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国際規格対応を怠る仕入先の輸出入リスク

目次
はじめに:グローバル社会における標準化の重要性
製造業がグローバル化し、サプライチェーンが国境を越えて拡大する現代、国際規格への対応はもはや避けて通れないテーマです。
しかし、「昭和のやり方」が未だ根強く残る製造業界では、国際規格への対応を軽視する仕入先も少なくありません。
今回は、20年以上にわたる現場経験の視点から、国際規格未対応の仕入先が抱える具体的な輸出入リスクについて詳しく解説します。
また、購買担当者やバイヤー志望者、そしてサプライヤーの観点からも、リスクの本質と対策を深く掘り下げてご紹介します。
国際規格とは何か、その役割と種類
国際規格の基礎知識
国際規格は、ISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ASTM(米国材料試験協会)などが定める、世界共通の技術基準です。
製品の品質・安全・互換性・環境対応を保証し、国や業界を超えた製造・流通を円滑にする役割を持っています。
代表的な国際規格
– ISO9001:品質マネジメントシステム
– ISO14001:環境マネジメントシステム
– ISO45001:労働安全衛生マネジメントシステム
– CEマーキング:EU域内流通製品の適合マーク
– RoHS指令:有害物質規制
– UL規格:米国安全規格
– REACH規則:欧州化学物質規制
これらは一例に過ぎませんが、調達・購買・生産管理の現場では、これらの有無が輸出入のハードルを大きく左右します。
国際規格未対応仕入先が引き起こす輸出入リスク
1. 輸出入停止、通関でのトラブル
国際規格を満たさない製品は、通関時に「輸入不可」または「販売不可」と判断される場合があります。
これは最悪の場合、コンテナ単位での商品差し止め、長期の倉庫保管=コスト増、さらには廃棄処分のリスクに直結します。
現場の倉庫管理者や物流担当者にとって、これは決して他人事ではありません。
2. 取引先・顧客からの信頼低下
不適合製品が納入されると、顧客の生産ラインでトラブルが発生します。
リコールやクレームが頻発すると、購買部門はサプライヤーリストの見直しを余儀なくされます。
一度失った信用は、数年経っても取り戻せません。
特に自動車や電子機器業界では、1社のミスが数十社の損益に波及します。
3. サプライチェーン全体のリスク拡大
国際規格への未対応は、サプライチェーン全体のリスクを増大させます。
下流の完成品メーカーが国際市場へ輸出する際、不適合部品1点でも船積みNGとなれば、全体工程がストップ。
結果として販売機会損失、納期遅延、金銭的損失、株価への悪影響へと広がります。
4. 法的リスクと巨額な損害賠償
欧州や北米の一部規制では、不適合製品の販売・流通自体が「違法」となります。
製品事故が発生した場合、製造物責任法(PL法)による訴訟リスクも。
近年は環境基準やサイバーセキュリティ規格など、規制が年々厳格化しており、違反が発覚すれば数億円単位の賠償請求も現実です。
現場で起こる“規格軽視”の要因とは
なぜ規格対応が後回しになるのか
主な理由として、以下が挙げられます。
– 「昔ながら」の取引関係で慣れ切っている
– 「うちの業界は特殊」「うちの商品だけは問題ない」という自信(慢心)
– 書類作成や認証取得にかかるコスト・工数を敬遠
– 規格の最新動向をキャッチアップしきれていない
– 人材・知識不足により「何から手を付けてよいか分からない」
実際、昭和・平成の高度成長期を支えた中小サプライヤーほど、こうした意識のギャップが顕著です。
バイヤー・現場担当者が遭遇した「現実のトラブル事例」
事例1:RoHS未対応部材による欧州輸出停止
欧州向け製品のバイヤーが、サプライヤーからの「成分証明書が出せない」という一言で頭を抱えたケース。
結局、別サプライヤーに緊急切替を余儀なくされ、納期遅延・航空便変更により数百万の損失が発生しました。
事例2:ISO未取得工場の部品採用見送り
大手自動車メーカーの調達部門が、品質規格未取得の協力工場をサプライヤー選定から外した事例。
価格は競争力が高かったものの、「将来的なサプライチェーンリスク」を理由に、長年の実績を切られてしまいました。
事例3:CEマーキング未対応によるリコール
産業機械の一部部品でCE対応ステッカーの表示漏れが発覚。
欧州での販売自体が一時停止し、現地現場での貼付作業、再検査など莫大な手間とコストが増大。
「しろと言われなかったからやらなかった」というサプライヤーの言い訳は、通用しませんでした。
現代製造業で強く求められる「グローバル対応力」
必要条件としての国際規格
グローバル市場での競争力確保には、国際規格への準拠は“加点要素”ではなく“必須条件”です。
館多層なサプライチェーンの中で、不具合や法令違反が判明すれば、即座に調達停止や損害賠償が求められます。
サプライヤー側も「取引を維持する」ため、認証取得・更新の工数と費用を投資する必要があります。
現実的な対応策
– 自社内での規格担当者の育成、外部セミナー受講
– 専門機関・コンサルによる規格取得支援
– バイヤー目線での納入要件明確化、証明書提出義務化
– 提出書類(MSDS/成分証明/試験成績書など)の改善・標準化
– サプライヤー監査の定期実施
中小・零細サプライヤーでの「マンパワー不足」「コスト負担」も現実ではありますが、取引の維持・拡大には避けて通れません。
バイヤーが求めていること、サプライヤーが知るべきこと
バイヤーのホンネ
バイヤーは品質やコストだけでなく、「将来的な安心・リスク低減」を強く求めています。
「とりあえず通っているから大丈夫」ではなく、「何が変わっても即対応できる柔軟性(金で買えない資産)」を重視しています。
ですから、規格認証取得や最新の法規制フォローは、“取引の前提条件”なのです。
サプライヤーで広がる意識変革の波
最近は、中小サプライヤーでも「これは自社の生き残り策だ」と規格対応に本腰を入れる企業が増えてきました。
– 工場見学・監査を積極的に受け入れる
– 認証・証明書発行を商品スペックの売りにする
– IT・デジタル化による事務の効率化でコスト吸収
など、具体的な取り組みが始まっています。
昭和から令和へ、“未来型モノづくり”実現に向けて
日本のモノづくりは、現場力・匠の技を誇ってきた一方、「規格・標準化」の分野では欧米に遅れを取ってきたのも事実です。
これからの製造業バイヤーや生産管理・品質管理のプロは、「規格理解力」「グローバル対応力」「リスク管理能力」が不可欠です。
「国際規格は一部の大企業だけが必要なもの」と考えず、中小のサプライヤーこそが積極的にキャッチアップし、認証取得を“自社価値の源泉”とする方向への変革が求められています。
まとめ:規格対応は“守り”から“攻め”の武器へ
国際規格への対応は、一見“面倒な義務”に感じがちですが、長い目で見れば自社の信用・販路拡大・財務基盤強化に直結します。
「昭和型アナログ業界」から一歩先の「デジタル&グローバル思考」へ。
バイヤーもサプライヤーも、お互いの立場を理解し合い、積極的な情報共有・現場主義の改革を進めていくことが、これからの日本の製造業にとって最も大切なことではないでしょうか。
それこそが、激動の時代を勝ち抜く“新時代の競争力”になる——そう信じています。
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