投稿日:2025年6月29日

技術シーズを顧客価値へ変換する潜在ニーズ抽出法と製品開発実践ガイド

はじめに:製造業現場から見た「技術シーズ」活用の重要性

近年、製造業の現場を取り巻く環境は急激に変化しています。
DX推進の掛け声のもと、自動化やIoTの導入が進む一方、日本のものづくり現場には昭和時代から続くアナログ文化が根強く残っています。
その中で、自社の技術シーズをいかに顧客価値へと変換し、真に売れる製品を生み出せるか。
これは、調達購買・生産管理・営業開発など全ての現場関係者が日々向き合っている難題です。

本記事では、20年以上の製造現場で実践してきた経験をもとに、「技術シーズ」から潜在ニーズを引き出し、顧客が本当に求める商品・サービスへつなげるための具体的方法と、そのための開発ガイドを現場目線でわかりやすく解説します。

技術シーズとはなにか?メーカー現場での”種”の捉え方

技術シーズの基本定義

技術シーズとは、自社が独自に保有する技術・材料・製造装置・ノウハウ・アイデアなどの「技術発の出発点=種」を指します。
研究開発部門が主体となることが多いですが、現場のちょっとした改善アイデアや、工程ノウハウも立派なシーズになりうるものです。
たとえば、
– 独自配合の高機能樹脂
– 他社にない高精度溶接技術
– 加工プロセス短縮ノウハウ
など、製品というカタチになる前のあらゆる技術的資産が該当します。

なぜシーズ発製品が売れないのか?

製造業では「良いものさえ作れば売れる」という信仰が未だ根強いです。
しかし、技術シーズ起点で生まれた製品も、市場に受け入れられず消えていったケースは数知れません。
これは
– 顧客の課題や業界の潮流、潜在ニーズを掴めないで終わる
– 過剰品質になりコスト高・競争力低下に陥る
– 技術屋視点だけで企画を進め、「誰の何のためになるのか」の検証が弱い
など、技術ドリブンの「独りよがり」になりがちな点が主な要因です。

シーズ。それは確かにメーカーの強み。
しかし「花を咲かせ、実を結ぶ(=売上・利益・顧客価値に還元)」には、顧客に寄り添ったニーズ変換の発想が不可欠なのです。

潜在ニーズとは:「現場の声」だけでは掴めない真の価値

顕在ニーズと潜在ニーズの違い

市場調査などでお客様に「何が欲しいですか?」と聞くと、多くは「今」困っていること=顕在ニーズが返ってきます。
たとえば、
– 「もっと安価にしてほしい」
– 「納期を守ってくれれば十分」
こうした声に応じてモノを作ることは大切です。

一方で、「自ら気づいていないけど困っていること」「将来訪れるであろう本当の課題」。
これが潜在ニーズです。
これを掴まずして、花開く技術シーズ活用は実現しません。

製造業における潜在ニーズの発見がもたらすインパクト

例えば現場を自動化したいという要望があったとき、
– 顯在ニーズ:単純作業の自動化、省人化
– 潜在ニーズ:現場オペレーターのスキル平準化、属人化排除、トレーサビリティ確保など
本当に解決すべきなのは目に見えない課題の根っこの部分です。

この潜在ニーズを抽出できれば、単なる「性能勝負」「コスト競争」に巻き込まれず、価値の差別化で選ばれる製品開発につなげることができます。

潜在ニーズ抽出のために現場で実践すべき4つのアプローチ

1.工程・業務プロセスの“観察力”を鍛える

現場に足を運び、「今の仕事のやり方」「困っている場面」「気づきを記したメモ」など、とにかく詳細に観察します。
ここでは5S活動や改善提案の現場発表会がヒントになります。
技術の原石は、現場の“当たり前”の中に埋もれています。
観察結果は図解や写真付きの工程フローチャート、日報コメントなどに落とし込んでおきます。

2.「なぜ(Why?)」を5回繰り返す現場ヒアリング術

製造現場のベテランほど「習熟」で解決してしまい課題を見逃しがちです。
そこで、
– 「なぜこの工程を手作業にしているのか」
– 「なぜ不具合再発がなくならないのか」
– 「なぜ手間は減らせないのか」
と、5回“なぜ”を掘り下げてみてください。
本質的な改善・自動化・デジタル化のモチベーション、つまり「未だ言語化されていない根本課題」が浮かび上がります。

3.他社・異業種事例を徹底的に調査・分解する

「ウチの業界には合わない」「昔からやっているから大丈夫」。
こうしたアナログな思い込みがアンチDX、イノベーション停滞の元凶です。
先進企業のデジタル活用成功例や、異業種のオペレーション事例を
– 工程のどこに
– どんな技術が
– どう変化をもたらしたのか
まで分解して、自社・自工程に“転写”できるヒントを抽出します。

4.現場×営業×企画をつなぐ「仮説検証」会議を回す

技術(シーズ)開発に傾倒しがちですが、営業現場の声・マーケティング視点とセットで仮説検証(POC)を高速回転させましょう。
たとえば
– ペルソナ(理想顧客像)仮説を作成
– 価値提案書を社内外に投げ、フィードバック
– 最小単位の試作を現場テスト
スモールステップ検証を経て技術シーズが「顧客価値」として昇華できるか評価します。

技術シーズ×潜在ニーズ変換 実践ガイド

ステップ1:シーズの棚卸しと用途マッピング

まずは自社が保有する、あるいは開発中の技術シーズを徹底棚卸しします。
この際、「どのような工程・用途・顧客層に転用可能か」をマッピングします。
例:
– 高強度接着技術→食品容器/医療部品/自動車内装など
– 超短納期小ロット製造→カスタマイズ品市場・ニッチ産業機器など

ステップ2:顧客業界のバリューチェーン・ペインポイント分析

狙う業界のバリューチェーン(設計→調達→生産→物流→保守)をリスト化し、それぞれ「どこが今ネックになっているか」を洗い出します。
たとえば
– 調達コスト高止まり
– 工程内品質検査の負担増
– 人材不足によるロス増大
など、数字・現場の生声・業界ニュースなど多角的に調査します。

ステップ3:「技術シーズで解けるか?」視点で仮説立案

各バリューチェーンの課題に対し、自分たちの技術シーズがどこで・どう活きるかを組み合わせて仮説を立てます。
例:
– 「高強度接着技術」で部品組立ラインの省人化/作業時間短縮ができないか?
– 「短納期小ロット製造」で小回り・柔軟供給ニーズを満たせないか?

仮説は絵に描いた餅ではなく、現場・営業担当と一緒に具体的な“改善インパクト試算”(労務削減●%など)まで示すことが重要です。

ステップ4:早期プロトタイプ投入と顧客テスト

小規模ロットで迅速にプロトタイプ(実験品)を開発し、実際の現場や顧客に持ち込んで現物検証を始めます。
この際、現場エンジニアやオペレーターに
– 使い勝手
– 効果実感
– 改善要望・リスク
などを徹底ヒアリングし、“机上の空論”を現場価値へと落とし込んでいきます。

ステップ5:社内外のKPI設定と意思決定プロセスの明確化

最後は「どのポイントで量産化Go/NoGoを決めるか」を数値(歩留まり改善率●%、コスト減●円、ダウンタイム●%減など)で明確にします。
曖昧な「よい反応があったから」ではなく、現場が納得できる根拠を積み上げ、社内外関係者の合意形成を図りましょう。

バイヤー目線で期待されるサプライヤー像とは?

バイヤー(購買担当)は、単なる安売りサプライヤーを求めていません。

現代の製造業バイヤーが期待するのは
– 「自社の課題を先回りして提案できる」
– 「技術力・提案力・現場改善力を持つ」
– 「新たな用途提案、新市場提案ができる」
こうした“共創”ができるパートナーです。

価格・納期・品質(QCD)はもちろんですが、それだけでは差別化は不可能です。
技術シーズ×潜在ニーズの“橋渡し役”として、自社だけの強みと知見を組み合わせた提案力こそが、これからのサプライヤーの生き残り条件となります。

まとめ:技術シーズを顧客価値へ変える現場力を磨こう

製造業界では、AIやIoT、生産自動化などデジタルシフトの大波と、現場改善やアナログ工程の最適化が共存しています。

「自社技術(シーズ)」の強さを磨きつつ、「顧客現場の潜在ニーズ」をつかみ、具体的に価値を変換する力。
これこそがメーカー現場とバイヤー・サプライヤー双方にこれから求められる“現場力”です。
ぜひ、本ガイドを参考に、現場での小さな観察・ヒアリングから、事例リサーチ、仮説検証、価値提案までを通し、強いバリューチェーンをともにつくっていきましょう。

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