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工程FMEAのS値中心からRPN標準偏差重視へ切替えて改善効率を向上

目次
はじめに
製造業に従事して20年以上、私は調達購買、生産管理、品質管理、工場自動化など様々な領域で現場に深く携わってきました。
どの立場でも欠かせなかったのが、工程FMEA(Failure Mode and Effect Analysis: 故障モード影響解析)の適切な運用です。
FMEAで工程リスクを定量的に評価・管理することが、品質安定、生産性向上、不良コスト削減の礎であることは、皆さまもすでに実感されていることでしょう。
さて、多くの現場ではS値、つまり「重篤度(Severity)」を重視したFMEA運用が長年定着してきました。
しかし、昭和世代のアナログ的発想から、最新のデジタル・品質主導製造現場では「RPN(Risk Priority Number:リスク優先数値)標準偏差」に着目し、改善ポイントの選定・深堀りを行う動きが加速しています。
この記事では、昔ながらのS値重視のFMEAから、RPN標準偏差に重みを置いた切替えのメリットと、現場での実践的な運用例を、私の経験と業界動向を交えて詳しく解説します。
また、購買のバイヤー視点やサプライヤー側から見たFMEAの現実も交え、「いまこそ現場のFMEAを真に効率化するには何をすべきか」を一緒に考えていきましょう。
なぜ今FMEA運用を見直すべきか
脱・昭和型FMEAの必要性
工程FMEAは1960~70年代の日本の高度成長期から盛んに採用されはじめました。
「市場で事故や不具合を絶対出してはいけない」という強烈な品質志向が、S値(重篤度)を何より重視する文化を生み、日本の自動車や電機業界を長く支えてきました。
ところが、サプライチェーンがグローバル化し、製品が複雑になった現代では、全てのS値高リスク項目に優先的に潤沢なリソースを投入するのは現実的ではありません。
また、IoTやAIによる生産情報の可視化と分析が進み、FMEAの運用自体も、現場の可用な情報を最大限に活かす方向へシフトしています。
現場の本音:「全部重要」で動けないジレンマ
実際にFMEA会議で困るのは、「S値が高い項目が多過ぎて、どこから手を付けていいかわからない」という事態です。
過去、不具合を出した経験がある項目は無条件にS値が高めにつけられ、毎年同じリスクばかり対策案が並ぶ。
一方、「一度も不良を出していない新規工程」はO(発生頻度)やD(検出困難度)が曖昧になり、RPNもS値頼みの形骸化。
この「とりあえずS値優先しておけば大丈夫だろう」という運用では、FMEAは本来のリスク管理ツールとして機能しません。
バイヤーとしては、「どのサプライヤーが本当に真剣に改善しているのか?」見極める指標が欲しくなります。
FMEAの基本構造とS・O・Dのバランス
FMEAは、S(重篤度)、O(発生頻度)、D(検出困難度)の3要素を評価し、その積(RPN)でリスク順位付けする手法です。
S:その故障が発生した場合の影響の重大さ
O:その故障が発生する頻度の高さ
D:その故障を発見しにくい場合の検出困難さ
RPN(Risk Priority Number):S×O×Dで算出
これまではS値だけ上げる(あるいは下げられない)発想が先に立ちがちでしたが、OやD―すなわち、「発生させにくさ」や「発見しやすさ」も同等に管理すべき重要ファクターです。
新しい品質管理潮流ではこの3つのバランスと、リスク項目群全体の「リスク分布」がカギになります。
RPN「標準偏差」に着目する理由
RPN標準偏差って何?
RPN標準偏差とは、各工程のFMEAで算出されたRPN値のばらつき具合(分散・散らばり度)を示す指標です。
例えば、40工程ある場合、それぞれのRPN値(例:120、500、300、100など…)を並べます。
この一群のRPN値の「標準偏差」を計算することで、「どの工程が極端にリスク高く放置されているか」「本当に危険な箇所の突出度」が分かります。
なぜ標準偏差が重要か
S値重視だと、「高いS値項目=重要・危険」と見えるため、優先的に対策が集中しがちです。
ところが、ある工程だけOやDが高く、RPNが突出してリスク爆弾になっている場合、「平均値」や「最大値」だけ見ていても早期発見が困難です。
RPN標準偏差を使えば、「どの工程が標準的リスクから大きく逸脱し、対策されず隠れて放置されているか」を一目で把握できます。
まさに、現場の工場長、品質責任者、そして重要なサプライヤーチェーン上のバイヤーにも直感的に分かる、「攻めのFMEA」運用が可能になるのです。
【実践例】FMEAをRPN標準偏差運用へ切り替えて得られた効果
現場で起こった「気付き」~数値化の魔力~
私が工場長として関わったある工程(射出成形)は、長年S値主導のFMEAを運用していました。
毎年、「違う新製品」にも似たようなS値マークがつき、例年どおりの対策案が並ぶ…しかし、突発的な流出不良は根絶できない。
そこで、RPN一覧をスプレッドシートで全工程分リストアップし、標準偏差で「数値が大きく離れている工程」に色づけしてみました。
すると―
・ごく小規模な工程(組付け前の検査工程)でRPNが突出して高い
・他工程に比べてD(検出困難度)が不自然に高評価されていた
→初めて、目立たない工程に「潜在的な重大リスク」がある事実に気付けたのです。
この工程に対策を集中した結果、翌年度の社内品質監査での指摘が激減。
流出不良もゼロを記録。
この成果から全工場に「RPN標準偏差重視型FMEA」が標準化されたのです。
サプライヤーチェーンでの信用アップにも寄与
この運用をバイヤー(メーカー調達部門)に説明したところ、彼らも即座に「このアプローチならサプライヤー間のリスク比較がしやすい」と納得。
サプライヤー間の工場FMEA資料を提出させる際、「RPN標準偏差が異常に大きい」「高RPNにもかかわらず未対策項目が放置されている」場合、その業者のリスク管理体制が不十分、と判断できるようになりました。
逆に、RPN分布のばらつきが少なく、全体的にリスクが「平均化」しているサプライヤーは、潜在不良リスクへのきめ細やかな目配りができている―と評価できます。
これは、取引先を選ぶ上でも極めて有効なファクト情報になるのです。
現場が「RPN標準偏差」にシフトする際の具体的なステップ
1. FMEA表の構造を見直す
まず、従来のS値欄だけ強調されたFMEA表記入様式を、「RPN算出」欄と「全工程のRPNを見比べる一覧性」重視へ変更します。
ExcelやFMEA管理システムでも、RPNの分布グラフや自動で標準偏差が算出できる仕組みを構築しましょう。
2. RPN分布ヒストグラムを活用
全工程のRPN値を可視化し、工程ごとにヒストグラムや箱ひげ図で「どの工程が平均からどれだけ離れているか」「突出RPNの項目はなぜなのか」を全員で議論します。
ハイリスクな工程を可視化することで、「なんとなく重要そう」から「データで根拠のある改善箇所選定」へ変化します。
3. 評価担当の「目の慣れ」改革
従来は、S値高=リスク高、の先入観が強くありました。
教育・訓練で、「RPNが平均から大きく逸脱する項目こそ深刻な“見逃し箇所”」である、と現場全体で認識を揃えます。
O(発生頻度)およびD(検出困難度)も、現場データやIoTによる定量化を推進し、時代に合った評価基準作りが欠かせません。
4. バイヤーやサプライヤーとも情報共有
調達・購買部門や外部サプライヤーとも、FMEAのRPN分布データを共有し、お互いにストレートにリスク対策状況を可視化します。
サプライヤーは品質管理力の高さを数値でアピール可能になり、バイヤーは「数字で比較できる購買基準」を一つ手に入れることができます。
現場・バイヤー・サプライヤーに広がるFMEA新潮流
FMEAはもはや、「やらされ業務」から「攻めの改善ツール」へ。
RPN標準偏差を活用することで、
・小さな現場の“盲点”リスクを体系的に発見
・根拠ある改善投資ポイントの明確化
・購買やサプライヤー間での透明性あるリスクマネジメント
といったメリットがあります。
今後はAIや生産データのリアルタイム連携が進み、FMEAもさらに客観的・自動化されたものへと進化することでしょう。
一方で、「まず現場で“本当に危険な箇所はどこなのか”をデータで正しく見抜ける目」を養うことが、最終的な生産性・品質・調達力の差別化を生みます。
まとめ:FMEAはS値中心からRPN標準偏差の時代へ
製造業の現場では、昭和から受け継がれてきた“長幼の序”や“経験と勘”を決して否定するわけではありません。
しかし、複雑化した現代のサプライチェーン、激変する品質要求・生産性競争を乗り越えるには、「データドリブン」なFMEA運用への切替えが急務です。
S値という“過去の重み”だけに縛られず、RPN標準偏差という“未来リスクの芽”をいち早く見つけ、全員参加で攻めの改善を進めていく。
これが、製造業を支えるバイヤー、サプライヤー、現場それぞれが成長するための、新しい品質マネジメントの起点となることは間違いありません。
真の改善効率向上の第一歩として、ぜひ皆さまの現場でも「FMEAのRPN標準偏差重視運用」を始めてみてください。
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