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ODM開発の成功可否を分ける“要求仕様書”の書き方

目次
ODM開発の今、なぜ「要求仕様書」が全てを決めるのか
ODM(Original Design Manufacturing)は、製造業界に革新的な進化をもたらしました。
発注側(バイヤー)のアイデアや要求を具現化し、サプライヤーが設計から製造までをトータルに請け負うこの手法は、日本国内のみならずグローバルな調達の主流となっています。
しかし、実際の現場では「思っていたモノが出てこない」「品質や性能の認識が一致しない」といったトラブルが後を絶ちません。
その最大の原因が、“要求仕様書(仕様要求書:Specification Sheet)”の曖昧さにあります。
この記事では、20年以上現場でODM案件を推進してきた管理職経験者の視点から、「要求仕様書がなぜ重要なのか」「具体的にはどう書くべきなのか」「昭和のアナログ思考からDX時代にどう飛躍するのか」を深掘りしていきます。
これからODMを活用したいバイヤー志望の方、サプライヤーとしてバイヤー心理を理解したい方、製造現場で迷いを抱える方に、現場直結のノウハウをお届けします。
ODM開発における「要求仕様書」の本質とは
仕様書が“契約書”に変わる現場
ODMでは、通常の委託製造(OEM)以上に「仕様書」が重要な意味を持ちます。
発注側=あなたの「想い」や「期待」は、製造するサプライヤーには言葉か文字・図面でしか伝わりません。
双方の認識がズレた場合、後になって手戻り・品質クレーム・納期遅延・コストアップという四重苦が発生します。
よく「図面を渡したから大丈夫」と考えがちですが、ODMの本質は“設計・開発もサプライヤーに依頼する”点にあります。
だからこそ、要求仕様(WhatやWhy)を過不足なく伝え「これができなければ契約にならない」という境界線を設ける必要があります。
現場では仕様書が実質的な契約書の役割を果たし、裁判沙汰に発展したときも証拠資料になります。
“美談”になるか“泥沼”になるか…成否を分ける分岐点
ODMで「いいサプライヤーに巡り合えた」「コストと品質が両立できた」と語れる人は、例外なく要求仕様書の扱いが巧みです。
反対に「なぜこんなはずじゃなかった」というトラブルは、80%以上が要求仕様で想定・合意・証跡を残せていなかったことに起因します。
現場責任者である私も、要求仕様への認識が甘かった時期には、何度も手戻り・事後交渉に苦しみました。
製造業は「仕様こそが全て」。
この認識をチーム全員で共有できるかが、ODM開発の成否を決めます。
要求仕様書――“昭和の常識”をどう脱却するか
未だ根強い「口頭や慣習で伝える文化」のリスク
昭和以来の日本のものづくり現場には、「言わずもがな」「いつものやり方で」といった“暗黙知”が色濃く残っています。
特に高齢ベテランの職人や中小サプライヤーでは、「阿吽の呼吸」が通用するという誤った認識が根付いています。
しかしODM、特にグローバル案件ではその常識は全く通用しません。
文化も慣習も違うパートナーと、口頭ベースや昔ながらのやり取りでプロジェクトは絶対に成功しません。
ラテラルシンキングで「伝え方の質」を高める
これからの製造業、特にODM案件では、「何を書くか」だけでなく「いかに正しく漏れなく伝えるか」が勝負の分かれ目です。
ラテラルシンキング(水平思考)を駆使し、「自社や日本人視点」に偏らず、「相手が何を知りたいか」「どのような情報なら必ず伝わるか」を考え抜くことが重要です。
部門ごとの縦割り意識もブレークスルーし、設計・品質・生産管理・購買など、関係部門の知見も総動員して仕様に反映させる。
抜けやモレが“ありえないレベル”になるまで、仕様書案を互いにレビューし合うことが、本質的な改革です。
ODM開発の要求仕様書はどう書く?現場流、実践5原則
1. “What”と“Why”を明確に分離して記載する
ODMは「こう作ってほしい(How)」ではなく、「何を実現したいか(What)」そして「なぜそれが必要か(Why)」を伝える仕事です。
例えば“耐熱性が必要”という漠然とした要求ではなく、「使用環境温度-10℃~60℃。機器が外気に晒される用途のため、高温時にも正常作動を求める」と数値・理由で明記します。
これによりサプライヤー側も、設計の自由度を確保しつつ最適案を検討できます。
2. “Must”と“Want”を区別する
すべての要求が“必須条件”とは限りません。
「これは絶対譲れない(Must)」と「できれば希望したい(Want)」を明確に分類して記載しましょう。
たとえば「塩水噴霧試験は必須(Must)、ただし耐食性クラスは応相談」「外観色は白が望ましい(Want)、優先度低」といった書き方です。
これがないと、コストや納期が無駄に増大し、“理想の独り歩き”で社内外とギクシャクしてしまいます。
3. 事例・画像・NG例で具体化する
スペック説明だけでなく、「こういう完成品を想定している」「こういう仕様や形状はNG」といった事例・画像・過去不良例なども添付しましょう。
開発側の設計者がイメージを即座に理解しやすくなり、“意図のすれ違い”を激減できます。
特に現物主義・現場目線でいうと、「百聞は一見に如かず」。
どんなに細かく文章で伝えても、ディテールの認識がズレていれば意味がありません。
4. スケジュール・承認フローも仕様書に含める
設計仕様だけでなく、「いつまでにどこまでやるか」「どのように承認・修正を進めるか」も仕様書本体に盛り込みます。
例えば「初期設計合意:〇月△日」「設計変更リミット日:〇月◇日」「承認プロセス:当社開発・品質部門でダブルチェック」など、工程ごとの責任区分まではっきり記載しましょう。
プロジェクトの遅延やトラブルの約7割は、ここが曖昧なために発生します。
5. 英語・多言語化とフォーマット統一
グローバルサプライチェーン対応として、可能な限り英語や相手国の公用語で併記するのはもはや必須です。
昭和の日本語フォーマットでは、海外サプライヤーや多国籍開発チームとの誤解を招きやすくなります。
図面や仕様欄は国際標準に寄せ、社内独自の省略記号や俗語を排除したクリアな表現に心がけましょう。
“最強仕様書”作成のために現場でできる工夫4選
1. Kick-off前に”逆レビュー”を行う
仕様書の作成後、必ず「サプライヤーがどう読み取るか」を社内外の第三者にチェックしてもらいます。
設計・品質管理・営業など、異なる立場のスタッフが読み「ここは伝わらない」「曖昧な表現がある」と指摘する逆レビューは、実践現場で絶大な効果があります。
2.不明点は徹底してQ&A化し、書面に残す
打ち合わせやメールでの質疑応答は、その都度、仕様書や添付資料に反映します。
「現場では口約束やメモが残らず、後から揉める」トラブルが多いため、“全質問・全回答を必ず書面化”して、ドキュメントに更新記録として残しましょう。
3. 仕様書のバージョン管理を徹底する
一見当たり前ですが、現場では仕様書のバージョン混同や複数ファイルの散在が多発します。
「最新版への更新履歴」「担当者・承認者履歴」「廃版仕様のアーカイブ管理」など、DXツールを活用したソース管理まで徹底するとトラブル激減につながります。
4.失敗・クレーム事例を必ず教訓化する
過去のODM案件や他社で発生した失敗・クレーム事例を集約し、失敗しないための「失敗仕様リスト」を作成しましょう。
「曖昧仕様で手戻り」「NG条件を記載しなかった」など、現場目線の“やっちゃいけない事例”を書くことで、新規案件での再発防止・属人化の抑止に役立ちます。
<まとめ> ODM開発でバイヤー・サプライヤーが両得するために
ODM開発で成否の8割は“要求仕様書の書き方”が握っています。
そのポイントは、
・設計者任せにせず、バイヤー側で「何を・なぜ」を明確に示すこと
・“伝えた”ではなく“伝わったか”をチェックすること
・美辞麗句や阿吽の呼吸に頼らず、事実・数値・画像で具体化すること
・グローバル・多部門対応を前提に、言葉・フォーマットを統一すること
にあります。
今こそ昭和時代から続くアナログな「常識」から脱却し、ラテラルシンキングで“誰にでも通じる仕様書”を目指しましょう。
それが企業強化にもなり、バイヤー・サプライヤー互いの信頼にもつながります。
実践的で確実なODM開発の第一歩を、現場から変えていきましょう。
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