投稿日:2025年8月21日

共同カイゼンイベントで短期に歩留まり改善を出し単価見直しに結びつける

はじめに〜共同カイゼンイベントが注目される背景

製造業の現場では常に「歩留まり」の改善が大きなテーマとなっています。

歩留まりとは、投入した原材料や部材に対し、実際に良品として出荷できる製品の割合を指します。
この歩留まりが向上すれば、材料費や手間、時間のロスが減少し、コスト競争力や利益率が向上します。

しかし、特に昭和から続く日本の多くの製造現場では、部分最適・属人的な改善にとどまりがちで、大きなブレークスルーが生まれにくいという課題もあります。

そんな中、ここ数年で「共同カイゼンイベント(Joint Kaizen Event)」と言われる手法が、国内外で再注目されています。

このアプローチは、これまでサプライヤーとバイヤーという“取引関係”だけで終わりがちだったメーカー同士が、利害を超えて現場改善に本気で取り組む“場”を設け、成果を短期間で目に見える形にして、最終的に単価見直しなどの価格交渉にもつなげていく動きです。

単なる一時的なコストダウン施策や形式的なイベントでは得られない、現場発のリアルな“Win-Win”を実現するアプローチです。

本稿では、20年以上の製造業現場経験を持つ筆者の視点から、「共同カイゼンイベント」で歩留まり改善を実現し、単価見直しに結び付けるための具体的な方法論や、現場で失敗しない運営ノウハウ、さらに業界独特の事情まで掘り下げて解説します。

共同カイゼンイベントとは何か

定義と目的

共同カイゼンイベントは、従来の自社完結型の改善活動とは異なり、バイヤーとサプライヤー(場合によっては複数社)それぞれの「現場」が一つのチームを組んで、具体的な工程や生産ラインの課題を特定・解決するイベント型の現場改善活動です。

目的は、単純なコストカットではなく、「短期間(1週間〜1カ月程度)」で目に見える改善効果(歩留まりの向上、不良削減、リードタイム短縮など)を現場レベルで達成し、その成果や知見をもとに継続的な生産性向上や、単価見直しのカードとすることです。

カイゼンが“共同”である意味

日本の製造業界では伝統的に「カイゼン活動」が根付いていますが、サプライヤー現場でのカイゼンは“やらされ感”や、部分最適で終わってしまいがちです。
共同カイゼンイベントの価値は、バイヤー側も技術者や生産管理部門が現場に入り込むことで、現実的かつ納得感のある課題提起と解決策を同時に出していける点にあります。

また、従来“値下げ交渉だけ”というイメージのバイヤー部門にとっても、サプライヤーの現場課題を肌で感じ、先端事例を通じてお互いの技術力や改善力を向上させられる好機となります。

歩留まり改善のための具体的ステップ

1.データを「現場参加者全員で」可視化・共有する

歩留まり改善をするためには、まず現状把握が必要です。

生産ラインの各工程で発生している「ロス」「不良品率」「リワーク率」などを、できるだけ詳しく、リアルタイムで見える化する仕組みをまず作ります。

ここで重要なのは、サプライヤー現場の改善担当者や作業員だけが把握するのではなく、バイヤーも含めた全員で「このロスはどこから発生しているのか」「過去どんな対策をしたのか」を徹底的にすり合わせ、現状認識を一致させることです。

これを怠ると、「バイヤーは現実を分かっていない」「サプライヤーは言い訳ばかり」と、お互い不信感が生まれ、継続的改善には至りません。

今はIoTデバイスや簡易的なエクセル記録など、昭和的な紙帳票に頼らない可視化手段も低コストで実践できます。

2.現場に精通した多面的な視点を集める

歩留まりの悪化要因は、単純に設備不良だけではありません。
作業者の動線や手順、検査の方法、工程間のコミュニケーションロス、購買部品のロットばらつきや情報伝達の遅延など、「人」「設備」「材料」「方法」が密接に絡み合っています。

共同カイゼンでは、両社から「現場実務に精通した担当者」「設備保全や自動化に詳しい技術者」「生産計画や購買・物流も見渡せる管理職」など、複数目線でチームを組み、先入観に縛られず自由に意見をぶつけ合うことが価値を生みます。

現場の作業者から「そんな簡単に言うけど本当にそれできるの?」といった率直な疑問も拾い上げ、実効性100%で施策化することが理想です。

3.「短期決戦」のスケジュールを明確化し、現場で即トライ&エラー

日本の製造現場は“計画好き”ですが、現実には「会議ばかりで何も変わらない」ことが多いのが実情です。
共同カイゼンイベントでは、「1週間で必ず歩留まりを2%改善する」「3日で3つの解決策をテストする」など、短期間で結果を出す具体的な目標を設定し、その場でどんどんトライアルします。

机上検討だけではなく、現場を開放してバイヤー担当者も現物を手に取り、改善アイデアを即座に実施・検証できる環境を作りましょう。

たとえ一部失敗しても、PDCAサイクルを超速で回すことが、“イベント型”カイゼンの最大価値です。

イベント型改善の成果を「単価見直し」に活かす方法

1.成果を“見える化”し、納得感ある交渉材料とする

共同カイゼンで歩留まりがたとえば2%改善できた場合、そのインパクトは「材料費や労務費の何%相当」「1点あたりのコストダウン効果」など、はっきりと数字で成果を出しましょう。

ここでバイヤー主導、「だから次回から○円下げてよ」という“値下げ強要”は絶対に避けたいところです。

現場同士の納得感を高めるために、「この改善効果は継続的に維持できそうか」「今後追加投資や維持コストはどの程度必要か」など、実行可能性まで議論し、双方にとって現実的な値決めや将来の単価見直しに落とし込むことが重要です。

2.リバースエンジニアリングで新たなサプライチェーン価値を生む

たとえば、バイヤー側で得られた最新の“他社改善事例”や内製技術、サプライヤー側で実践したIoT活用ノウハウなども相互に共有し、「この現場改善は他の仕入先にも応用できそうか?」「新しい自動化投資に応じた単価体系をどう設定するか?」という、“個別利益”の外へ価値を広げていけるのが共同カイゼンの真価です。

最終的には、歩留まり改善→合理的な単価見直し→その結果コスト競争力強化→市場シェア拡大へとつなげていけます。

なぜ昭和アナログ業界でも共同カイゼンは効くのか

根強い「現場力」への信頼とアナログ文化

日本の製造業はアナログ管理や職人技術に頼る現場文化がいまだ色濃く残っています。
この風土の中で「現場での“本音の対話”によるカイゼン」を、外部パートナーと共にやることに初めは抵抗もあります。
しかし一度やってみると、「現場の頑張り」を直接互いに共有できるため、机上論では生まれないリアルな信頼関係や納得感が醸成されやすくなります。

“見せたくない現場”こそ課題の宝庫

また、外部に現場を見せること自体を嫌うサプライヤーも多いですが、「一緒に改善する」という目的であれば本音ベースの対話が生まれ、小さな“恥ずかしい問題”が逆に大きな特効薬となるケースが多いのです。

バイヤーが現場改善活動に参加することで、言い訳や責任追及ではなく、「こうすれば上手くいく」という共同の“現場知”が生まれます。
これが単価交渉や次世代のものづくり力強化につながる原動力となります。

現場視点から見た共同カイゼンイベント 運営の実践ポイント

1.事前準備と目標設計

イベント実施前には、「歩留まり現状データ」「投資・人員制約」「過去の改善失敗例」などを整理し、参加メンバー全体に事前共有しましょう。
「数値目標に対する見積もりロジック」を明確にすることで、イベントの成果が単価交渉までしっかり橋渡しできます。

2.立場にしばられない“現場対話”の場作り

現場作業者の本音を拾うには、上下関係や立場に縛られない「ワークショップ」や「分科会形式」が有効です。
「現物・現場・現実」を合言葉に、なるべく現場そのものを“動きながら”意見を集約しましょう。

3.成果発表とフォローアップ

イベント最終日には、全員参加で成果発表会を開きます。

「どこがどう変わったか」「次に拡げるべきテーマは何か」を数値データと現場感覚に基づき発表することで、イベントの効果を一過性のものにせず、“持続的改善カルチャー”の醸成につなげることができます。

その後は、数カ月単位で定点観測を行い、成果が定着するようにバイヤーサプライヤー双方でフォローアップを怠らないことが肝要です。

まとめ〜製造業のバイヤー、サプライヤー双方の新たな成長戦略として

共同カイゼンイベントは、「安易なコストダウン要求」や「部分最適な現場改善」という昭和型の常識を乗り越えるための強力な武器です。

製造現場の本質的課題に正面から向き合い、短期間で成果を出し、その結果に基づいて納得感ある単価見直しを達成する。

これによりサプライヤーは「価値ある協力先」として信頼を得て、バイヤーは「現場改善力」を核に新規開拓やグローバル競争力強化へつなげることができます。

今こそ、製造業の「現場力」と「協働知」を武器に、“高付加価値”のものづくり産業へのアップデートに挑戦しませんか?

(本文:約3,000文字)

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