投稿日:2025年9月12日

現地生産と日本部品輸入を組み合わせたハイブリッド調達戦略

はじめに:製造業における新しい調達の潮流

製造業は時代とともに大きな変革を迎えています。

グローバル競争の激化、サプライチェーンの多様化、地政学リスクの高まりなど、多くの事業環境変化が起こっています。

これまで、部品や原材料の調達は「コスト最重視」や「安定供給」を軸に、オフショアリングや現地化、いわゆるローカリゼーションが進められてきました。

その流れの中で、改めて注目されているのが、「現地生産」と「日本部品輸入」を組み合わせたハイブリッド型の調達戦略です。

この記事では、実際の現場知見をもとに、この戦略の魅力や実務面でのポイント、従来型調達との違い、また今後の業界動向について具体的かつ実践的に解説します。

なぜハイブリッド調達戦略が注目されるのか

1. グローバルサプライチェーンの混乱

近年の新型コロナウイルス感染症のパンデミック、米中貿易摩擦、ウクライナ危機などにより、製造業のグローバルサプライチェーンが大きく揺らぎました。

日本国内では、多くの企業が現地生産のみ、または現地調達化に大きく舵を切りましたが、一方で「現地だけでは安定供給できない」「日本品質の担保が難しい」との課題も表面化しました。

このような中、現地での調達に加えて重要部品は日本から輸出するというハイブリッド調達は、柔軟性・信頼性という両方の観点で再評価されています。

2. 供給リスク分散とコスト低減のバランス

調達購買部門としては、コストダウンは永遠のテーマです。

ただし、それ以上に大きな問題が「安定供給」です。

ひとたびサプライヤー側のトラブル(品質不良・納期遅延・自然災害など)が発生すれば、たちまち工場全体の生産が止まるリスクがあります。

現地生産によるコスト競争力、そして日本部品をバックアップ資源として利用することで、この2つのリスクを適切にコントロールすることがハイブリッド調達の絶妙な強みです。

3. 日本品質の維持・顧客要求への対応

日本製部品は依然として「高品質」「高信頼性」のブランドを持っています。

グローバル市場では、日本品質への信頼が根強く、これが最終製品の差別化にもつながります。

すべて現地調達に切り替えることは容易ではなく、逆に「ここだけは絶対日本製」といった戦略的な調達ミックスこそが、ものづくり企業の競争力維持にとって最良の選択肢となりつつあります。

ハイブリッド調達の実態とメリット

1. サプライチェーンのレジリエンス強化

単一調達ルートのリスクを分散することで、供給網全体のレジリエンスが高まります。

日本からの部品輸入は現地調達が滞ったときの“命綱”となりえますし、逆に現地サプライヤーネットワークを持つことで、物流混乱時の措置も柔軟に取れるようになります。

特にアジア新興国では、「Aパターン:現地調達」「Bパターン:日本部品」「Cパターン:現地+日本のミックス」と選択肢を広げておくことが、災害やパンデミック時のリスクヘッジとして有効です。

2. コスト競争力の最大化

生産コストだけに目を向けず、“トータルコスト”で調達戦略を練ることが重要です。

たとえば現地調達ではサプライヤー管理コスト・品質保証コストが発生します。

慎重なパーツは日本品質で、その他消耗部品や非核心部品は現地調達にすることで、合理的なコストカットが実現します。

この“最適配分”は、昭和から続く「全部日本から送れば安全」という思考から抜け出せない企業にも一石を投じています。

3. ローカル調達と国内部品供給を組み合わせるノウハウ構築

現地部材と日本部品を組み合わせるということは、サプライヤー認定・ロット管理・納期コントロールなど、複雑なオペレーションが伴います。

JIT(ジャスト・イン・タイム)の考えも取り入れながら、「現地購買」の強化と「国内資源の活用」を相乗効果的に最適化する必要があります。

これは従来型のシングル調達とは異なり、業界として横断的な知見が蓄積されるポイントとなります。

日本本社の設計・購買担当者、現地法人の調達担当、そしてサプライヤー同士の連携力が強化され、結果として“現場力”が格段にレベルアップします。

実務担当者が押さえておきたい現場目線の課題と解決策

1. 現地サプライヤー管理・指導のポイント

現地サプライヤーの品質水準をいかに日本基準に引き上げるかは、最も頭を悩ませる部分です。

現地スタッフとの信頼関係構築、現場密着型の教育(QC活動、標準作業教育)、そして日本側サプライヤーも巻き込んだ共同改善などが必要です。

特に“現場合意”が多い文化圏では、日本式のマニュアルを一方的に押し付けるのではなく、なぜその品質基準が必要なのかを理解してもらう現場コミュニケーションこそが重要になります。

2. ロジスティクス・在庫管理の最適化

部品を日本から輸入する場合、リードタイム・輸送コスト・現地到着までの在庫確保が課題となります。

災害や港湾ストライキなど予期せぬ事態が発生する可能性もあるため、納期の見える化、緊急対応プロセスの事前設計(セーフティストックや航空便手配の体制構築)が不可欠です。

近年はITを活用した「調達トレーサビリティシステム」やMES(製造実行システム)も普及しています。

これらデジタルツールを使いこなす力が、昭和から続くアナログ型製造業の競争力維持に直結しています。

3. 法規制対応と越境調達の壁

各国の法規制(RoHSやREACHなど環境規制、原産地証明、税制)も、現場調達担当者にとっては頭の痛い問題です。

すべて現地任せにせず、日本本社も巻き込んだ法規情報のキャッチアップ、グローバル調達基準の策定が必要です。

また、為替リスクのヘッジ手法、通関関連ドキュメントの最新化、現地パートナーとの業界団体への参加なども合わせて強化しましょう。

サプライヤー・バイヤーの「本音」と将来像

バイヤー側の本音:戦略的な“賢い調達”へ

バイヤーとしてはコスト・リスク・品質をすべてバランスよく確保したい、というのが本音です。

従来の「安いから現地」「安心だから国内」ではなく、両方の長所をミックスできる戦略的・動的な調達力が問われます。

これからの時代は「現地ベンダーの発掘力」「日本品質維持のノウハウ」「デジタル活用」といったスキルが求められてきます。

逆に、変化への対応力(VUCA対応)が弱い調達・購買部門は業界内で埋もれていく可能性が高まります。

サプライヤー側の本音:バイヤーの“困りごと”を理解する

サプライヤー、特に日本国内メーカーの立場からすると「なぜ現地調達をするのか」「どうしたら日本部品が選ばれるか」という視点も重要です。

バイヤー側の事情(コスト要求・現地生産比率の増加・CSRへの対応など)を理解することで、「頼られるサプライヤー」としての信頼を獲得しやすくなります。

また、現地法人との技術協力や現地でのサービス体制強化、ローカル法規制へのきめ細かな対応能力も差別化要素となります。

国境を越えた“ものづくり力”の共同進化が、サプライヤーにも新しいチャンスを生み出しています。

まとめ:これからの製造業を強くするハイブリッド調達の力

現地生産と日本部品輸入を組み合わせたハイブリッド調達戦略は、今や業界標準の一つになりつつあります。

変化の時代に即した柔軟な調達力こそが、工場や製造現場の競争力を本質的に底上げします。

現場の調達バイヤーも、サプライヤーも、単なる「部品運び屋」や「下請け」ではなく、サプライチェーン全体を“戦略的に設計し直す役割”を担っているのです。

日本の製造業が世界で戦うためには、従来型のアナログ思考から脱却し、デジタル・サステナビリティ・リスク分散の全てを融合させたハイブリッド型の知見を現場目線で共有し合うことが不可欠です。

「最適な調達戦略」は、時代とともに変化します。

これからも、現場と経営の両輪をフルに回して、持続的発展を目指していきましょう。

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