投稿日:2025年6月30日

技術シーズを利益に変える潜在ニーズ抽出と製品開発活用法

はじめに:技術シーズと潜在ニーズのギャップに挑む

技術革新が加速する現代の製造業ですが、単に高度な技術や新しい設備を持つだけでは、必ずしもヒット商品や利益には直結しません。

多くの現場で実感するのは、「良い技術は持っているのに、なぜ売れないのか?」という根源的な疑問です。

この背景には、技術シーズ(自社の強みや技術の“種”)と、まだ市場に顕在化していない“潜在ニーズ”を結びつけ、価値ある製品へ昇華させるプロセスの難しさが存在します。

特に昭和から続くアナログな風土が根強い業界ほど、「前例が無い」「従来通りで良い」という言葉が壁になります。

この記事では、20年以上現場で培った経験に基づき、技術シーズを収益へ変えるための潜在ニーズ抽出と、製品開発への応用手法を現場目線で掘り下げます。

サプライヤーやバイヤーを目指す方にも役立つ“使える実践知”をお伝えします。

技術シーズとは何か?~現場目線での再定義

「できること」ではなく「どう使われるか」に目を向ける

多くの企業が「当社の得意技術は~」と技術シーズを語りますが、技術そのものがゴールになってしまえば、宝の持ち腐れです。

現場感覚で言えば、「その技術が実際の業務・製造プロセスや既存製品にどう活かされ、お客様の困りごとをどう解決するか」がカギとなります。

現場で長年蓄積した独自ノウハウや他社が簡単に真似できない加工工程、“古くて新しい”アナログ技術も、見方を変えれば大きなシーズとなり得ます。

「使い道」を拡張するラテラルシンキングのススメ

部分最適や伝統的な目線にとらわれず、「この技術、別の業界や工程なら何に使える?」と横への展開力を持ちましょう。

たとえば、自社の精密溶接ノウハウは医療機器や宇宙産業にも転用できるかもしれません。

この発想の転換こそ、潜在ニーズの種まきになります。

潜在ニーズ抽出:バイヤー思考の“二歩先”を読む感性

現場・顧客・サプライヤーの「小さな不満」に着目

BtoB領域における真のニーズは、「仕様書」や「購買要件」には表れません。

バイヤーがお困りごとを明確に説明できない場合も多々あります。

そこで有効なのが、現場や顧客が口にする“ささいな愚痴”や“不便の声”、意外と見落とされがちな非効率ポイントです。

たとえば、「納期があと半日早ければ…」「毎回、微妙なサイズ調整をしてるけど面倒だ」など、直接的ではない“未解決の不満”の言語化・可視化が新しい市場価値の源泉になります。

昭和的現場力とデジタルの融合

アナログな現場文化では、ベテランの経験や“カン”が尊ばれる反面、暗黙知が溜まりすぎてイノベーションが停滞しやすい傾向があります。

そこで、現場ヒアリングや作業日報分析、IoTやBIツールを組み合わせ、定量・定性の両面で潜在ニーズを抽出します。

人間の観察眼 × デジタル記録こそ、他社に先行する新たなベストプラクティスです。

“潜在ニーズ”から価値提案する製品開発アプローチ

QCD(品質・コスト・納期)だけでは弱い時代へ

従来の製造業では、QCDの最適化が永遠のテーマでした。

しかし、そのフィールドでの差別化は限界に近づいています。

これからは「手間を減らす」「現場のミスを減らす」「新しい運用を提案する」など、“使う人目線”での製品価値が重視されます。

小さな改良でも、現場作業を効率化し人手不足対策までつながる提案は、新時代の収益源となります。

プロトタイピングとABテストで“現場巻き込み型”開発

製造現場の多くで感じるのは、完成品主義・図面主義の壁です。

「100%精度の設計図ができなければ始まらない」という発想を捨て、動くサンプルを早期に投入し、実際のユーザー(現場作業者・エンドバイヤー)のフィードバックを素早く組み込むことが肝心です。

小回りの利く試作、複数案の同時テスト、どちらが使いやすいかを“現場の生の声”で検証する…。

これを繰り返すことで、潜在ニーズに応えた製品開発が精度高く進みます。

業界が“昭和”から抜け出せない理由と打破のカギ

「変わらない安心」の落とし穴

現場目線で言えば、「今まで通り、変化しない」が一番ラクです。

失敗リスクも低く、“社内の空気”も崩れません。

ですが、この安堵の裏には、市場環境や顧客の変化をキャッチしきれない危うさが潜みます。

特に設備更新やIT化が遅れるほど、短納期対応や多品種少量化の波に乗り遅れてしまうでしょう。

現場ベースのカイゼン風土から「現場発の価値提案」へ

カイゼン活動を積み重ねてきた日本の製造現場には、改善の小さな積み重ねを尊ぶ文化があります。

その延長に「現場の困りごと・顧客要望を、自発的にビジネス提案へ昇華する」動きが自然に根付けば、現場主導のイノベーションが定着します。

このムーブメントを社内で推進するには、現場の声を丁寧に吸い上げる仕組み作りと、失敗を許容する風土醸成が不可欠です。

サプライヤーが知るべき“バイヤーの思考回路”

「コスト」だけでない“調達の苦悩”

バイヤーはコストダウン・納期厳守だけを見ているようで、実は現場稼働停止を避けるためのリスクヘッジや、社内の合意形成に日々苦心しています。

サプライヤーが評価されるのは「コスト」「納期」だけでなく、情報共有のきめ細かさや、想定外トラブル時の柔軟対応力です。

この本質を理解した提案や、潜在課題に対する“予防策”の事前提示が信頼獲得につながります。

“3歩先”の競争優位性を持つには

他社がやらない細かな納品条件の調整、現場の手間軽減につながるカスタム仕様の提案、技術勉強会の開催――。

こうした「プラスα」のアプローチを少しずつ積み重ねることで、“比較されない”サプライヤーへと格上げされます。

長期的視点での価値共創が最も強い関係性を生み出すのです。

利益に直結する「技術シーズ×潜在ニーズ」の実践ステップ

1. バックヤードの技術資産を徹底棚卸し

現場・技術部門が当たり前と思っている工程・ノウハウこそ、他社にとっては驚くほどの価値となる例は多々あります。

全方位的な技術棚卸しを行い、どこが業界平均より抜きんでているか、社内で見える化しましょう。

2. 日常の現場ログ・お客様の声を「分析対象」へ

クレーム・問い合わせ・作業日報・購買先からの小さな相談まで、あらゆる現場情報を集約します。

定量データ(出荷遅延、歩留まり不良など)と、定性データ(愚痴・ヒヤリハットなど)を両立させ、“生きた課題リスト”として管理します。

3. スピード優先の試作・提案活動

思い切って即時に試作、もしくは現場ワークショップ形式でサンプルを試用・意見収集する文化を築きます。

“100点の完成度”よりも“60点のできばえを早く現場にぶつける”方が、潜在ニーズを拾うコンタクトポイントは増大します。

4. 提案の表現方法を工夫し「使い道」をイメージ喚起

カタログや提案書の段階で、「どう使うと、どう現場が変わるか」を写真や動画で見える化し、エンドユーザーが“自分ごと”化できるイメージを作り込みましょう。

この“共感型”の提案こそ、新たな価値訴求の土台となります。

まとめ:現場力×発想転換で未来を拓く製造業へ

いま製造業が目指すべきは、技術シーズという“強み”を、現場目線での潜在ニーズと掛け合わせ、一歩先行く価値提案型企業になることです。

それは、QCDだけの勝負から脱皮し、“現場からの共創”を大切にする文化変革でもあります。

昭和的な現場魂と新時代の発想を融合させ、利益や顧客価値へと昇華する――。

同じ製造現場に身を置く皆さんとともに、新たな価値創造の一歩を踏み出しましょう。

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