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四輪駆動トルクベクタリング制御で走行性能を向上させる方法

目次
はじめに:四輪駆動の進化とトルクベクタリング制御の重要性
自動車産業は、長らくアナログな慣習に縛られた一面を持ちつつも、世界的な競争や顧客ニーズの多様化と共に、急速な高度化を遂げてきました。
こと四輪駆動(4WD/AWD)車両に関しては、従来の機械的なシステムから電子制御へと進化し、近年では「トルクベクタリング制御」が走行性能を劇的に向上させる技術として注目されています。
本記事では、昭和から続く現場感覚を大切にしつつ、最前線の生産・調達・品質管理の目線で、トルクベクタリング制御の原理、開発・導入現場の課題、そしてその可能性について深堀りします。
さらに、バイヤーを目指す方やサプライヤーの立場から見た「なぜ今トルクベクタリングが注目されているのか?」の背景にも迫ります。
トルクベクタリング制御とは:基本原理とメカニズム
なぜトルク制御が重要なのか?
四輪駆動車両は、路面状況や走行状態によって各タイヤが路面にしっかりグリップしていないと、本来の性能を十分に発揮できません。
一方、路面とタイヤの状態は常に変化し続けるため、それに合わせて適切に駆動力(=トルク)の配分を調整することが重要となります。
従来のシステムでは、左右/前後軸のトルク配分は固定的で、滑りやすい路面やコーナリング時には駆動力の無駄やロスが生じがちでした。
トルクベクタリングの原理
トルクベクタリングは、電子制御デファレンシャル(e-Diff)やクラッチ機構を使って、路面状況や操舵角度、車速、ヨーレート等の情報をリアルタイムで分析。
その上で、右・左、および前後の各タイヤに対し「最適な」トルクを緻密に配分します。
これにより、限界走行や悪路走破性だけでなく、
– 意のままの曲がりやすさ
– 安定感ある加速・減速
– タイヤの磨耗低減
といった両立が可能となるのです。
筆者が現場で経験した四輪駆動制御の進化
昭和的な「人の勘」と現代技術の融合
私が現場で新機種開発に関わりはじめた2000年代初頭は、「四駆と言えば、限界走行は人の腕に頼るしかない」という雰囲気が強く残っていました。
操舵やブレーキ、アクセルの操作を全て人がコントロールし、シンプルなLSDやデファレンシャルギアを信用してきたのです。
しかし、電子制御化が進展し、エンジニアと現場作業者の対話を繰り返す中で、「現場感覚でしか分かりにくい走行特性」を数値化し、フィードバック制御に活かす技術が着実に根付いていきました。
「どんな路面でも意のままに扱える」
「ドライバーが安心感を持てる、かつ、限界域でも安全性を高める」
こうした現場の経験は、開発や品質管理の現場でも強く評価され始め、トルクベクタリング制御の導入・発展につながっています。
初期導入の現場苦労
初期導入時は、センサーの信頼性や応答速度、アクチュエーターの消耗、制御ソフトのバグなど、現場工程で多くの問題に直面しました。
とくに品質保証の観点からは、「トルク配分のズレが安全性に直結する」ため、膨大な検証作業を要しました。
しかし、JIT(ジャストインタイム)生産や自動化ラインとの統合が進むことで、安定した品質と「カイゼン」を繰り返しながら、今では安定量産の定番技術となりつつあります。
トルクベクタリングの構成要素と調達・品質管理の観点
必要となる主要部品
– センサー類(車輪速センサー、ヨーレート、操舵角など)
– 電子制御デファレンシャルやクラッチ
– アクチュエーター(油圧・電動)
– 高速演算ECUおよびファームウェア
これらは従来の機械式四駆部品に比べ、より高精度・高耐久・高信頼性を求められるため、調達バイヤーや品質保証部門はサプライヤーの選定に慎重にならざるを得ません。
例えば、量産品質・コスト面・将来のモデルチェンジ対応、そして、セミカスタマイズしやすいかどうか。
このあたりは、日本的なきめ細かい交渉とサプライヤーとの「信頼関係」が明暗を分けます。
不具合発生リスクとその防止策
電子制御系部品の不具合は
「制御不能による重大事故」
というリスクが付きまといます。
そのため、
– 安全認証規格(ISO26262など)に準拠した開発・生産体制
– プレ量産時・初期生産時の念入りなFMEA(故障モード影響解析)や実走行評価
– サプライヤー管理(工程監査、PPAP、APQP手法)
が必須となります。
現場では「異常が見えたら即現地現物で確認」「小さな不具合も上申/共有して未然防止」の文化が強く要求されます。
トルクベクタリング導入のメリットと現場が体感した効果
運転性能の向上
現場でのテストや数値データからも確認できる最大のメリットは、曲がる力と安定性の大幅な向上です。
コーナリング時にアンダーステアやオーバーステアになりそうなとき、即座に内輪/外輪へトルクをきめ細かく振り分け、誰でも「プロのドライビング」に近い感覚で運転できるようになります。
また、雪道やぬかるみなど日本特有の路面変化への追従性も、従来の四輪駆動と比べ格段にアップ。
現場サイドからは、「道路事情や使用シーンが多様でも安心納入できる機種」として、顧客満足度向上にも直結しています。
製造現場への好影響
トルクベクタリング制御の量産工程では標準化・自動化が飛躍的に進みやすく、「作り込み」や「カイゼン」によるパレート損失低減にも貢献しています。
また、不必要に重い部品構成や大型ギア類を削減可能となり、コンパクト化・軽量化、調達コストの低減にも寄与します。
このように「付加価値の高い技術」を現場視点で作り上げていくことが、今後の日本製造業が競争力を保つための核心となっています。
サプライヤー/BYの目線:トルクベクタリング技術がもたらす新たな商機
バイヤーが注目するポイント
技術進化の流れの中で、バイヤーが求めるのは「高信頼性」「安定供給」「コストパフォーマンス」「将来的な拡張性」が高い製品・部品です。
具体的には
– センサー、アクチュエーターなどの多様なメーカー選定・評価
– 自社ラインへの組み込み難易度、サプライチェーンの安定性
– 海外OEM/ODM展開まで見据えた標準化・モジュール化
などが重視されます。
IoTやデジタルツール導入も進む今、「四輪駆動制御にAI活用」「異常検知の自動化」等の付加価値付き提案が、新たなサプライヤー選定の要素となってきています。
サプライヤーが心得るべき戦略
サプライヤーは部品単体のスペック競争を超え、「自社の技術を活かして車両全体の走行性能をどう引き出すか?」
この観点で、完成車OEM/部品バイヤーと協創する姿勢がより重要です。
– 不適合時の迅速対応体制
– 継続的なVA/VE(価値分析/価値工学)提案
– 先端技術・IoTとの連携開発
これらも他社との差別化要素になります。
昭和的「御用聞き」から脱却し、「共創パートナー」シフトが、生き残りの鍵となる時代です。
今後の市場動向と、新たな地平線を見据えた提言
電動化・自動運転普及で拡大するトルクベクタリングの役割
CASE化(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)の波により、
– EV・PHEV等、左右独立したトルク制御が可能
– 電動モーター+トルクベクタリングによる走行安定性向上
このような流れから、トルクベクタリング技術は一層不可欠となるでしょう。
自動運転時代には「人間の勘所」を超えて、ソフトウェア×車両制御メカの高度な融合が求められます。
人と技術が共進化する「現場発」のモノづくりへ
最後に、私の経験から強調したいのは
「どれほどAIや自動化が進んでも、現場の知恵、改善、コミュニケーションは絶対的な価値を持ち続ける」
ということです。
今後の時代は、
– これまで付き合いの薄かったIT企業との協働
– “現場×ソフトウェア”のハイブリッド戦略
– サプライヤーの現場改善力による差別化
こうした姿勢が、日本製造業の更なる進化を支える新たな地平線となります。
まとめ
四輪駆動トルクベクタリング制御は、工場現場と開発・調達・品質管理、さらにはサプライヤーとバイヤーの現実的な課題と可能性の両面から、まさに「業界の未来を切り拓く」キーテクノロジーです。
古い作法や昭和的慣習と、最先端デジタル技術の発展を掛け合わせることで、世界に誇る新たな付加価値を生み出し続けましょう。
一人ひとりの現場の知恵、そしてバイヤー・サプライヤーの変革意識が、製造業全体の競争力をさらに強くする。
その現場感覚と実経験が、次世代のクルマづくりの礎となることを願っています。
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