投稿日:2025年6月23日

技術者のためのわかりやすい文書の書き方

技術者のためのわかりやすい文書の書き方

はじめに ~現場感覚の重要性と課題~

製造業の現場では、「わかりやすい文書」の価値がますます高まっています。

特に調達や購買、生産管理、品質管理といった分野では、
「誰にでも伝わる」文書が組織の隅々までスムーズに情報共有され、品質や納期、コストなどのパフォーマンスに直結します。

しかし実際には、
「現場用語や略語だらけで理解できない」
「伝えたい相手(バイヤーや外注先など)が迷子になる」
といった問題が依然として根強く残っています。

この課題をどう乗り越えるか、実践的なノウハウを現場目線で解説します。

なぜ製造業の文書は「わかりにくい」のか?

昭和の時代から製造業の現場で培われてきた文化には、暗黙知や身内言語が多く根付いています。

例えば、現場のメモや指示書には略称や独特の言い回しが多用され、部署ごとの「方言」のようなクセも生まれやすいです。

また、「必要だから分かるだろう」「雰囲気で察して」といった阿吽の呼吸も少なくありません。

ところが近年、経営環境の変化やグローバル化により、多様な人材や外部パートナーとの連携が必須となっています。

こうした状況下では、属人的かつ曖昧な文書はリスクでしかありません。

言葉の壁を乗り越え、業界外や新任バイヤーにも理解しやすい文書が求められています。

わかりやすい文書の「3つの黄金ルール」

1.「読み手本位」を徹底する

現場でありがちな「自分が書いて分かればOK」という発想は禁物です。

一度、バイヤーや外注先の担当者など「読む人」の立場で考えてみましょう。

– その略語や専門用語、本当に相手も理解できるか?
– 初見でも論理の流れがつかめるか?
– 前提となる知識や背景を説明しているか?

自分が知らない業界の資料を「初めて読むつもり」でチェックすると、新たな気づきが必ずあります。

2.「構造化」と「見える化」を徹底する

現代のビジネス文書では、情報の「見える化」と「構造化」が必須です。

– 長文を避けて、箇条書きや表組みを多用
– 主題(何について書くか)と補足(理由や詳細)を分ける
– H2・H3などの見出しで、全体構成を整理

これによって、一目で「どこに何が書いてあるか」が伝わります。

現場では、誰もが多忙です。
「パッと読めて本質がつかめる文書」が作れるかどうか、ここが分かれ目となります。

3.事実と意見(要望)を明確に分ける

曖昧な表現や個人的な意見が先に立つと、現場は混乱します。

例えば、
– 「遅延が発生しています」の裏に、「原因は〇〇であり、再発防止策として△△を提案します」と具体的に明記
– 「こうした方が良い」と感じたら、その根拠や事実を必ず添える
– 「担当者の主張」なのか、「現実に起きた事象」なのかを明確に分けて示す

これがあるだけで、読む人の信頼性は格段に向上します。

実践テクニック:現場で使える「文書作成の鉄則」

1.5W1Hを活用して、抜けや漏れをなくす

調達や品質管理の現場では、5W1H(いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように)を文書ごとに意識すると、伝達ミスや漏れが劇的に減ります。

例:「○月○日、A工場第3ラインにて、○○の不良が発生しました。原因は△△によるものです。再発防止として~」

点検報告書やアクションプランにも、このフレームワークが有効です。

2.「用語集」「注釈」を必ず設ける

社内外で専門用語や略語が出てくる場合は、文末や別紙で注釈・用語集を添付しましょう。

バイヤーやサプライヤーが迷わず読めるだけでなく、自分たちも後から見返して情報を正しく整理できます。

3.論理の「型」を身につける(PREP法など)

簡潔に要点を伝える際、PREP法(Point、Reason、Example、Point:要点→理由→具体例→まとめ)を取り入れます。

例:「改善提案を実施すべきです(Point)。なぜなら歩留まりロスが10%発生しており(Reason)、実際にBラインでテストした結果20%向上しました(Example)。したがって早急な展開を推奨します(Point)」

これだけで、説得力と再現性が大きく高まります。

4.「図解」「写真」「フローチャート」を積極活用

文章だけでなく、写真・図・フロー図などビジュアル要素を積極的に盛り込みましょう。

現場レベルのイメージやプロセスは、1枚のフローチャートで伝わることも多いです。

品質問題や手順説明など、必ず画像を取り入れる文化こそ「伝わる現場」と言えます。

伝わる文書づくり~こんな失敗・あるある事例~

・「仕様書」がサプライヤーに誤解されてしまった

曖昧なスペック指示や、不明瞭な検査基準で、見当違いの試作が納入されてしまうケース。

この場合も、用語や意図を噛み砕いて明記し、思い込みが生じないよう「逆チェック」(理解度の確認)が重要です。

・「現場メモ」が個人語録化している

担当者しか分からない略号や隠語が多発し、他部署や新人が全くフォローできない。

「自分だけ」に閉じない、ナレッジシェアの意識を強く持ちましょう。

・「報告書」が冗長で、要点が分からない

現場で見かける代表的なミスが「結論の先送り」と「事象の羅列」。

まず「結論」→「根拠」→「詳細」の順に論理を展開します。

この型を貫くことで、上層部や他部署でも即理解され、アクションにつながります。

デジタル時代に進化する製造業の「文書術」

昨今では、文書管理・ナレッジ共有のDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速しています。

アナログ時代、手書きメモやFAX・紙の伝票が主流だったため、情報共有に「個人差」「時差」「場所差」が必ず生じていました。

ITツールやクラウド導入によって、最新の文書や手順が誰でも瞬時に検索・閲覧できるようになると、属人化の弊害が一気に減少します。

特に中小製造業や下請の現場でも、「手書き文化からの脱却」「見える化文書」の導入が、働き方改革・事故防止・コストダウンのカギとなっています。

今こそ、「根拠が明確な文書」「自分以外にもわかる文書づくり」のマインドを現場全体で共有しましょう。

サプライヤー・バイヤーの双方を知れば、伝達の質が変わる

サプライヤーの立場では、「バイヤーが求める情報」「不安やリスク」「ネゴシエーションのポイント」をきめ細かく想像できることが強みとなります。

バイヤー経験のある現場技術者は、
– なぜバイヤーがその情報を欲しがるのか(意思決定の根拠)
– どこに責任やチェックポイントがあるか
– 社外・海外のどんな人が関わるか

こうした観点に立ち、伝えるべき内容・粒度・表現を工夫することが肝心です。

これが出来る技術者・担当者こそが、サプライヤーでもバイヤーでも「選ばれる存在」になっていきます。

まとめ~明日から始めたい、現場を変える文書術~

製造業の現場は、文書ひとつで流れが劇的に変わるものです。

自分しか分からない指示書や、専門家しか通じない「現場用語」には、今日からさよならしましょう。

– 「読み手を思いやる視点」
– 「情報の見える化、構造化」
– 「5W1H、PREP法、図解など伝わる技法」
– 「用語集・補足・注釈を用意」
– 「現場に根付く、DX時代の文書管理意識」

こうした実践的ノウハウを一歩ずつ取り入れることで、昭和式アナログ現場も必ず大きく進化します。

バイヤーとしても、サプライヤーとしても、「いちばん分かりやすい人」「一緒に仕事したい人」を目指してください。

これこそが、製造業の明日を切り拓き、現場で働く皆さん自身を確実に成長させる力になるはずです。

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