投稿日:2025年10月7日

スマートフォンケースの耐衝撃性を生む射出圧と樹脂配合比の最適化

はじめに:スマートフォンケースの耐衝撃性とは

スマートフォンは、私たちの日常生活に欠かせない存在です。
そのため、スマートフォンを守るためのケースに求められる最も重要な性能のひとつが「耐衝撃性」です。

耐衝撃性とは、外部からの物理的な衝撃や落下に対して、スマートフォンを保護する能力を指しています。
この性能を決定づけるのは、単なる素材の選択だけではありません。
製造工程で用いる射出圧や樹脂の配合比率といった条件が、製品の耐久性や品質に大きく関わっています。

今回は、長年製造業の現場で積み重ねてきた実践的な知識をもとに、スマートフォンケースの耐衝撃性を高める「射出圧」と「樹脂配合比」の最適化について、現場目線でわかりやすく解説します。

耐衝撃性の基本:なぜ射出圧と樹脂配合比がカギになるのか

スマートフォンケースは一般的にプラスチック射出成形で作られます。
この工程では、樹脂ペレットを溶融して金型へ高圧で射出し、形作ります。

ここで耐衝撃性に大きく影響する要素が2つあります。
「射出圧」と「樹脂配合比」です。

射出圧の役割

射出圧は、樹脂を金型に押し込む力です。
十分な圧力がなければ細部まで樹脂が行き渡らず、内部に気泡や空洞が発生しやすくなります。

これが構造不良の原因となり、外部からの衝撃で割れたり破損しやすくなります。
逆に射出圧が高すぎると、内部応力や歪みを生じ、長期的にはクラック(ひび割れ)などにつながるリスクもあります。

したがって、射出圧は「高すぎず・低すぎず」、製品設計・樹脂特性・金型設計に合わせて最適な値に制御することが大切です。

樹脂配合比の重要性

射出成形で使われる樹脂は、単一素材ではなく複数種を「配合」して用いる場合が多いです。
例えば、ポリカーボネート(PC)は高い耐衝撃性を持ち、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)は成形性・加工性に優れています。

「PC+ABS」のようにブレンドすることで、「成形がしやすく、かつ割れにくい」というバランスが取れるわけです。
しかし、その配合比ひとつで衝撃吸収性や耐久性、成形時のトラブル発生率が大きく変わります。

また、柔軟性をもたせるために熱可塑性ポリウレタン(TPU)を追加配合したり、リサイクル材を混ぜてコストバランスを取るといった現場の工夫も見逃せません。

スマホケース事例にみる「射出圧と配合比」の最適化手法

現場で成果が出ている、実践的な設計ノウハウを紹介します。

1. PC+ABSブレンド品の最適設計

最新のスマートフォンケースでは「PC70%+ABS30%」の配合が主流です。
この配合比により、PCの粘り強さとABSの加工性の良いところが引き出されます。

ただし、ABS比率を上げすぎると衝撃吸収力が落ち、逆にPC比率が高すぎると流動性が下がるため、金型内に樹脂が届きにくい箇所が増えます。
そこで、射出圧は「100~130MPa」の範囲で樹脂の流動状態を確認しながら微調整を重ねます。

実際の工場ラインでは、射出速度や金型温度も細かくパラメータ設定します。
特に厚肉部やリブ構造が含まれる部分には流動性を意識した射出圧設定が求められます。

2. TPU配合による「ソフトケース」成形

耐衝撃ケースで好まれるTPU(熱可塑性ポリウレタン)は、ゴムのような柔軟性が特徴です。
このTPU比率を「30~50%」に設定すると、角落ちなどの端部加重時でも「割れ」を防げます。

その反面、弾性が高くなりすぎるとケースが緩くなったり、長期的には伸びやすくなる欠点も出てきます。
現場では「TPU40%:PC60%」という実績値が多いです。

射出圧は、一般的なPC+ABSブレンドよりやや低めの「80~100MPa」がベストバランスです。
これにより、内部気泡発生率の低減と歩留り改善が期待できます。

アナログ業界が直面する課題と、現場起点の最適化技術

製造業では、長年の「経験」と「勘」が価値を発揮しますが、データや理論的裏付けと融合できている現場はまだ限られています。

私自身、昭和から続く現場の問題点と、最近のデジタル変革のギャップに何度も直面してきました。

成形条件の「標準化」と「見える化」の必要性

製造現場では、成形条件がベテラン技能者の「暗黙知」として受け継がれているケースが多いです。
これでは新人や海外工場への展開・品質安定化が難しくなります。

近年では、IoTセンサーを成形機に取り付けて、射出圧や温度・樹脂流動などの情報をデータ化する取り組みが進んでいます。
これにより「見える化」した数値をもとに、条件設定の標準化や、不良の未然防止が可能となります。

具体的には、品質のバラツキが発生しやすい要因をデータから抽出し、「この樹脂配合時は射出圧を±10MPaの範囲で調整」といった運用指針を現場と情報システムが協調して決めていきます。

AI活用によるプロセス最適化の潮流

さらに一歩進んだ工場では、射出成形の設定や配合比の最適化に「AI技術」を導入する動きが出ています。

具体的には、過去の不良品発生状況や、各種パラメーターと製品品質の相関データをAIが分析。
「この組み合わせだと耐衝撃強度が最大化する」といった最適条件を瞬時に提案するシステムです。

これにより、現場任せでない再現性のあるものづくりと、生産効率の向上・人依存からの脱却を同時に実現しつつあります。

バイヤー視点:最適条件を見抜くチェックポイント

調達購買・バイヤー職の立場では、品質が安定し再現性の高いスマートフォンケースを安定供給できるサプライヤーを見極めることが大切です。

ポイントは、以下の3点です。

1. データにもとづく成形条件管理

成形条件が「誰がやっても同じ品質」で管理できているかどうか。
現場スタッフの「勘」頼みではない仕組みがあるかをヒアリングしましょう。
操作履歴や生産実績のトレース、射出圧や温調の履歴管理をシステム化していれば、一歩先を行くサプライヤーです。

2. 樹脂原料・配合比の説明能力

PC、ABS、TPUなど主要樹脂の品質証明書や、配合比の根拠資料を提出できる体制か確認します。
また、リサイクル材混入の場合は、その影響をどう評価・検証しているかも重要です。

3. 衝撃試験データ・信頼性試験の公開

「どのような試験条件で、どのレベルの衝撃耐性が得られているか」エビデンス説明を必ず求めましょう。
第三者機関での落下試験や、独自の加速耐候テストデータなど、具体的な数値で比較できると安心です。

サプライヤーがバイヤーに信頼されるために

競争が激しいスマートフォンアクセサリー市場で生き残るには「再現性・説明性・柔軟性」の3つが不可欠です。

射出圧・樹脂配合比という見えにくいノウハウを、客観データと実務経験で「見える化」すること。
それがバイヤーへ信頼を与え、継続的な取引や案件増加につながります。

現場管理においては、不良率や歩留りなどの基本指標だけでなく「なぜそうなったか」の工程検証が重要です。
「このレシピ(成形条件・配合比)なら高品質な耐衝撃ケースが安定して作れる」という裏付け資料・試験成績書を用意し、バイヤーとの信頼構築に積極的に取り組みましょう。

おわりに:未来志向のものづくりへ

スマートフォンケースの「耐衝撃性」は、材料知識と工場現場のきめ細かな管理が結実した成果そのものです。

そして、その品質を生み出す柱が「射出圧」と「樹脂配合比」の最適化なのです。

昭和の勘と経験に頼る時代から、データにもとづき誰でも同じ品質が作り出せる「デジタル×現場力」の融合こそが、今後の製造現場で問われていきます。

バイヤーもサプライヤーにも「なぜそのスペックなのか」「どうすればもっと良くできるのか」を深く考えるラテラルシンキングの発想が欠かせません。

知見の共有や協業、挑戦を惜しまない現場風土こそが、日本のものづくりの強みです。
ぜひこの記事を現場での議論や、調達・営業活動のヒントとしてご活用ください。

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