投稿日:2025年6月17日

翻訳しやすい和文ドキュメントの書き方・作り方と翻訳品質向上・コスト削減のポイント

はじめに:なぜ製造業で翻訳しやすい和文ドキュメントが重要か

グローバルな競争が激化する製造業において、多言語での技術文書・マニュアル整備は避けて通れない課題です。

日本の現場では、未だに昭和のアナログ的文化が根強く残っています。

しかし、海外サプライヤーや現地法人とのやり取りが増える現代では、「翻訳しやすい和文ドキュメント」の整備が企業競争力を高めるうえで大きな意味を持ちます。

きちんとした原文があれば、翻訳品質の安定化、作業コスト削減、リードタイム短縮にも直結します。

本記事では、20年以上製造現場に携わった管理職経験者の目線から、現場で実践できる翻訳しやすい和文ドキュメントの作成ノウハウと、品質・コスト両面でのメリットについて詳しく解説します。

翻訳しやすい和文とは何か

明確で一義的な表現を心がける

日本語のドキュメントは、とかく曖昧表現や冗長な言い回しが多く見られます。

例:「これを行うこと」や「適宜対応する」などは、翻訳時に意味が不明確になりやすい部分です。

指示や要件は「誰が・いつ・どのように」など、主語・時制・動作・条件を明記し、一義的な文章で記載してください。

簡潔で平易な日本語を使う

ややこしい修飾語や長い文章は、翻訳時に構造の誤読やミスを引き起こします。

一文一義を意識し、助詞や句読点も整理して下さい。

例:「〜や〜など」という省略的表現は「〜、〜または〜」など明確な並列関係に直しましょう。

専門用語・略語の定義や一覧を付記する

現場では略語や社内特有用語が飛び交います。

和文ドキュメントには必ず語句説明の一覧(グロッサリー)を付し、同じ用語は統一して使うことが重要です。

同じ部品・工程に異なる呼び方を混在させないことが、翻訳洩れや用語ブレを防ぎます。

数値や規格値は桁区切り・単位も正しく記載

数量、時間、寸法などは、3桁毎カンマ区切りを徹底し、必ず単位を明記しましょう。

国際規格・業界標準との照合において、曖昧な数字や単位落ちは致命的ミスにつながります。

よくあるミスと翻訳コスト増加の原因

「日本語なら通じる」甘えから脱却する

職場内では通じても、外部の翻訳者や海外スタッフには伝わらない日本語表現が多々存在します。

特に品質管理や調達管理の現場では、「暗黙知」が多く、一見十分に書かれているようでも新規バイヤーやサプライヤーには分かりにくいケースが散見されます。

この「つもり書き」に依存した文書では、翻訳作業が難航し、修正依頼や追加質問が頻発し、結果的に時間・コスト増加を引き起こします。

手順の曖昧さ、条件抜けが後戻り・事故の元

現場の作業手順・検査手順において、判断基準・トリガー条件が明記されていない場合、翻訳者は正しく解釈できず、誤訳につながります。

「異常時は適切に対応する」などは、具体的なアクション・参考先・責任者を補足して下さい。

曖昧な和文をもとに英語版マニュアルが作られた結果、品質トラブルや納期遅延が発生する事例は過去に何度も経験しています。

フォーマットのバラバラさが二度手間の温床に

現場で作成される文書は、担当者の流儀や部署流でバラバラになりがちです。

複数文書のフォーマット・見出し・項番の付け方が統一されていなければ、翻訳メモリ活用や効率的な翻訳作業が阻害され、コストがかさみます。

統一テンプレートを用意し、全体でドキュメント構造を揃えることが、地味ながら着実なコスト削減と品質向上につながります。

翻訳品質向上・コスト削減の実践的ポイント

レビューとフィードバックサイクルの徹底

和文原稿を作成したら、必ず複数人でのレビューを実施します。

「実際に内容を知らない第三者が読んでも理解できるか?」この視点で文書を客観的にチェックしてください。

また、過去に翻訳・配信済みのドキュメントで生じた誤解・トラブル事例を定期的に共有し、同じミスを繰り返さないPDCAサイクルを徹底しましょう。

翻訳支援ツール・テンプレートの積極活用

現在の翻訳現場では、CATツール(Computer Assisted Translation)が主流です。

これらツールは、構造化された日本語ドキュメントほど威力を発揮します。

表や箇条書き、定型的な記載ばかりでなく、セグメント単位で分かりやすく書かれた原文は、翻訳資産の蓄積と再利用にもつながり、大幅なコスト最適化が可能です。

社内教育とナレッジ共有の推進

昭和から続く「職人肌」の現場こそ、ドキュメント整備に対する教育機会が重要です。

「書き手のクセ」に依存せず、全員が一定品質の文書を策定できるよう、社内ガイドラインや研修体制を整えましょう。

購買担当・設計・生産管理・品質部門の垣根を超えた文書作成事例や、「どう書けば伝わるか」というナレッジの共有が、全体最適の第一歩です。

バイヤー・サプライヤーそれぞれの立場でのメリット

バイヤー視点のメリット

明確な和文ドキュメントを起点にすることで、海外サプライヤーへの発注・仕様伝達ミス削減が可能になり、取引トラブルや品質事故を大幅に防げます。

また、ドキュメント自体が仕様履歴として残るため、将来的なリスク管理やトレーサビリティ確保にも役立ちます。

コスト面では、和文作成段階での手間を惜しまなければ、二重翻訳や問い合わせ対応にかかる無駄なコストを削減できます。

サプライヤー視点のメリット

海外のサプライヤー、あるいは国内でも多国籍社員が増える現場では、基準が明確な和文から翻訳されたドキュメントは極めて重要です。

解釈ブレや用語統一ミスによる納入不良などのリスクを減らし、QC(品質管理)活動もスムーズになります。

さらに、「バイヤーはここまで書いてくれる」「これなら安心して受注できる」という発注先からの信頼獲得にもつながります。

サプライヤー側でもナレッジベースとして活用しやすく、担当交代や多言語展開にも柔軟に対応できます。

まとめ:グローバル時代に通用する知恵としてのドキュメント整備

製造業の現場は、技術力や設備、熟練者の技能だけで競う時代から、「いかに分かりやすく、他者に伝わるようにするか」という情報整備力が重視される時代へと移行しています。

翻訳しやすい和文ドキュメントを作ることは、単なる下流の作業効率化にとどまらず、現場トラブルの未然防止や、企業全体の競争力強化、ひいては働き方改革の推進にも直結しています。

「昭和の現場感覚」から一歩踏み出し、文書という無形資産を最大限に活用することが、これからの製造業に求められています。

現場目線の「分かりやすい文章」「みんなが迷わず使える言葉」を意識した和文ドキュメントの整備を、今日から始めてみてはいかがでしょうか。

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