投稿日:2025年10月8日

塗装剥がれを誘発する下地素材の表面エネルギー測定の重要性

はじめに:現場で起こる塗装剥がれのリアル

皆さんの工場や職場では、せっかく丁寧に塗装した部品や製品の塗装が、使用中や輸送中にはがれてしまい、クレームやリワークに頭を悩ませた経験はありませんか。

私は20年以上にわたる製造現場での経験を通じ、「塗装剥がれ」という問題が実は単なる作業ミスや材料不良ではなく、下地素材の“表面エネルギー”に根本原因があるケースを数多く目の当たりにしてきました。

この記事では、「なぜ表面エネルギー測定が塗装品質の維持に重要なのか?」という観点から、実際の現場で活用できる知見とともに、下地素材の視点、バイヤー・サプライヤー間の関係性、そして今後の製造業の進化についても掘り下げて解説していきます。

塗装剥がれの原因を“本質”から分解する

従来の常識「下地処理=万全」への依存

塗装作業において工程管理は厳密に行われていますが、「離型剤や油分をよく拭き取った」「サンドブラストした」「プライマー処理を徹底した」など、熟練作業者の経験則とルーティンの繰り返しに頼った管理が多い現場が多いのが実態です。

しかし、これだけでは不十分な時代になってきています。

素材の多様化(アルミダイカスト・樹脂・CFRPなど複合材料の採用増)や、工程短縮・コストダウンの追求が進むなか、「本当に塗料が下地に“馴染んでいるか”」は、目視や慣行作業だけでは判断できません。

表面エネルギーが“塗膜の密着性”を支配する

塗装の基本は「塗料が素材表面にしっかり濡れて湿潤・密着する」ことです。

この濡れ性・密着性を物理化学的に規定しているのが、素材の表面エネルギーです。

簡単にいえば、表面エネルギーが高いほど水や塗料が広がってよく濡れ、低いほど水滴や塗膜がはじかれやすくなります。

例えば、PTFE(いわゆるテフロン)や一部の樹脂は表面エネルギーが極端に低く、どれだけ下地処理をしても「物理的な密着」が乏しいため剥がれやすいことがよく知られています。

このような科学的な“見えない要因”を現場で無視していると、「なぜか剝がれる。全部やり直し」「クレーム対応に追われる」といった悪循環に陥ってしまうのです。

表面エネルギーとはなにか?現場用語でやさしく解説

表面エネルギー=素材が“持つ引力”の強さ

表面エネルギーは難解な科学用語に聞こえるかもしれませんが、現場視点では「その素材の表面が、異物や液体をどれだけ引きつけるパワーを持っているか」と考えると理解しやすくなります。

表面エネルギーが高い状態は、素材表面が「色々なものをウェルカム」と歓迎しているイメージ、低い場合は「汚れも塗料も拒否」と門前払いしているとイメージできます。

実用面での関心:なぜ正確な測定が必要なのか

表面エネルギーが充分高く、塗料の表面張力よりも上回っていれば、きれいな塗膜密着が得られます。

ですが、工程途中の洗浄が甘かったり、前工程で離型剤の成分が微量でも残ったりしていると、ほんのわずかの差でも塗装品質に大きな悪影響が出てしまいます。

つまり、表面エネルギーの数値を“定量的に”把握できていれば、塗装前チェックやバイヤーによる品質管理において、根拠をもった管理判断が臨機応変に可能となるのです。

塗装前・部品受入・工程保証での“表面エネルギー測定”現場活用法

具体的な測定方法とその特長

現場で主に活用されている表面エネルギー測定法には以下のものがあります。

  • ダイニン液法(数種類の表面張力をもつ液を滴下し、濡れ広がりを観察し数値化する、低コストで現場導入しやすい)
  • 接触角測定(高精度。液滴を落とし、その接触角を画像で解析。品質・研究開発部門には定番だが、装置コストは高め)
  • ウォータースプレーテスト(表面に霧吹きで水を吹きかけ、濡れ方・流れ落ちパターンの“目安”で簡易判定。粗選別向き)

機器投資や運用のしやすさを考えると、工場ラインでの簡易判定にはダイニン液法、より定量的データ管理を重視するなら接触角測定が有効です。

現場の活用シナリオ1:下地処理工程の見直し

素材が毎回違う、加工メーカーによって品質にばらつきがある、取り扱い工場ごとで洗浄工程や保管方法が異なる、といったケースは多くあります。

このとき、受け入れ時や塗装前に「表面エネルギーがしきい値以上となっているか」をマル判定することで、“不良流出予防”が一段階進化します。

また、特定材料や工程パターンごとのデータを蓄積することで、「どの洗浄剤・下地材・プライマーが効果的か」を数値的根拠で現場間の横比較でき、属人的・感覚的な判断から“脱却”可能です。

現場の活用シナリオ2:バイヤー目線での「品質工程保証」

サプライヤーからの外注部品や、海外からの仕入素材では、書面上のSDSや納入仕様書だけで塗装品質を担保できる時代ではありません。

表面エネルギー測定データを、納入毎の検査成績表として義務化すれば、現物と成績書データを突合するだけでなく、「塗装前の適性保証」としてバイヤーのリスク低減・交渉材料にも大きく貢献できるのです。

現場活用シナリオ3:サプライヤー現地での“不良防止”

サプライヤーに「表面エネルギー管理」を教育・義務化することで、工程能力や品質改善の現場PDCAが圧倒的に進化します。

例えば、工程監査時に現地立会いで測定値を共有できるようにし、「なぜ不良が出たか」「どうしたら改善したか」を科学的に共通言語化することで、無駄な責任転嫁や根拠のない“たらい回し”が一掃されます。

ケーススタディ:昭和型アナログ現場と“数値化”によるブレークスルー

よくある現場の“思い込み”トラブル例

ある鉄系部品塗装ラインでは、長年作業リーダーが経験で下地処理を仕切っていました。

「このやり方でずっと大丈夫だった」「油取りは見てわかるカスが残っていなければOK」という判断基準で進めていましたが、ある時期からユーザー先で塗装剥がれクレームが頻発。

徹底的に要因調査を進めたところ、「某ロットでのみ表面エネルギーが大幅低下、洗浄設備の薬品濃度が弱まっていたことが原因」と判明。

この工場では、簡易なダイニン液試験を導入してから、作業者ごとの差、素材ロットごとの差異が“見える化”され、工程異常の兆候が一目でわかるようになりました。

現場が進化すると「ものづくり」も変わる

表面エネルギー測定を軸にした工程管理は、単なる“作業工程の厳格化”にとどまりません。

デジタルで数値が見える・比較できるようになれば、素材メーカーとも同じ尺度で議論ができ、現場間連携や品質保証交渉が極めて合理的に進むようになります。

結果、余剰な検査・リワーク・クレームコストが削減され、全体の生産性と競争力を底上げできるようになるのです。

まとめ:これからの製造現場に不可欠な「表面エネルギー測定」

現代の製造現場は、昭和時代の職人気質や熟練作業に頼ってきた領域を、定量データによる科学的管理にステップアップする転換点を迎えています。

塗装不良や剥がれのような“見えにくい問題”ほど、本質要因(表面エネルギー)を「見える化」できるかが明暗を分けます。

バイヤー、サプライヤー、現場作業者、どの立場であっても「データに基づく工程保証」の発想なしに、これからの複雑・多様な製造業品質をコントロールすることはできません。

今こそ、「表面エネルギー測定」を共通言語にして、製造業現場から新たな価値・品質保証の文化を築いていきましょう。

皆さんの現場にも、ぜひ今日から「塗装前の表面エネルギー確認」という新しい風を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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