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ルート監査でムダ動線を削り人時生産性を上げて単価交渉に反映

目次
はじめに:ルート監査の本当の価値とは
「ルート監査」という言葉を耳にすると、多くの方は製造現場の監査業務や労働環境のチェックをイメージするかもしれません。
しかし実際、現場の人間にとって監査とは“消極的なムダ削減”で止まりがちな活動に終始しやすいのが実情です。
一方、近年の原価高騰や人手不足といった社会的逆風の中では、ルート監査は工場の「人時生産性」を引き上げ、サプライヤーとバイヤーの単価交渉にまで直結する、攻めの武器として再定義されています。
昭和の時代から続く現場主義やアナログカルチャーに根差しながらも、先端的な改善手法としてのルート監査の意義・活用法について、現役で工場管理経験のある筆者が、現場の実録をもとに深掘りしていきます。
ルート監査とは何か?改めて現場視点から定義する
ルート監査とは、生産現場における「ヒト・モノ・情報の流れ」を見える化し、その中に潜む“ムダ”や“動線の非効率”を見つけ出して改善する活動です。
日々の業務を追いかけながらムダだと感じても、「前からこのやり方だから」「現場が慣れているから」と変革にまで至らない改善テーマが、実は多く存在します。
特にバイヤーや調達担当の視点から見ると、ルート監査は「サプライヤー工程のコスト適正化」や「要求単価設定のロジック補完」として役立ちます。
逆にサプライヤー側にとっても、ルート監査で自社の強み・弱みを客観的に把握し、「なぜこの単価が必要なのか」をバイヤーに証明する武器となります。
製造業に携わる方はもちろん、これからバイヤーを目指す方やサプライヤーの営業担当の方にも、ルート監査の現場的本質を理解することは、今後ますます重要になってくると言えるでしょう。
なぜ今「ムダ動線削減」と「人時生産性向上」が重要なのか
製造業の現場では、「品質・コスト・納期(QCD)」という三本柱が昔から合言葉ですが、“属人的”な改善に頼ってきた面も否定できません。
ですが、近年は以下のような複合的課題が加速しています。
・人手不足、熟練者の退職
・材料・エネルギーコスト高騰
・顧客(バイヤー)からの値下げ圧力強化
・多品種少量、短納期への対応
これらの世界的な流れの中では、企業が持続的に競争力を保つため、「人時生産性」(=労働者1人あたり1時間で生み出す付加価値)を高めることがこれまで以上に求められています。
そのためにルート監査による「ムダ動線」の徹底的な削減が、今や単なる”コスト対策”を超えて、人時生産性向上=事業存続の根幹施策へと進化しているのです。
ルート監査の具体的な進め方
では、現場で実効性のあるルート監査をどのように進めればよいのでしょうか。
現場管理者やバイヤー、サプライヤー担当者の視点ごとに、有効な現場手法をご紹介します。
1. ムダ動線の現場観察と可視化
まず極めて重要なのが「現場観察」です。
1日のうち5分~10分、実際に現場で作業員・設備・部品・情報(伝票等)がどんな経路で動いているか、第三者の目線で時系列で観察しましょう。
ポイントは:
・歩数(移動距離)がやたら多い作業工程はないか
・工具や部材の取りに往復する動きが頻発していないか
・投入~完成品出荷までに停滞“待ち”時間が発生していないか
現場の「工程レイアウト図」をそのまま使って、赤ペン等で実際の動線(人・モノ)の軌跡を書き出すことで、ムダやロスが把握しやすくなります(いわゆるスパゲッティチャート)。
2. 動線ムダの分析と改善アイデア出し
ムダ動線が見えてきたら、なぜそれが生じているのか分析しましょう。
・工程レイアウト自体が時代遅れでムダが定着していないか
・モノや伝票の置き場所・ストック場所の距離が遠くなっていないか
・作業標準マニュアルが現場の現実に合っているか
・作業者が誰かに頼らないと進められない「属人化」箇所がないか
そして、現場作業者やリーダー、管理職など多様な視点で、可能な限りラテラル(水平志向)なアイデア出しを行いましょう。
時短や不要な動きカットだけでなく、「実作業間の停滞短縮」や「中間棚や移動台車の活用」など、既成概念に囚われない改善策が現場から生まれることもしばしばです。
3. 人時生産性指標での現状把握とPDCA
改善前と改善後でどれだけ人時生産性が上がったか、指標を明確にして比較します。
定量評価することで説得力が生まれ、現場にも納得感が浸透しやすくなります。
例:
・製品1個あたりにかかる人時間
・ライン/工程ごとの処理能力
・一人あたり月間生産高(付加価値売上)
この指標をもとにPDCAを回し、効果が出ない部分は次のサイクルで再度施策を打つことで、更なる効率化・省力化へと続けていくことが重要です。
4. バイヤーへの適正コスト提示に活用
ルート監査から得た「人時生産性向上」の実データは、そのままサプライヤー→バイヤーへの“根拠ある単価提示材料”になります。
「今期はこれだけムダ動線を減らし、●%コスト低減を実現。その結果、毎月○人・○時間分の生産性向上があった」
こういった事実に基づいたプレゼンを行うことで、バイヤーもサプライヤーの論理を受け入れやすくなり、信頼関係構築にも直結します。
逆にバイヤー側も、「単なる値下げ要求に終始せず、現場改善の伴走提案や、自社側の改善ノウハウ共有」とセットにすれば、サプライチェーン全体の競争力向上へと導くことができます。
アナログ業界を変えるためのラテラルシンキング事例
昭和から続く工場=人海戦術、紙文化から抜け出せていない現場もまだまだ多いのが日本の製造業です。
そこで、現場で実際に試みられた「ラテラルシンキング的なルート監査事例」をいくつかご紹介します。
事例1:台車一つの発明が歩数を激減させた
ある中小部品メーカーでは、加工された部品を検査部署まで1日に何度も往復して運搬していました。
通常は人が片手で持ち歩いていましたが、現場作業者から発案で「傾斜付きの多段台車」を導入。
部品をまとめて乗せることで移動回数を削減し、作業者の負担も半減しました。
意外なことですが、「現場でよく見る日常の違和感」こそが大きな生産性アップの種なのです。
事例2:工程レイアウトの左右逆転で停滞ゼロに
熟練作業者が高齢化する現場で、作業位置と装置配置が“その作業者流”に固定されていました。
誰でも作業できる汎用レイアウトへの変更を検討した結果、「工程の左右逆転」という発想で、材料投入口から出荷口まで一直線に“流れる”配置に再構築。
作業者の動線が半減し、後工程待ちや停滞ゼロ、作業者間の無駄な手待ちもなくなりました。
事例3:システム導入前のアナログから始める段階的改善
いきなりIoTやMES(生産管理システム)導入による最先端化を目指すのも選択肢ですが、アナログ慣習の中には「紙やホワイトボードに動線を書くだけで無駄が顕在化する」といった初歩レベルの大改善も数多くあります。
まずは数百円で済む文具や、現場作業者の気づきを取り入れることからスタートし、その成果を数値化してから、自動化やデジタル化へとスケールアップしていくのが現実的です。
ルート監査・人時生産性の磨き上げが“武器”になる
工場の床を歩き、現場の“動き”を五感で捉えることから、新たな地平が開けます。
できることから始め、気づきを増やし、関係者全員で改善を進める。
現場起点のルート監査がもたらすのは「人時生産性向上」だけでなく、
・単価交渉時の論拠になる
・サプライヤーとバイヤーの信頼構築に役立つ
・サステナブルなものづくり文化の基盤となる
といった多面的なメリットです。
昭和から続く慣習やしがらみにとらわれず、現場の「もうける力=生産性」を見える化し、数値で語る。
この姿勢こそが、現場リーダー・バイヤー・サプライヤー責任者すべてに求められています。
思い切って一歩踏み出せば、どんな現場にも必ず次の“ブレークスルー”の芽が潜んでいることを、現場経験から断言します。
さいごに:「守り」の監査から「攻め」のルート監査へ
ここまで、製造業の発展に不可欠なルート監査と人時生産性向上の考え方、実践事例についてご紹介しました。
単なる“監査”ではなく、「現場を勝たせる攻めの武器」にまで昇華させることこそ、今後のものづくり業界が生き残るカギと言えるでしょう。
バイヤーを目指す方や、サプライヤーの現場担当・責任者の皆様が本記事をヒントに、新たな価値創出の道を切り開いていただければ幸いです。
「ムダ動線の削減」が、みなさまの工場・現場の人時生産性向上、ひいては公正で適正な単価交渉と、安定的な“儲かるものづくり”につながる未来を心から応援しています。
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