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人事DX導入で人材評価が硬直化する問題

目次
人事DX導入の期待と逆説的な課題
近年、製造業界においてもデジタルトランスフォーメーション(DX)が急速に浸透しつつあります。
その中でも特に注目されているのが、人事領域におけるDX、いわゆる「人事DX」です。
これは、従来アナログで行われてきた従業員管理や評価のプロセスを、デジタル技術によって高度化しようという流れを指します。
自動化やデータ分析を導入することで、公正かつ効率的な人材評価が実現できる。
ミスやバイアスの排除、生産性の向上など、経営層からも高い期待が寄せられています。
実際、私が工場長などの管理職を経験してきた現場でも、そうした声は多く上がってきました。
しかし、その一方で新たな課題も生まれています。
「人事DX導入による人材評価の硬直化」という現象です。
これは、データや数値に基づいた評価が行き過ぎることで、現場のリアルな実態や、従業員一人ひとりの成長ポテンシャル、新しい発想力が評価されにくくなる問題を指します。
この記事では、なぜこのような逆説的課題が起きるのか、現場目線で考察しつつ、これから製造業界やバイヤーを目指す方、またサプライヤーの方にも役立つヒントを深掘りしていきます。
人事DXは何をもたらすのか?
データ主導の評価基準とは
人事DXの核は、何といっても「データ主導の公正な評価」です。
製造現場でも、勤怠データ、作業進捗、歩留まり率、不良品発生率、資格取得履歴など、あらゆる情報がデジタル化され、簡単に集計・可視化できるようになりました。
エクセルから高度なHRシステムまで、定量的なデータ・KPIに基づいた評価システムが導入され、上司や会社の気分に左右されない、人事の「透明化」「公平性」への期待は非常に高まっています。
これは日本の製造業が長年悩み続けてきた、「年功序列」や「空気を読む評価」からの脱却を目指すものです。
導入が進む背景
現場にもたらされる最大のメリットは、属人化の排除と、即時的な評価・対応です。
たとえば、購買・調達部門であれば、発注ミスやコストダウン実績などが、すぐ管理者にフィードバックされ、改善がしやすくなります。
生産現場でもスキルマップやOJT進捗を「見える化」でき、人材育成のボトルネック把握と工場全体の稼働率向上につながります。
DXによる評価の硬直化とは?
なぜ評価が「硬直化」するのか
しかし、現場目線で見ると、人事DXのデータ主義には落とし穴もあります。
特に以下のような弊害が発生しやすいです。
– 数値化できる成果以外が見落とされやすい
– システムが定義した「枠組み」から外れた特徴やチャレンジが評価されない
– 現場の温度感や細かな工夫がスコアに反映されない
– 上長や現場リーダーの「目利き力」や「育成・評価のノウハウ」が軽視される
例えば、歩留まりの数字は悪いが、難易度の高い新工程の立ち上げに奔走している担当者。
あるいは、調達の現場で相見積もりや交渉の舞台裏でサプライヤーのムードを上手くまとめたバイヤー。
こうした「目に見えにくい貢献」ほど、標準化されたシステム評価では埋もれてしまいがちです。
現場力・現場感の希薄化
特に昭和時代からの「現場理解」「暗黙知」を大切にしてきた製造業では、このギャップが顕著です。
「データ通りにやっていればそれで充分」という空気が広がると、現場の自律性・創造性・問題解決力が伸び悩む傾向があります。
さらに、「指示」「手順」通りの作業しか評価されなくなれば、自主的なカイゼン提案やイノベーションも生まれにくくなります。
ひいては、若手・中堅の成長意欲を削いだり、過剰な数値管理によるストレス増大にもつながりかねません。
ラテラルシンキングで考える、真の評価とは?
「数字+α」を見抜ける現場の知恵
ここで重要なのは、デジタル評価はあくまで「ツール」であり、最終的には現場力・人間の目利きが不可欠であるという視点です。
データは事実を示しますが、「なぜ」「どうしてその数字になったのか」というストーリーまでは語ってくれません。
たとえば、同じ数字の改善でも、地道な試行錯誤で達成した場合と、偶然の一発ラッキーで達成した場合では、内実がまるで違います。
あるいは、数値化できない「気づき」「段取り力」「他者との連携」といったソフトスキルも、現場にはたくさん埋もれています。
こうした「数字だけでは測れない貢献」をきちんと評価するためには、数字+αとして現場での振り返りや、本人との面談、チーム内での共有が欠かせません。
新旧ミックスで創出される価値
人事評価でもっとも重要なのは、「データの公平性」と「現場の温度感」を両立させることです。
定量評価と定性評価のバランス。
システムによるスピードと効率、そして人による“内容の深堀り”や“真意の組み取り”を融合させる視点は、今後ますます重要になります。
特に昭和から続く製造業の現場では、ベテランの職人の「肌感覚」「段取り力」と、若手がもたらす「データカルチャー」をうまくミックスすることで、DXの果実を最大限引き出すことができるのです。
製造業のバイヤー・サプライヤーに伝えたいこと
バイヤーを目指す人へのアドバイス
人事DX時代、バイヤーとして求められる力は、単なる「数値管理力」や「価格交渉力」だけではありません。
サプライヤーと自社工場の間で火花が散るような現場調整、現地現物での判断、コスト以外の“付加価値”や“リスクヘッジ”など、定量化しにくい部分にこそ腕の見せ所があります。
評価はシステムでつくるのではなく、自分でつくる——。
そのためには、現場の声をよく聴き、相手企業の社風や困りごと、その裏にある“人の思い”を感じ取りましょう。
そして、その努力や気配りを、上長や社内の評価ステージで「見える化」して伝えることも大切です。
サプライヤーの立ち位置でバイヤーを理解する
逆にサプライヤー側の方は、「バイヤーが今何を求め、なぜ現場で細かいことまで気にするのか」を知ることが、長期的信頼を得るカギです。
バイヤーもKPIやデータ評価に縛られがちな中、サプライヤー側が一歩先を見て「安心できる説明」「現場改善の見える化」を進めると、新たな信頼が築かれるでしょう。
たとえば、納期や品質管理のトラブルについて予防策を自発的に提示したり、困っている点をヒアリングして寄り添う——こうした一歩先の行動は、数字だけでは測れない“頼れるパートナー”という評価につながります。
人事DXの現場活用で忘れてはいけないこと
現場主導のDX推進
どんなに人事システムを高度化しても、現場の真の活躍や隠れた工夫、やる気や創意工夫は「ひと」によって生み出されます。
人事DXは「よりよい現場づくり」のパートナーです。
それを使いこなす最後のポイントは、「現場主導」で活用のしかたを工夫していくことなのです。
上から降ってきたシステムをそのまま使うのではなく、従来の現場力や人のつながり、昭和から続くアナログ的なケアの文化も、しっかり残す意識が大切です。
ラストワンマイルの力量が未来を変える
「データ」と「人」の融合、「システム」と「現場知恵」のミックスは、まさにラテラルシンキングの発想です。
現場で感じた違和感、目の前の人の変化、小さな気づきにアンテナを張る。
こうした積み重ねこそが、昭和の頃から続く「製造現場力」の本質ではないでしょうか。
AIやDXが進んでも、最後に現場を動かすのは“ひと”。
人事DX導入で変わるもの・変わらないもの、両方の価値を見据えつつ、柔軟な評価軸と現場の知恵で、これからの製造業を一緒に支えていきましょう。