投稿日:2025年11月30日

OEM依頼時に必要な「縫製指示書」の書き方とテンプレート

OEM依頼時に必要な「縫製指示書」の書き方とテンプレート

製造業、とりわけアパレルやテキスタイル業界では、OEM(Original Equipment Manufacturer)による生産依頼がますます主流となっています。
品質や納期、コスト競争力を確保するためには、バイヤーとサプライヤーが「意図・要望を正確に伝え合う」ことが不可欠です。
その橋渡し役となるのが「縫製指示書」。
本記事では、現場経験をもとに、実践的かつ業界トレンドにも触れながら、縫製指示書の書き方や注意点、テンプレート例を徹底解説します。

縫製指示書がOEMに不可欠な理由

1. コミュニケーションロスを防ぐ

OEMにおける大きなトラブルの多くは、バイヤーの意図がサプライヤーに正確に伝わっていなかったことが原因です。
完成品がイメージと異なる、品質基準を満たしていない――こうした問題のほとんどは「縫製指示書」で明文化すれば避けることができます。
また、言語や文化の違いがある海外生産の場合にも、「仕様」という共通言語を持つことにより、確実な意思疎通が可能になります。

2. 品質保証とトレーサビリティーの担保

縫製指示書は、サンプルや量産品の品質判断の“物差し”にもなります。
あいまいな指示や、現場合わせの指示では「再現性」が担保できません。
記録として縫製指示書を残しておくことで、万一の品質トラブル時にも「どこで、なにが、どう違ったのか」のトレースが容易になります。
これは製造業全体で重視される「トレーサビリティー」の観点からも極めて重要です。

3. 生産管理・コスト管理の最適化

加工の複雑さや糸・資材の指定内容が曖昧だと、サプライヤー側で無用な手戻りや追加費用が発生しがちです。
縫製指示書により工場ラインのスケジューリングや材料調達も精緻になり、納期遅延やコスト増の回避につながります。
また、複数アイテムを同時に生産する現場では「指示書一つで誤認しない設計」は効率化の鍵です。

昭和から抜け出せないアナログ現場の実態と変化

日本の縫製工場やサプライヤーには、手書きの伝票や電話・FAXによる口頭指示が根強く残っています。
長い付き合いのある職人同士なら「阿吽の呼吸」で乗り切れる場合もありますが、若手従業員や海外工場、組織間の世代交代が進む中では限界があります。

ここ数年、デジタルフォーマット化やクラウド共有、AIによる仕様差異チェックなど「縫製指示書のDX(デジタルトランスフォーメーション)」が進みつつあります。
トヨタ生産方式やISOの思想を取り込んだ管理体制のもと、指示書の標準化・共有化が大手・中堅企業でも急速に広がっています。

縫製指示書に必須の記載項目一覧

では、実際の縫製指示書にはどんな項目が必要でしょうか。
現場目線で「本当に使える」要素をまとめます。

1. 基本情報

– 商品名、品番、指示書No.、作成日、作成者
– 依頼先工場名、担当者名、納期

2. 図面・パターン情報

– CADデータや手描き図面(添付ファイル/リンク含む)
– サイズ・寸法スペック表

3. 素材・副資材情報

– 生地情報(組成・番手・色番・仕上がり巾など)
– 糸、芯地、ファスナー、ボタン、ラベルなどの付属品詳細

4. 縫製仕様・製造工程

– 縫い代・仕上がり端の始末方法(ロック、三つ折り等)
– ステッチ種類・幅・糸の色、番手
– ポケットやパーツの位置・取り付け方法
– 特殊加工やオプションの仕様

5. 品質基準・検査項目

– 完成品の外観・寸法公差
– 強度・耐洗濯性等の試験基準
– 不良とみなす項目の定義(縫いずれ、糸始末等)
– 検品方法・全数/抜き取り範囲

6. 納品・梱包条件

– 納品形態(畳み方、袋詰め、段ボール梱包種類)
– 納入先・数量・運送方法

7. 注意事項・特記事項

– ロット指定や特別指示、変更履歴など

縫製指示書の作成ポイント(現場目線で伝えるコツ)

1. 「書き手のあたりまえ」は「受け手の当たり前」と限らない

ベテランバイヤーや設計者ほど、「これくらいわかるだろう」の感覚で省略しがちです。
しかし、下請や海外工場ではニュアンス違いで大きな品質ロスにつながることが多いです。
“いつ・どこで・誰が担当しても判断できる”平易で具体的な表現を心がけましょう。

2. 可能な限りビジュアル資料を活用する

昔ながらの図面だけでは製品の「立体的なイメージ」までは伝えきれません。
最近では実物サンプルの写真や、3DCADのビジュアルイメージ、短い動画なども指示書に添付する工場が増えています。
異なる言語・文化背景でも直感的に分かる資料は、現場との齟齬を大きく減らします。

3. 品質基準・NG例も画像で示す

特に重要なのは不良品の具体例です。
「このくらい縫い目がズレたらNG」「この範囲までならOK」と写真付きで明示することで、個人ごとのバラツキや主観的な解釈を抑制できます。
近年の品質トラブル分析では“NG基準の曖昧さ”が根本要因になる場合が多いです。

縫製指示書の最新テンプレート例(シンプル・現場直結型)

ここでよく使われるフォーマット例をご紹介します。
エクセルやGoogleスプレッドシートで作る場合は、以下のような構成にすると現場でも展開しやすいです。

------------------------------------------------------------------
【縫製指示書】
作成日:              指示No:
バイヤー名:           工場名:
商品名:               品番:
希望納期:

1, 図面・サンプル写真  
(添付ファイル/URL)

2, サイズ展開表
(S/M/L ... 各寸法)

3, 素材・副資材リスト  
- 表地:(組成・番手・色番)
- 裏地:
- 芯地:
- 付属品:ボタン(a) , ファスナー(b) 他

4, 縫製仕様詳細  
- 縫い代巾 1.0cm、ロック始末
- ステッチ糸:色(白),種(ポリエステル),番手(30番)
- パーツ位置:図面参照

5, 品質検査基準  
- 寸法公差 ±1cm
- 外観:汚れ・キズなし
- 糸切れ不可
- 添付“NG例”写真参照

6, 納品・梱包
- 1枚毎にOPP袋入れ、10枚で1カートン
- 納品先:〇〇物流センター

7, 特記事項
- 生地ロット指定〇〇
- カラーバリエーション有
------------------------------------------------------------------

〈ポイント〉
– スペースに余裕を持ち、各工程ごとに仕切りを明確にします。
– 添付ファイル、写真、動画などを積極的に利用し、感覚的なズレを最小化。
– 品質基準やNG例など、現場が判断に迷う点は必ず明文化・画像添付。
– バージョン管理を厳格に。

縫製指示書でよく起きるトラブル・Q&A

Q:完成サンプルがイメージと違う。なぜ?
A:多くの場合、パターン図や素材指定、サイズ表に不明点や解釈違いがあった可能性が高いです。
細部まで仕様を明記し、都度サプライヤーと事前確認を行うことで回避できます。

Q:納期遅延やクレームを防ぐには?
A:指示書と実際の製品仕様が合致しているか、チェックリスト方式で管理を徹底しましょう。
また要点ごとに「確認ポイント(✔)」を書くと、現場の見落としが減ります。

Q:仕様変更になった場合の管理は?
A:指示書の「バージョンNo.」「変更履歴」を必ず明記します。
変更点だけを別紙で追記し、関係者全員で共有しましょう。

まとめ:強い現場と信頼を生む縫製指示書づくりを

アナログからDXへの変革を迫られる日本の製造業ですが、「伝える・伝わる」技術はいつの時代も最重要です。
OEMビジネスの成否は、精度の高い縫製指示書から生まれます。
職人的な勘や経験値に頼るのではなく、誰が見ても分かる標準化された文書と記録の徹底が、強い現場とサプライチェーン全体を支えます。

本記事の内容をもとに、自社に適した縫製指示書のテンプレートと運用ルールをぜひご検討ください。
業界動向やデジタル化が進む今こそ、現場・管理職・バイヤー・サプライヤーが一体となって「標準化された実践知」を共有していくことが、グローバル競争で勝ち抜くカギとなります。

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