投稿日:2025年12月1日

OEMトレーナーの生地検査で必要な“ピリング試験”の重要性

はじめに:OEMビジネスと生地検査の関係性

OEM(Original Equipment Manufacturer)ビジネスは、製造業の中でも重要な役割を担っています。
特にアパレルや繊維業界においては、ブランド側(バイヤー)が生産を外部委託し、サプライヤー(メーカー)が指定通りの商品を生産するという構図が一般的です。

現場では、要求される品質や納期、コストを守りつつ、いかに信頼を構築していくかが問われます。
その中でも、生地検査——とりわけ“ピリング試験”は、最終製品の価値を大きく左右する重要な要素となっています。

本記事では、OEMトレーナー(OEMにおける教育指導者や管理担当)がなぜピリング試験を重視すべきか、現場目線と業界動向の両面から掘り下げていきます。

ピリング試験とは何か?

ピリングとは、生地の表面にできる毛玉(ピル)の発生現象を指します。
長期間の使用や摩擦により、繊維の一部が絡まり、やがて小さな玉状になります。

ピリング試験は、JISやISO規格に基づいて、生地のピルの発生しやすさを評価するための品質試験です。
代表的な方法としては、「マーチンデール法」や「ランダムタムブル法」などがあり、人工的に摩擦を与えてピリングの発生度合いを判定します。

ピリング評価は、5段階評価が一般的で、1が「著しく毛玉ができる」、5が「ほとんど毛玉ができない」を意味します。

現場でよくある課題

OEMの現場で多いのが、下記のような悩みです。

– サンプル時は問題なかったが量産後にピリングクレームが発生
– エンドユーザーからの返品や異議申し立て増加
– 品質基準をバイヤーと認識合わせできず、後工程でトラブル
– 作業者への教育不足から同じミスが繰り返される

こうした状況を打開するためにも、ピリング試験の標準化と“なぜ重要なのか”という意識付けが不可欠です。

なぜピリング試験がOEMトレーナーにとって重要なのか?

1.エンドユーザーの評価直結

一般消費者が手に取る製品では、見た目の美しさや肌触りが最重要視されます。
数回の洗濯や着用で毛玉だらけになれば「安物」というレッテルを貼られ、ブランド価値にも大ダメージです。

OEMビジネスにおいては「委託先=品質責任の担い手」と見なされやすいだけに、サプライヤー側も納入前のピリング試験で自信を持った品質保証を行う必要があります。

2.ブランドとの信頼構築

ブランド(バイヤー)側は最終的な顧客クレームを極度に嫌います。
ピリングに限らず、見過ごされやすい細かな品質トラブルが積み重なることで「このサプライヤーは信用できない」と評価が下がります。

一方、「ここの工場はピリングチェックまで抜かりない」「現場できちんと生地検査をしてくれる」と認知されれば、継続的な取引だけでなく、高付加価値製品の相談も来やすくなります。

3.現場の再教育・標準化推進

昭和世代の“勘と経験”に頼った品質検査では、時代の要請に合いません。
ISOやJIS標準に基づく試験を全工程で徹底することで、作業者の意識改革・工程標準化へとつながります。

OEMトレーナーとして、一つ一つの試験方法や判定基準を明確にし、誰もが同じ目線で評価できる体制作りが求められています。

業界のアナログ慣習とピリング試験のギャップ

まだまだ根強い「目検」依存文化

日本の製造業では、熟練者による「目検」(目視確認)が今でも大きな力を持っています。
生地を手触りや見た目でチェックすることで、一定の品質維持は可能ですが、数値管理や客観判定には限界があります。

こうしたアナログ文化が強く、標準化・自動化に遅れがある現場では、ピリング試験も「やっているつもり」「基準が曖昧」となりがちです。

最新のデジタル計測・画像解析の導入メリット

最近では、AIを活用した画像判定やピリング評価装置も普及しはじめています。

– 人によるバラツキ・感覚差を解消
– ビッグデータ化で生地・糸の傾向分析
– バイヤーへの品質保証資料として提出

サプライヤーがこうした先進技術を積極導入すれば、差別化ポイントにもなり得ます。

バイヤーとサプライヤー、双方の視点に立つ重要性

OEMにおいて大切なのは、「どうしてこの基準が必要なのか」「どんな検査を通して信用が生まれるのか」を、バイヤーとサプライヤーが共有することです。

バイヤー目線:「本当に大丈夫か?」の心理

バイヤーは数多くのOEM先から見積・提案を受けます。
納期・コストに目が行きがちですが、「どこまでしっかり品質保証しているのか」も、実は最重要の選定基準です。

・試験データを提出できるか
・過去クレームや現場対策を開示できるか
・現場ヒアリング時、工程を自信をもって説明できるか

こうしたポイントを押さえた現場は、選ばれやすくなります。

サプライヤー目線:「やらされている」から「自分たちが守る誇り」へ

検査=バイヤーから求められる面倒な仕事、という捉え方をすると、現場のモチベーションは下がります。
しかし「自分たちが品質の最後の砦」という自覚、他社との差別化材料になると腹落ちすれば、現場力は大きく向上します。

OEMトレーナーが現場に伝えるべきピリング試験の実践ポイント

1.標準的なピリング試験手順の確立

ISO12945やJIS L 1076など、国際・国内標準に基づく手順書を作成し、どの作業者も同じ流れで試験を行うことが基本です。

– 試験用カット品のサイズ・数量統一
– 実施する摩擦回数や環境条件管理
– 裁断やサンプリングの再現性確保

<現場ワンポイント>
判定時の写真データ保存や、第三者によるダブルチェックを実施することで、判定の“主観ブレ”防止効果があります。

2.データ管理とトレーサビリティ

各生地ロットごとのピリング試験データをデジタル管理すれば、「どの工程で問題が発生したのか」も追跡できます。

バイヤーから突発的に品質証明を求められても、すぐに資料提出できる体制は信頼獲得につながります。

3.現場勉強会と見える化

「この生地はピリング試験で○点」「条件AとBではこれだけ差が出る」といった現物サンプルや定量的データを用いた勉強会を定期開催します。

さらに、現場に「品質見える化ボード」を掲示し、試験実施状況や合否件数を週次/月次で公開するのも効果的です。

業界動向と今後の展望:“脱昭和”へのヒント

今後の製造業界は、よりグローバル化・自動化・デジタル化が加速します。

古き良きアナログの現場感覚を活かしつつ、ピリング試験のような品質管理プロセスをデジタルに“進化”させることが海外競争への生き残り戦略となります。

・AIやIoTによるリアルタイム監視
・検査工程の自動化(人手不足対策にも直結)
・バイヤーやエンドユーザーへの品質説明責任

日本の「ものづくり力」を世界に発信するためにも、“検査・評価”まで徹底したブランド力構築が求められています。

まとめ:ピリング試験はOEM現場の要

ピリング試験は単なる「毛玉の有無」チェックではありません。
OEMビジネス全体の信用、ブランド価値、現場力向上に直結した不可欠のプロセスです。

OEMトレーナーは、検査標準化・データ化・現場教育を推進し、“現場目線”と“業界の潮流”の両方を俯瞰しながら、組織の信頼力を高めていくことが、これからの製造業の発展につながります。

これからOEMビジネスに関わる方、より品質重視のものづくりを目指す方々は、ぜひ「ピリング試験=競争力の源泉」と捉え、今一度現場力のさらなる底上げにチャレンジしていただきたいと考えます。

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