投稿日:2025年8月12日

在庫評価と発注データ連携で棚卸資産回転率を向上させた会計連携モデル

はじめに:なぜ棚卸資産回転率が重要なのか

製造業に携わる皆さまなら、「棚卸資産回転率」という言葉を一度は耳にしたことがあると思います。
この指標は、工場の生産効率や経営の健全性を映す鏡のようなものであり、近年は経営層から現場担当者まで広く関心が高まっています。

しかし、昭和時代から続くアナログな商習慣や、“在庫は多めに持つのが安心”という考え方が根強い現場も多く、巧みな在庫管理や会計連携が十分に進んでいない現状も散見されます。
本記事では、現場視点で見直した「在庫評価」「発注データ連携」「会計連携モデル」の構築法を紹介し、なぜ棚卸資産回転率が経営の成長エンジンとなり得るのかを解説します。

棚卸資産回転率とは何か:現場目線で掘り下げる

棚卸資産回転率とは、一定期間内(通常は1年)に在庫が何回「仕入れ→販売→現金化」されたかを示す指標です。
現場で実感するメリットとしては、次のようなことが挙げられます。

現場視点のメリット

– 在庫のダブつきや滞留品が減り、倉庫スペースや保管コストが低減される
– 過剰在庫による“死蔵リスク”の低減(腐敗、陳腐化、保管事故など)
– キャッシュフローが良化し、攻めの投資や設備導入がしやすくなる
– 会計監査時の説明が簡潔になり、無駄な指摘が減る

ですが、現場が“適正な在庫”で運用できていないのは、発注や仕入れの根拠が過去の勘や経験値に頼りすぎていること、そして在庫評価や会計とのデータ連携不足が原因という場合も珍しくありません。

従来型アナログ管理の限界と課題

昭和型アナログ管理では、発注・仕入・在庫情報が“バラバラ”、帳簿やエクセルで管理している現場も多く残っています。
この運用では、次に示すような課題が発生しがちです。

主なアナログ管理の課題

– 日々の引当や倉庫入出庫が紙伝票や目視に頼っているため、在庫データの正しさに自信が持てない
– 棚卸作業の大部分が手作業のため、計数ミスや確認漏れが頻発する
– 発注を担当者の経験値に委ねがちで、ムダな在庫が積み上がる
– 会計部門と現場部門で在庫評価方法にズレが生じ、会計監査でも指摘されやすい

この“伝票至上主義”から抜け出すには、現場と会計をつなぐ精密なデータ連携と、システム化の推進が必要不可欠です。

在庫評価の見直しから始める業務改革

棚卸資産回転率を上げる最初のステップは、“正しい在庫評価”です。
ここで言う在庫評価は「どの時点で、どのロットを、いくらで保有しているか」を正確に見える化することです。

在庫評価の代表的手法と現場への影響

先入先出法(FIFO):古い在庫から先に出庫する仕組み。原材料の価格変動に強い。
移動平均法:在庫が入庫されるたびに平均単価を更新。原価変動の影響が平滑化され、現場管理がしやすい。
実際個別法:一つ一つのロットの入出庫実績まで記録。高額部品やロット追跡が必要な製品で有効。

上記どれを選ぶかは、業態や現場事情に合わせた運用方針が必要となります。
多くの現場で困っているのは、「エクセルによる在庫管理」が独立しており、会計や発注システムと紐づかないことです。
これにより、せっかくの在庫評価データが活かされず、年1回の棚卸で帳尻合わせをしてしまう悪習慣も発生します。

発注データとの連携が生み出す現場力向上

在庫評価を正確にした次のステップが、「発注データ」とのリアルタイム連携です。
昨今の部材価格高騰やサプライチェーン混乱のなかでは、適正在庫の維持と、発注・仕入れタイミングの精度が会社の競争力を左右するからです。

発注データ連携による業務革新の実例

– 月末在庫と発注残高を自動で突合し、発注過多・発注漏れを即座に発見
– ABC分析で回転率の良い品目・停滞品目を自動抽出
– 調達リードタイムや適正在庫量を自動計算し、AIによる発注量提案(未来予測)も可能

例えば、「需要予測」「安全在庫」「リードタイム補正」などのパラメータを自社専用のマスターに登録することで、エクセルや手計算に頼らずに誰でも発注適正化を実現することができます。

会計システム連携の本質は、情報の一気通貫化

現場で得られる一つ一つの情報を“見える化”し、そのまま会計システムに連携すれば、経営層・現場双方に大きなメリットが生まれます。

経理・会計視点のメリット

– 月次・四半期・年次での棚卸評価額の算定が迅速に
– 監査や海外親会社への報告資料作成がワンタッチに
– 経営指標(ROA/ROICなど)のスピーディーな算出
– 不正や誤魔化しの予防(内部統制強化)

また、現場としては「期末棚卸で怒られる」や「監査対応で休日出勤」といったムダな負担から解放され、日常的な正確運用に注力できるようになります。

最近注目される「クラウド型ERP」の活用

– 複数工場・拠点の情報集約と業務標準化
– リアルタイムグラフ化による経営指標の共有
– モバイル端末からの情報入力・承認ワークフロー
こうしたツール群と自社ならではの現場知恵を掛け合わせることで、従来にない“情報の一気通貫”を構築できます。

アナログ業界でも定着する「現場=経営」意識

製造業界では「現場が一番」「現場を知る者が現場を変える」とよく言われます。
この精神は正しいですが、現場主導でIT化や会計連携を進めることができれば、それ自体が他社との差別化になります。

現場目線の改革成功事例

– 棚卸資産回転率を2倍にし、倉庫利用面積を半減
– 書類業務を98%削減し、付加価値業務に時間転換
– サプライヤーへの自動発注連携で購買リードタイムを3分の1に

重要なのは、「トップダウンだけでなく、現場主体で改革を進める」ことです。
現場の“肌感覚”を活かして要件を整理し、まずは一部門・一工場からモデルケースを育てることが最短ルートです。

サプライヤー・バイヤー視点で知っておきたいこと

サプライヤー視点では、「バイヤーがどのように発注量を決定し、評価しているか」を深く知ることが競争力向上につながります。

バイヤーが注目しているポイント

– 部品・材料の回転率(不動在庫化リスク)
– 緊急調達やスポット発注の発生要因
– 継続的コストリダクション提案と実績

サプライヤーも、顧客企業の在庫・会計データの理解を深め、「どんな時期に何が・どれだけ必要か」を予測できれば、余計なロス生産や調整コスト削減、受注率向上につなげることが可能です。

また、コロナ禍以降は「サプライチェーン全体の最適化」がバイヤー企業のテーマになっているため、帳簿在庫や発注データ連携を積極的に取り入れて提案力・競争力を上げていきましょう。

まとめ:新たな地平線、次世代型会計連携モデルへ

棚卸資産回転率の向上は、単なる会計数値の改善では終わりません。
現場主導の在庫評価見直し、発注データ連結、そして会計まで一貫した情報フローを作ることで、「現場の改善」と「経営の成長」を連動させることができます。

古き良き昭和型文化も大切にしつつ、データの持つ新たなチカラを最大限に活かす。
そのために現場の知恵と経営の意志を融合させ、“作る力”と“変える力”をバランスよく育てていきましょう。

明日の製造業を担う皆さまが、現場から経営をリードし、日本のものづくりが世界をリードし続けることを心から願います。

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