投稿日:2025年11月5日

現場改善における“なぜなぜ分析”の使い方と事例

はじめに:製造業現場を変える“なぜなぜ分析”とは

ものづくりの現場では、日々さまざまな問題が発生します。
工程でのトラブルや品質不良、納期遅延、ロスの増加――。
現場改善に取り組む方なら、一度は「なぜこんな問題が起きたのか」と考えを巡らせた経験があるはずです。

そんな現場課題の根本原因を見極め、再発防止につなげる有効な手法として、日本の製造業では古くから“なぜなぜ分析”が活用されてきました。
しかし昭和の時代からのアナログな思考法ゆえ、形骸化しやすい、表層的な原因解明にとどまる、といった課題も散見されます。

本記事では、20年以上の現場経験と管理職視点から、実践的な“なぜなぜ分析”の使い方や事例を解説します。
現場ファーストの視点も交え、アナログ風土の根強い製造業でも実践できる最適解を考察します。

“なぜなぜ分析”の基本:5回の「なぜ」で根本原因を掘り下げる

なぜなぜ分析とは何か

“なぜなぜ分析”とは、発生した問題に対し「なぜ?」と連鎖的に問い続けることで、真の原因(ルートコーズ)を解明しようとする手法です。
トヨタ生産方式をはじめとした日本のものづくり現場で体系化され、多くの企業で日常的に活用されています。

一般的には「なぜ?」を5回繰り返して深堀りする「5回のなぜ(FIVE WHYs)」がベースとなります。
ただし、必ずしも5回という回数にこだわる必要はなく、根本原因に辿り着くまで掘り下げ続けることが重要です。

なぜなぜ分析の流れ

1. 問題の明確化(何が、いつ、どこで、どのように発生したか)
2. 1回目の「なぜ」→直接原因を問う
3. 2回目以降の「なぜ」→前の答えを再度深掘りする
4. 根本原因(ルートコーズ)に到達したら、改善対策を立案する

このプロセスを、個人だけでなくチームで取り組むことで、思い込みや主観にとらわれず、本質に迫ることができます。

現場目線で考える「なぜなぜ分析」の落とし穴

形骸化しやすい理由

なぜなぜ分析はシンプルで取り組みやすい反面、現場では「とりあえずやれと言われて」「報告書用にやっただけ」「答えが最初から決まっている」など、形だけで終わるケースが少なくありません。

背景には、「人のせい」にしやすい日本企業の風土、上司に忖度して原因をぼかす慣習、原因が“根性論”や“注意喚起”で止まってしまうといった、昭和的なアナログ体質が根付いているからです。

二度と失敗を繰り返さない“現場に根ざした”問い方とは

現場でなぜなぜ分析を形式的に終わらせず、再発防止につなげるには、次のようなポイントが重要です。

・「誰が悪い」ではなく、「工程/仕組み/管理」など“システム側の問題”へと視点をずらす
・“本当にそれが最終原因か?”を立ち止まって検証し、さらに深掘りする
・「〇〇を気をつける」といった抽象的な対策で終わらせず、物理的・仕組み的な改善につなげる

このように現場目線で“なぜ”の質を高めることこそ、実効性ある現場改善につながります。

事例で学ぶ「なぜなぜ分析」の効果的な使い方

ここでは私の経験を元に、典型的な現場トラブルと“なぜなぜ分析”による解決事例をご紹介します。

事例1:部品の組み付け不良(品質トラブル)

A社の組立ラインで、ある部品の組み付け不良が頻発していました。
最初は作業者への注意喚起や再教育で対応していましたが、根本改善に結びつきませんでした。

1)なぜ不良が発生したか?
→部品が正しい位置に組み付けられていなかった。

2)なぜ正しい位置で組み付けなかったのか?
→組立治具のガイドが摩耗してズレやすくなっていた。

3)なぜガイドが摩耗したのか?
→定期点検の頻度が少なかった。

4)なぜ頻度を増やさなかったのか?
→点検リストが現場に共有されていなかった。

5)なぜ現場に共有されていなかったのか?
→新規設備導入時の情報伝達フローが未整備だった。

→解決策: 設備導入時の情報共有フローを標準化し、定期点検項目に組み込む。ガイド部品の摩耗限度も明確化し、交換サイクルを短縮。

このように、“なぜ”を重ねることで「人的ミス」ではなく「仕組みの盲点」にたどり着き、再発防止策を実装できました。

事例2:納期遅延(供給問題)

B社では、ある部品納入の遅れが生産計画の乱れにつながっていました。
発注担当者を責める声もありましたが、なぜなぜ分析をチームで実践。

1)なぜ納期が遅れたのか?
→発注リードタイム内に部品が届かない。

2)なぜ届かないのか?
→サプライヤー側で材料調達が遅れた。

3)なぜ材料調達が遅れたのか?
→購買予測の精度が低く、需給バランスが崩れていた。

4)なぜ購買予測精度が低いのか?
→最新生産計画との連携が手作業だったため。

5)なぜ自動連携になっていないのか?
→生産管理システムと購買システムが連携されていない。

→解決策: システム同士を連結しリアルタイムで需給予測できる仕組みを導入。サプライヤーとも情報を共有し事前調整を可能に。

“人”ではなく“プロセス”に問題があることを明らかにし、ITによって仕組み改善した典型例です。

事例3:設備の突発停止(機械保全)

C社の生産現場で、ある生産設備が突如停止。
従来は「作業員の巡回強化」で終わっていましたが、現場全体でなぜなぜ分析を実践しました。

1)なぜ設備が停止したのか?
→冷却ファンが異常停止していた。

2)なぜ異常停止したのか?
→ファンモーターに過電流が発生した。

3)なぜ過電流が発生したのか?
→軸受け部にゴミが詰まり回転抵抗が高まった。

4)なぜゴミが詰まったのか?
→定期清掃が記録上漏れていた。

5)なぜ記録管理が不十分だったのか?
→紙ベースの日報管理で、清掃有無がチェック漏れしやすかった。

→解決策: 点検日報のデジタル化・入力必須化し、未実施時はアラートが出る仕組みを導入。

デジタル技術を用いて“ヒューマンエラー”から脱却し、再発抑止に繋げました。

業界全体が変わるために:なぜなぜ分析の“進化”に向けて

アナログからデジタルへの橋渡し

昭和から続くアナログな現場文化では「なぜなぜ分析=報告書を作るためのイベント」になりがちです。
FAXや手書き日報が残る工場も少なくありません。

今後は、データ分析やAI活用などのデジタルツールを「なぜなぜ分析の補助」として積極活用することで、現場知見とテクノロジーの相互補完が求められます。
例えば、不良品の発生傾向や設備ログをリアルタイムで可視化し、「なぜそこに集中して異常が発生するのか」を分析する体制です。

現場スタッフの経験知と、データによる可視化の両輪で“なぜ”の解像度を高めることで、品質や生産性向上に更なるブレイクスルーを生み出せるでしょう。

バイヤー、サプライヤー双方の立場で考える

調達購買や部品供給の現場では、自分だけでなくサプライチェーン全体で問題が再発しない仕組み作りが重要です。

バイヤーの立場に立つ人は、「サプライヤー側の現場も一緒になぜなぜ分析を行い、改善策を共有する」ことが信頼関係構築の第一歩です。

一方、サプライヤーとしては自社工程の問題を“人為的な失敗”で片付けず、「工程設計」「仕組み化」「管理フロー」に潜む構造的な原因にまで目を向けることで、競争優位性や取引継続に直結します。

まとめ:なぜなぜ分析を“現場の武器”に昇華するには

なぜなぜ分析は、表面的な問題・個人のミスにとどまらず、「仕組み」「工程」「コミュニケーション」など組織やシステムの本質的な改善に繋げてこそ、現場の力となります。

形式的な報告書作りを脱し、「なぜ?」の質にこだわり、現場メンバーと真剣に深掘り議論できる土壌づくりが不可欠です。
さらにデジタル化の推進やサプライチェーン全体での共創を加速させれば、昭和的なアナログ文化から抜け出し、世界に誇る日本のものづくり現場を進化させる原動力となります。

一人ひとりの冷静な問いかけが、組織を変え、次世代の製造業を切り拓く力になる――それが「なぜなぜ分析」の真価です。
現場改善のために、今日から「なぜ?」をさらに深く、そして広く問い続けてみてください。

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