投稿日:2025年6月28日

認知感性ストレス評価で製品魅力度を高める人間中心設計

はじめに:ものづくりの本質と現場の課題

現代の製造業において、製品の性能やスペックだけでは差別化が難しくなっています。
グローバルな競争激化や市場の成熟化、さらにはコモディティ化が進行する今、「どれだけ使いやすく魅力的な製品を作れるか」が勝敗を分ける時代になりました。
製品の魅力度、すなわち「この製品を手にしたい・使ってみたい」と感じてもらえるかどうかが企業の命運を握るといっても過言ではありません。

では、製品の魅力度をどのように高めていくべきでしょうか。
カタログスペックを追うことやコストダウン競争だけでは、やがて限界を迎えます。
今必要なのは、「人間中心設計(HCD)」の視点、すなわち“人”の認知、感性、ストレスといった目に見えにくい部分にまで踏み込んだ設計アプローチです。

今回の記事では、長年現場で磨いた視点から、認知感性ストレス評価を軸に、なぜ今“人間中心設計”が不可欠なのか、実践的なプロセスや取り組みポイントについて深堀りします。
特に昭和から続くアナログ文化が根付いた業界体質にも言及し、調達・バイヤー、サプライヤー双方にとって役立つ視点でまとめていきます。

人間中心設計(HCD)とは何か?

従来の開発手法との違い

人間中心設計(Human Centered Design:HCD)は、ユーザーが実際にどのように製品と接するか、その心理・行動・感性に着目して設計を進める考え方です。
従来の製造業では、「技術ありき・コストありき・工程ありき」で設計が進み、現場のベテランや設計者の経験に頼る部分が多くありました。
しかしこれでは“売れる製品・使われる製品”につながりにくい。
HCDはユーザーの立場から製品の使い勝手や体験価値、ストレス、満足度など多角的に評価し、そのフィードバックをダイレクトに製品設計に活かします。

なぜHCDが不可欠なのか

少子高齢化、労働人口の減少、グローバル市場への展開を考えれば、「他社と違う独自のユーザー体験」を生みだし魅力度を高めることが絶対条件です。
またIoTやAI、DXの推進によって「データ」が取れる時代ですが、“数字だけでわからない本質”を炙り出すのがHCDの強みです。

たとえば、単なる操作性テストやアンケートだけで見過ごされがちな「なんとなく使いづらい」「思わず間違えてしまう」「使うと気疲れする」という微妙なストレスや負の感情こそ、ユーザーが本当に不満に感じている部分です。
この部分を科学的・定量的に評価し、製品にフィードバックできるかどうかがこれからの勝敗の分かれ目です。

認知感性ストレス評価の重要性

認知・感性・ストレスとは何か

・認知:ユーザーが製品やサービスを理解し、操作し、適切に使えるかどうか
・感性:使ってみた時に感じる楽しさ・心地よさ・美しさ・“ワクワク感”など情緒的価値
・ストレス:使いづらさ・分かりにくさ・失敗しやすさ・心理的負担などの負の体験

これら“ユーザーの心の動き”を評価せずに、真の製品魅力度向上はありえません。

アナログ的現場の実態とその課題

現場は数々のアナログ評価(目視チェック・現場の勘・不具合事例の蓄積など)に頼る文化が根強く残っています。
設計や生産の“美意識”や“熟練技”に依存する部分も多く、定量的な感性評価やストレス測定はまだ発展途上です。
「結局は経験がものをいう」「数字では測れない」といった空気感もあります。
これを打破するには、“感性的価値”を科学の力で“見える化”し、その結果をどれだけ現場に落とし込めるかがカギとなります。

認知感性ストレス評価の主な手法

1. ユーザビリティテスト・行動観察

実際のユーザーや代理ユーザーに製品を使ってもらい、その行動や表情、つぶやき、操作の失敗頻度を細かく分析します。
ここで重要なのは「なぜ間違えたのか」「何に戸惑ったのか」を深堀りすることです。
使い方に迷いが出る場面やストレスを感じた瞬間を現場で一つ残らず拾い上げ、設計に反映します。

2. 感性工学評価

アンケートや官能評価だけでなく、脳波や心拍変動、視線計測といった生体情報、さらにはAI分析を用いた感情推定など、多角的な技術を組み合わせます。
例えば、色・形状・手触り・重量感といった五感に訴える部分の評価に使います。
「ただの型取り」ではなく、“快・不快”や“ワクワク感”など、潜在的な心理面を数字やグラフで“見える化”していきます。

3. ストレス評価・人間工学的アプローチ

作業時の筋電計測や作業負荷分析、ワークフロー全体のストレスポイント洗い出し、作業導線のシミュレーションなどを実施します。
特に製造現場での運用や保全における「心理的・肉体的なストレス源」を客観的に特定できれば、“使われ続ける”製品に進化させることができます。

4. サブリミナル分析・深層インタビュー

ユーザー自身も気づいていない「深層心理」や「購買モチベーション」を見極めるために、サブリミナル刺激を応用した実験、潜在意識を引き出すインタビュー技術なども活用します。
特にBtoB領域では購買担当者・現場作業者・発注部署など“異なる立場の声”を総合的に集めて評価する必要があります。

人間中心設計と現場力の融合:実践への落とし込み

アナログ魂×デジタルの相乗効果を生むには

昭和からの“現場重視”の美徳も、適切に活かせば大きな力になります。
たとえば、ベテラン職人の違和感や過去のトラブル経験からヒントを得て、データ主導型の感性分析と組み合わせる、といった使い方です。
「データ」も「経験」も両輪として尊重し、現場で納得感を生むプロセス設計が求められます。

現場主導のPDCAサイクルへの組み込み

開発現場では、下記のようなステップで認知感性評価→設計反映→再評価のサイクルをまわします。
1. 新製品設計時に“魅力度評価”を必須評価項目として設定
2. 初期プロトに対し、現場のベテラン&ユーザーでユーザビリティテストを実施
3. ストレス・感性情報のデータ化、問題点を設計部門で可視化・分析
4. 課題改善後、再度現場&ユーザーテストで検証
5. 全部門でレビューし「人間中心設計プロセス」の定着をはかる

このプロセス自体も“使いやすい仕組み”として随時チューニングしていきます。

バイヤー・サプライヤーの実践的な連携

バイヤーは、これまでの単なるコストや品質評価から一歩進め、サプライヤーに対して「認知感性ストレス評価の観点での提案力」「現場での使われ方に根ざしたシナリオ設計力」を求める時代になりました。
サプライヤーも、ユーザーに近い現場の“生の声”やベンチマーク事例、簡易な感性評価フレーム(事例集、チェックリスト、評価ツールなど)を用意することで、差別化を図ることができます。

人間中心設計で未来を切り拓くための提言

(1)小さな“違和感”に着目する

現場の「あれ?」「ちょっとやりづらい」「なんとなく選ばれない」といった小さなマイナスに敏感になることが、人間中心設計の第一歩です。

(2)“製品を使う現場”での評価こそ最重要

設計部門だけでなく、生産・保全・調達・作業現場まで巻き込んで、リアルな使い方・評価を徹底しましょう。
定量評価だけでなく、現場のナラティブ(ストーリー)も大切に。

(3)“魅力度”を定量・定性両面で指標化しよう

結果だけでなく、そこに至るプロセス・体験にも価値があります。
定性+定量の両側面で評価指標をつくり、レビューと改善を仕組み化しましょう。

まとめ:令和時代のものづくりに不可欠な視点

製品の魅力度を高めるカギは、「人の認知・感性・ストレスへの科学的アプローチ」と、「現場・経験知の相乗効果」にあります。
人間中心設計を基盤に据え、現場文化と最先端の感性評価技術を組み合わせることで、単なる製造物ではなく“人の心を動かすプロダクト”を創出できます。

バイヤー・サプライヤー・生産現場の誰もが当事者として、“使う人”の視点に立った取り組みを進めることで、今までにない新たな価値と競争力を生み出すでしょう。

これからの製造業を真に変革できるのは、「人をわかる技術」と「現場に根づく知恵」の融合――つまり、認知感性ストレス評価で製品魅力度を高める人間中心設計なのです。

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