投稿日:2025年11月25日

OEM製造で品質事故を防ぐ“初回量産立会い”の重要性

はじめに:製造業におけるOEMの現場課題

近年、製造業界におけるOEM(Original Equipment Manufacturer)生産は、国内外を問わずますます活発になっています。

企業はコスト削減や多品種少量生産、サプライチェーンの安定化を目的として、外部委託を積極的に活用するようになりました。

しかし実際の現場では、OEM先での品質事故やリスクが後を絶ちません。

“最初は問題なかったのに、いつの間にか不良品が混入していた”
“設計通りの製品ができているのか現場が不安”
“量産開始後になぜかトラブルが多発している”

こうした声は多くの製造現場で聞かれます。

なぜOEMによる量産ラインで品質事故が発生するのでしょうか。

そのカギとなるのが「初回量産立会い」の重要性です。

本稿では、現場経験をもとに、初回量産立会いがなぜ不可欠なのか、実践的なポイントや失敗例、そして昭和時代から根付く業界文化の変化について解説します。

OEM現場に潜む品質事故の真因と問題点

図面通り“だけ”では品質は守れない

アナログな現場ほど、「発注図面通りに作れば大丈夫」と考えがちです。

確かに図面や仕様書は、製品そのものの設計情報を提供します。

しかし現場では、図面には現れない「作り手の暗黙知」が多く存在します。

工場ごとの設備の違い、技能者のクセや解釈の違い、そしてサプライヤー側のローカルルール――これらがミクロな差異となって、不良発生の温床になります。

“中国OEMあるある”に悩む現場

日本のメーカーが中国をはじめとする海外OEMメーカーに生産を依頼するケースが増えています。

その中で起こりやすいのが、「サンプルはOKだったが量産でNG品が続出する」現象です。

これは、サンプル時の製造条件や管理体制が量産時には再現できていない、あるいは現地作業員への伝達が徹底されていないことが主な原因です。

グローバル調達が進むなか、“書類やオンライン打ち合わせだけ”で安心してしまう危険性は、年々増大しています。

“なあなあ”の委託では現場の質が落ちる

発注側もサプライヤー側も、長年の付き合いや慣れ合いのムードで進めがちです。

「毎回やっているから大丈夫」「今回は急いでるから省略で」という判断は、結果的に高い品質リスクを生み出します。

昭和から受け継がれてきた“現場で何とかする”スタンスが、デジタル化・グローバル化と相反して事故を増加させている要因と言えるでしょう。

初回量産立会いとは何か

“初回量産立会い”の定義と意義

初回量産立会いとは、新しいOEM委託先での製品初回量産時に、発注主企業が現地工場に赴き、現場で製造工程をともに確認・承認するプロセスを指します。

これはサンプル品が完成する段階での確認ではありません。

「量産体制」で設備・ライン・オペレーター・検査体制すべてが揃った環境で、本当に設計の意図を実現できているか、最初のロットで目視・現物確認・ドキュメントチェックなど多角的に検証します。

なぜ初回量産立会いが必須なのか

– 最悪のケース:初回量産で大量不良が発覚、全数リコール
– コスト管理:初期段階で問題を発見・是正すれば後工程コスト激減
– 知識・意識の共有:現場同士で“なぜこの工程が重要か”を共有可能

とくに初回量産立会いでは、細かな点まで「現地の作り手がどう解釈しているか」を直接ヒアリングすることで、潜在的なミスや“誤訳”工程を早期発見できます。

デジタル時代でも“フェイス・トゥ・フェイス”が必要な理由

どれほどIT技術が発展しても、「現物現場現認」は重要な意味を持ちます。

オンライン会議だと、ごまかしや伝達のミスが起こりがちです。

現物を前に一緒に悩み、考えるプロセスがあって初めて、細部の理解や信頼関係を構築できます。

これはバイヤーとサプライヤーの立場を問わず、現場で製造に携わる人間が知っておくべきポイントです。

昭和流アナログ現場での初回量産立会い“あるある”

暗黙知に頼りがちな現場文化

昭和時代の日本のものづくり現場では、“阿吽の呼吸”や“勘と経験”が幅をきかせていました。

初回立会いの際、「細かいところは現場のベテランが分かっている」「うちのやり方で大丈夫」などと、設計部門や顧客部門の指摘を軽視しがちです。

この体質は今も根強く、若手や新規の作り手が“去年通り”で済ませてミスを起こすケースが多々見られます。

帳票・チェックリストの“ハンコ押しっぱなし”問題

品質関連帳票や作業チェックリストの運用も、形式化・形骸化しやすい傾向にあります。

初回立会いの際に、現物と記録が合っていないのに惰性でハンコを押す――こうしたアナログ現場由来の“なあなあ”文化も、高いリスクの一因です。

コミュニケーション不足が大事故を生む

昔ながらの下請け関係の延長で、サプライヤーが言い出しにくい雰囲気、購入先が上から指示するだけ、という構図になりやすいです。

管理職同士やベテラン同士だけで現場の確認を完結しないよう注意が必要です。

初回量産立会いを成功させるための実践ポイント

1. 必須事項リストを事前共有せよ

– 図面と現物を並べて再確認
– 製造工程ごとのキーポイント解説
– 測定機器・治具の点検・整合性確認
– 検査項目の一致確認
– 梱包・ラベル・納品形態のチェック

“なぜこの確認が必要か”という背景やリスク要因もセットで共有することで、現場作業者の納得度、遵守率が大きく高まります。

2. 対面での現場ヒアリングを徹底せよ

– 工場長やリーダーだけでなく、実働作業者にも直接ヒアリング
– 異常が起きた時のエスカレーションルートや判断基準を一緒に確認
– 緊急連絡手段、承認フローの具体的な運用を明確化

現場目線での“作りやすいか・戸惑わないか”という観点を忘れずに。

3. チェックのデジタル化+紙運用のハイブリッド

図面や仕様変更点、立会い時の写真・動画記録をスマホやタブレットで即時共有。

一方で“現物に紙で貼る”“現場に据え置く帳票”といったアナログな工夫も併用することで、抜け漏れを防止します。

4. 立会い内容はその場で議事録化し、クロスチェック

– 双方の要注意点をその場で抜けなく記載
– 修正/調整指示は全員で確認し現場掲示も実施
– 「ここは要相談」「この点だけ特例」など現場目線のNo/Go事項も明記

曖昧なまま“後でメール”ではなく、対面の勢いを活かしてその場で形に残します。

“立会いの教訓”が量産ラインの安定化に直結する

品質保証視点からみた立会いの本質

ISOやIATFといった国際的な品質保証規格でも、プロセス監査や現地立会いは必須要件となっています。

初回量産立会いの経験やフィードバックが、以降の全ロット生産品質・社内ルールの進化へと繋がります。

「あの時ちゃんと見ていれば防げた」という教訓が、現場力の底上げに不可欠です。

“ヒヤリ・ハット”段階で拾えるノウハウ

工場現場では、初回立会いでの“ちょっとした気付き”が後々の不良品大量出荷やリコールを未然に防ぎます。

“こう解釈されてしまうのか”
“この工程でトレーサビリティが担保されていなかった”
“こういうラベルの貼り方だと現場で誤認する”――

こういったヒヤリ体験の見える化と改善が最大の品質保証力です。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる今後の視点

調達側は「現場主義」と「標準化」のバランスを持て

– コストや納期一辺倒で現場立会いを省略しない
– 新規サプライヤーや新規生産品目こそ人の目・手をかけて確認
– “現地現物”の重要性を社内に啓蒙する役割

調達バイヤーは、現場の負担やコスト管理と、品質リスクの二律背反をバランスよくコントロールすることが求められます。

サプライヤーは「見せる化」&「共有化」で信頼を勝ち取れ

– 不明点を曖昧なまま進めず、即相談・即連絡
– ヒヤリ・ハットや微細な現場気付きも漏れなく開示
– 立会い後の改善点を、自社の標準化手順に反映

“納得できる現場は信頼される現場”という意識が、サプライヤー側の競争力を高めます。

まとめ:初回量産立会い=品質と信頼の“前線”

OEM製造における初回量産立会いは、ただの工程監査ではありません。

設計者の思いと現場の知恵、発注側と製造側の両輪が現地で交差し、実効的な品質保証を築くための絶好の場です。

昭和流のアナログ現場体制でも、デジタル化が進む現代でも変わらぬ“現場現物現認”の価値を再認識し、より高い品質レベルのものづくりへと進化していくことが日本の製造業発展への近道です。

OEM量産時の“立会い”に熱意と時間を惜しまない、それがプロフェッショナルな製造業従事者とバイヤー、そしてサプライヤーの共通マインドです。

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