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人事DXが管理職の負担を増やす皮肉

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人事DXが管理職の負担を増やす皮肉
人事のデジタルトランスフォーメーション(人事DX)は、今や大手製造業を中心に急速に浸透しつつあります。
「DX」と聞くと、業務効率化や働き方改革の切り札と期待する人も多いでしょう。
しかし、昭和から続く現場目線やアナログな組織風土が残る製造業において、人事DXは時に管理職の負担を増やしてしまうという皮肉な現象が起きています。
この記事では、なぜ人事DXが期待通りの効率化をもたらさず、逆に現場の管理職に負荷をかけてしまうのか。
その現実を、20年以上の製造業現場経験者として、実例や背景を交えて深く掘り下げ、今後の製造業発展へのヒントを提案します。
人事DXとは何か:現場に根付くその実態
人事DXとは
人事DXとは、人事業務や労務管理、評価、人材育成など、従来は紙やエクセル、ハンコに頼っていた人事部門のあらゆる活動を、デジタル化およびクラウド化し、データ活用で意思決定の精度を上げようとする取り組みのことです。
例えば、勤怠管理やシフト作成、評価・昇進のプロセス、社内教育などが、各種システムやSaaSツールに置き換えられます。
近年はAI活用やパーソナライズされたキャリアパス設計、従業員コンディションの見える化も進み、国も後押ししています。
製造業への導入と現場のリアル
大手メーカーでは、グループ全社一括の人事システムへの切り替えや、現場組織との連携プラットフォームの導入が進行中です。
しかし、工場現場では「業務のためにシステムを使う」のでなく、「システムのために業務を調整する」場面が急増。
現場を取り仕切る管理職は、従来業務と新たなシステム対応の両立を迫られています。
この状況が新たなストレスとなり、DX疲労とも呼べる現象を招いているのです。
なぜ管理職の負担が増えてしまうのか
昭和アナログ文化から抜け切れない現場
日本の製造業、とくに伝統ある大手工場では、根強いアナログ文化が今も色濃く残っています。
たとえば、紙の帳票へのサイン、手書きの日報、現場の「阿吽の呼吸」による調整、職人技の暗黙知など。
これらは現場独自の知恵として機能してきましたが、デジタル化にはそぐわない部分も多く見られます。
新システム導入時に、「これまでのやり方」に固執するメンバーが抵抗を示し、現場責任者や課長、職長クラスがその説得や教育係を任されがちです。
システム導入に伴う管理職の新たな役割
人事DXを推進する本社人事部や情報システム部は、現場の細かな事情を理解しきれていません。
その調整役として管理職に「現場はどう回しているのか?」「このシステムだとどんな問題が起きそうか?」「誰をどの研修に参加させるか?」など、膨大な確認や提案が一気に押し寄せます。
また、従来は現場の「目利き」で行っていた評価や人材育成が、システム入力のルール化により、個別対応や例外処理が難しくなることで、トラブルや社員の不満と向き合う時間も増加。
システムによる「効率化」の恩恵よりも、運用の複雑化による「調整業務」の負担が目立っているというわけです。
「ダブルワーク化」する管理職
人事DX導入当初、「データ入力や管理業務は簡素化されます」と謳われることが多いです。
しかし、実態は「従来の書類提出」+「システム入力」の二重作業を強いられたり、部下に使い方を教えるためのマニュアル作成や時間が発生したりと、まさにダブルワーク状態。
本来の役割である「現場のモチベーション維持」「品質・納期・安全管理」に集中できなくなり、疲弊していく管理職が増えているのです。
人事DX推進と現場のギャップがもたらす課題
「使われないシステム」「形骸化」リスク
せっかく高額なコストをかけて導入した人事DXシステムが、現場では「とりあえず入力だけ」「本来の利活用には至らない」ケースが後を絶ちません。
理由は、「現場の実情に合っていない」「システム独特の用語が分からない」「業務フローが合致しない」など。
管理職は自分のラインの仕事の進め方を犠牲にしつつ、本社の意向で「やらされ感」で導入を進めなくてはならないのです。
若手とベテランのITスキル格差への対応
製造現場では、若手や中途社員はスマホやPCリテラシーに長けている傾向があります。
一方、長年勤めるベテラン職人やパートスタッフは、パソコンそのものが苦手という人も多数。
管理職はその中間となり、個別に「使い方教えて」と呼ばれたり、現場全体をケアしながらシステム運用を責任を持つことになり、精神的・時間的な負担が想像以上に重くなっています。
個別事情を尊重できなくなり現場の士気低下
人事システムのルールが強化されると、労働時間管理や勤務シフト、評価や処遇といった「人間的な配慮」や「現場独自のノウハウ」を反映しにくくなる場合が増えます。
帳尻合わせや暗黙の了解で凌いでいた部分を説明・調整し直さなければならず、結果として不平不満・納得感の低下を招きます。
こうしたささやかな「現場の裁量」が、システムによって奪われ、管理職へのクレームが増える、という悪循環が多くの工場で見受けられます。
DX成功の鍵は「現場視点」と「段階的ステップ」
本部システム部と現場リーダーの距離が課題
人事DXを成功に導くためには、本社主導の一方通行だけではなく、現場管理職やリーダー層が積極的に参画し、「現実的な運用設計」を議論することが不可欠です。
現行フローや現場ルールの棚卸し、その上で現場特有の例外をどう吸収できるか、現場ヒアリングを重ねていくべきです。
これは「現場任せ」ではなく、「現場から生まれるリアルな知見をDXに組み込む」ための協働的姿勢が求められます。
中間管理職への教育とサポートの充実
人事DX導入において最も重要なプレイヤーは管理職です。
ここに対して、「ITスキルを鍛えろ」と突き放すのではなく、「現場リーダー育成プログラム」「社内ヘルプデスク」「OJTやチューター制度」など実践的なサポート体制を整えましょう。
評価やフィードバックも、「システム導入成功」だけを軸とせず、「現場運用への貢献度」「組織の心理的安全性確保」も取り入れるべきです。
小さく始めて、段階的に慣れていく
一気に人事DXを全面展開するのではなく、まずはモデルケースとなる部署や工場ラインで「小さく始める」ことが重要です。
現場目線でのフィードバックを受け、必要ならシステムの一部カスタマイズやルール設定の見直しを柔軟に行いましょう。
こうすることで、現場管理職の「やらされ感」が減り、主体的なDX推進に繋がります。
また、段階的に拡大していくことで、失敗した際のリスクもコントロールしやすくなります。
人事DXと業界の変革―管理職の未来像を描く
「システムを使いこなす管理職」から「現場の知恵とITの橋渡し役」へ
昭和的な現場文化には、確かに効率が悪く見える側面もありますが、人間の機微やものづくりの心、培われた現場ノウハウは無視できない価値です。
これからの管理職は、「人事DXという新しい道具」を単に“使える”こと以上に、「現場の知見を生かし、システムへ橋渡しする」「人とITの両面をつなぐ触媒」としての役割が問われます。
デジタル時代を迎えた製造現場の現実に直面できる管理職こそが、産業発展のキープレイヤーになるのです。
「人事DX疲労」を乗り越えるメンタルケアとコミュニケーション
人事DXによる負担が増えがちな今こそ、管理職自身が心身のセルフケアを意識し、抱え込まずに助けを求める土壌づくりが必要です。
現場・本社・IT部門・一人ひとりの従業員を繋ぐ、「対話」と「傾聴」がこれまで以上に求められます。
サプライヤーやバイヤーにも影響する人事DXの波
人事DXの波は、バイヤーやサプライヤーにも間接的な影響を及ぼします。
現場管理職の負担増によるコミュニケーションの質低下や、調整遅延が発生すれば、川上・川下のパートナーにもマイナスのインパクトが広がります。
逆に、DXをうまく回す現場の管理職が増えれば、取引先との連携精度や協業のスピード感が上がり、業界全体の競争力が高まるでしょう。
まとめ
人事DXは、効率化や高度化を目指す現代製造業には不可欠の進化ですが、昭和から続くアナログ文化が色濃く残る現場では、導入が逆に管理職の負担を増やすという皮肉が生じています。
現場目線を持たない「システム優先」の進め方には落とし穴が多く、管理職の役割や現場のリアルを重視した“段階的・双方向的なDX”が不可欠です。
「人事DXは管理職の仕事の質も量も変える」。
だからこそ、管理職自身もただの“システムユーザー”から一歩進み、「現場とITの懸け橋」としてアップデートしていく姿勢が、これからの製造業の勝ち筋となります。
製造業全体が昭和から令和への「現場力×IT力」のハイブリッド革新へと舵を切れるよう、まずは目の前の現場DXを、皆で一歩・一歩積み上げていきましょう。