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シルク印刷における露光不足と露光過多がプリント精度に与える影響

目次
シルク印刷における露光不足と露光過多がプリント精度に与える影響
シルク印刷は、数ある印刷技法の中でも長きに渡り工業用途からアート、ファッション業界に至るまで広く利用されてきた重要な技術です。
その高い汎用性と柔軟性により、多品種少量生産に最適ともいえるシルク印刷ですが、その品質を大きく左右する要素のひとつが「露光工程」に他なりません。
本記事では、現場目線の実践的なノウハウと、実際に起こりやすい露光トラブルの傾向、最新の業界動向も交えて、露光不足および露光過多がプリント精度に及ぼす影響について解説します。
シルク印刷における露光工程の意義
露光とは何か?その基本的な役割
シルク印刷の露光工程とは、感光乳剤が塗布されたスクリーン版に対し、版下フィルム(ポジフィルム)を密着させ、UVなどの光をあてるプロセスを指します。
これによりフィルムで遮光された部分は感光せず、むき出し部分のみ感光乳剤が硬化します。
現像で未硬化部分を洗い流すことで、印刷インクを通す孔(柄やロゴ)が形成されます。
この「露光の適切な管理」がシルク印刷の仕上がりに直結します。
精度に直結する“露光時間”の重要性
露光時間が短すぎれば、十分に硬化していない乳剤がはがれ落ちやすく、長すぎれば通孔部分にも硬化が及び、デザインがつぶれやすくなります。
毎回決まった秒数で露光すれば良いわけではなく、乳剤の厚みや種類、照射する光源の波長や強度、温湿度、現場ごとの設備差など多くの変動要素が絡みます。
このため、職人の“勘”と経験がものをいう領域であり、“見える化”が難しい部分でもあるのです。
露光不足がプリント精度に与える具体的な影響
抜け落ち、にじみ、耐刷性低下
印刷現場で起こりやすい露光不足の症状には、以下があげられます。
– 印刷中に乳剤膜の一部がはがれてしまい、余計な箇所にインクが通ってしまう
– フィルムで隠されていないはずの部分までインクがにじみ出る
– 連続刷りの中ですぐに図柄が崩れる
露光不足で硬化が不十分な乳剤は現像や洗浄時に剥離しやすく、そもそもの版が持つ“図柄再現性”が著しく低下します。
また、工場によっては自動露光装置を導入せず、手動のまま年間何千枚とこなす現場も少なくありません。
現場の“スピード重視”の風潮や、乳剤の節約意識から露光を時短することが習慣化してしまい、慢性的な品質トラブルを招くケースもあります。
細線や細かなドットの再現性低下
細かいパターン、大きな面積でシャープな抜きが必要な際には特に露光不足が表面化します。
隣り合う部分との境界線がぼやけてインクが数ミリ単位で広がり、意図しない太さになったり、ドットがつながるといった現象に直結します。
とくに回路基板用や化粧品パッケージのような高精細印刷では、この影響が致命的となります。
露光過多がプリント精度に与える具体的な影響
中抜け・パターンの潰れ・再現されない細部
一方で露光過多となると、フィルムで遮光されている部分までも光が回り込んで感光が起こり、意図しない部分まで乳剤が硬化します。
その結果、設計された絵柄の抜き部分(インク通過部)が部分的もしくは全体的に“閉じて”しまい、プリント時のインク抜けが悪くなる現象が発生します。
– 細かい網点やヘアラインのような繊細なパターンがつぶれる
– 本来通るはずのインクがブロックされ、かすれや欠けが生じる
– 寿命を迎える前に版が使い物にならなくなる
といった現象です。
乳剤・版材のロス増大とコストの無駄
露光が過剰となった版は、当然ながら所定のパターン精度で繰り返し使用できません。
僅か数回で再製作となり、乳剤や版材、工数も浪費されます。
特に近年のように原材料高騰、人手不足、失敗がコストに直結する体制下では、露光過多トラブルの発生そのものが工場の収益を大きく損なうことは想像に難くありません。
昭和的な“勘と経験”から脱却するために
アナログからデジタルへの進化、露光の「見える化」
多くの工場で「勘と経験」の伝承が限界を迎え、技術伝承・人材確保に課題が生じています。
昨今では露光時間・光量を高精度にコントロールできる自動露光機の普及や、感光乳剤も「短時間で安定硬化」「環境・温湿度に依存しにくい新素材」の研究開発が進んでいます。
露光完了後の網点・エッジ精度を画像解析で自動判定し、Dan(合格/不適)のデータを蓄積して工程管理するメーカーも増えています。
この「見える化」とトレーサビリティの導入こそ、昭和型現場から抜け出してグローバルでも戦える“安定品質”獲得のカギとなります。
現場教育の変革、業務フローの標準化
人の感覚頼りの業務から脱却するには、工程ごと・品種ごと・乳剤種類や環境要素ごとに「最適露光条件」をデータとして蓄積し、ナレッジ化することが大切です。
そのデータを基に作業標準を定め、条件ごとのセットアップやチェックリスト導入を徹底することで属人性を減らすことができます。
新人でも「データに基づいて露光設定し、客観的に版の出来を判定する」文化が根付けば、トラブルの予防やロス削減に直結します。
バイヤー・サプライヤー双方が知るべきポイント
購買担当が気をつけるべきは「検査体制」と「現場の標準化」
バイヤーの立場として、下請けサプライヤー選定時には「露光に関する工程管理」「スペックを満たす検査・検証体制」「再現性や安定した抜き品質への対応力」に注目しなければなりません。
単なる価格や納期優先でなく、「ヒューマンエラーが出ないオペレーション」や「工程のデジタル管理ノウハウ」の有無まで確実にヒアリングしましょう。
サプライヤー側は、“提案型”営業・品質マネジメントが競争力に
受注を獲得する際、単なる製造受け身姿勢から脱却し、あらかじめ「乳剤選定・露光条件ごとのテスト結果」「標準化への取り組み」「トラブル事例と改善データ」などを開示・提案することで、信頼感と独自の強みを訴求できます。
とくに海外案件や自動車・エレクトロニクス系の高付加価値領域では、工程可視化・改善事例のストックが国際的水準で問われる時代に入りつつあります。
まとめ:印刷精度の未来を切り拓くために
シルク印刷における露光不足・過多の管理は、一見すると極めて単純なようで実は奥が深く、昭和の時代から現代に至るまで“現場力”が問われる核心プロセスです。
今後はアナログの強みを活かしつつ、デジタル要素と融合させた新しい現場マネジメントで、バイヤーとサプライヤー双方の信頼と競争力を高めることが重要です。
露光工程の最適化と工程管理の改革により、より高付加価値な製品づくりの未来を切り拓いていきましょう。
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