しい工場文化の醸成に繋がります。

3. 自社だけでなく“顧客現場の進化”にも投資する

顧客側現場の課題や変化を知るために、データ解析だけでなく積極的な現場見学や工場間交流会への参加を継続することが重要です。

“現場力”の高さは、自社内だけでなく、外部の現場と融合することで一層磨かれます。

まとめ:OEM現場データこそ市場を動かす羅針盤

OEM業務の中で得られる地道な現場データには、業界の変化や顧客の本音、そして次のヒット商品の種が必ず隠れています。

単なる“受託者”や“下請け”という意識から脱却し、「現場起点の市場洞察力」を磨けば、製造業としての自社価値は格段に高まります。

今こそ、データ活用×現場起点の発想で、OEMの枠を超えた新製品と市場創造に挑戦しましょう。

一歩踏み出す現場から、製造業の明日はきっと変わります。

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