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インコタームズ選定で着地コスト最小化:EXW/FOB/DDPの使い分け

目次
インコタームズ選定の重要性と着地コスト最小化のポイント
製造業のグローバル化が進む中、調達購買担当者やバイヤーにとって「インコタームズ(Incoterms)」の理解と適切な選定は極めて重要なテーマです。
特に、EXW(Ex Works)、FOB(Free On Board)、DDP(Delivered Duty Paid)といった主要なインコタームズの使い分けは、最終的な着地コストの最小化、ひいては利益率の最大化に直結します。
この記事では、現場目線でインコタームズの特徴・使い分けのコツ、そしてアナログが根強い昭和型製造現場で実際に起きがちな誤解・落とし穴まで分かりやすく解説します。
インコタームズとは何か:現場での基本認識
インコタームズとは、国際間の貨物売買契約で用いられる貿易取引条件の規則集です。
売主・買主間で「商品をどこまで運んでどこで費用負担やリスク移転が発生するか」を明確にするルールと言えます。
昭和時代から続く製造現場ですと、インコタームズを「ただの貿易用語」と軽視する傾向があります。
ですが、現代のバイヤー・調達担当者がコスト競争力を維持するためには、これをコスト管理の武器として最大限活用する発想が欠かせません。
主要なインコタームズ(EXW・FOB・DDP)の違いを理解する
EXW(Ex Works) – 売主工場渡し
EXWは「売主工場渡し」と訳されます。
つまり、売主(サプライヤー)は自社工場や倉庫で製品を引き渡すだけ。
その後の輸送・通関・保険・現地搬入まですべてを買主(バイヤー)が手配し、負担します。
最大限に買主主体の取引形態であり、調達力や現地ネットワークを武器にする大手メーカーや現地法人が多用します。
FOB(Free On Board) – 本船渡し
FOBは「本船渡し」です。
売主が指定港で輸出通関までを行い、商品を本船に積み込むまでが売主の責任範囲。
そこから先、費用とリスクはすべて買主に移ります。
歴史的に日本の総合商社や大手製造業が好むスタンダードな条件で、コストの透明性や手続きの分担という点でバランスが取れています。
DDP(Delivered Duty Paid)- 関税込み持込渡し
DDPは「関税込み持込渡し」。
言い換えれば、売主が買主の指定場所まで輸送し、現地の関税・通関・輸送まで一切合切の責任とコストを負います。
バイヤーにとっては「言われた場所で受け取るだけ」で済む楽な条件。
一方で、現地での運送事情や通関コストの不透明さを、売主が逆に高めに見積もることで価格が上がりがちです。
インコタームズ選定が着地コストに及ぼす影響
最終的に「工場または自社倉庫への着地コスト」をいかに下げるかは、インコタームズの選定戦略に大きく依存します。
着地コストには原材料・部品そのものの価格だけでなく、物流費、保険、輸出入通関、現地費用、為替変動リスクも含みます。
EXWでの着地コスト管理のメリット・デメリット
EXWを選択することで、自社に強力な輸送ネットワークやロジスティクスのノウハウがあれば、現地最適輸送ルートの発掘、コスト削減、納期短縮など多くのメリットがあります。
特に中国・東南アジアなど現地価格と物流コストのギャップが大きい新興国では、EXWの活用でコストを極限まで落とすバイヤーも少なくありません。
ただ逆に、輸送中のリスク増大や現地運送会社とのトラブル、現地通関の不明確さが着地コストの不確実性を招きます。
FOBなら安全・安心のバランス型
FOBは、「一定レベルまでの国内手配はサプライヤー側、そこから先はバイヤー側」が分業になります。
現地の物流や通関に熟知していなくても国際標準で安全に進められる点が魅力。
特に昭和型企業で「現地調達は苦手なのでFOBが安心」という発想が未だに根強いですが、「昔ながらのやり方が本当に最適か?」を再考する余地はあります。
DDPはリスク極小、でもコスト最小化への壁も
DDPを選べば、工場や倉庫で貨物を受け取るだけ。
バイヤーとしての手間もリスクも最小です。
ですが、現地諸費用を売主がすべて計算し、手数料やリスク見積りも上乗せされるため、実は最終着地コストは割高になることが少なくありません。
しかも、現地サプライヤー主導で手配された物流では、トラブル時のコミュニケーションに言語や文化の「壁」が立ちはだかります。
昭和型製造現場の典型的な失敗例とその対策
私の現場経験から、インコタームズ選択において昭和型組織で発生しがちな典型例の1つは「DDP至上主義」です。
総務部や購買部門の管理者が「万全を期してDDPで全部カバー。これが安全」と信じ込み、物流や通関の知識を棚上げして丸投げしてしまう例は、今でも非常に多く見られます。
ですが、その実態は
・余計な現地費用(ダブルチャージ)
・手配現場の実務負担増大
・現地遅延・連絡トラブルによる生産遅延
・サプライヤー依存によるコスト不透明化
など、多くの弊害を生みます。
これを避けるには、EXWやFOBを積極的に使うことに加え、現場の物流実務担当と調達部門とが密に連携し、物流コストとリスクの実態を「見える化」する組織風土の定着が欠かせません。
ラテラルシンキングで新たな選定基準を考える
インコタームズの選定は、価格だけで決めるべきではありません。
「誰が一番リスクを負うべきか」「情報量の差で有利性を最大化できるか」「将来的に自社のコアコンピタンスを強化するにはどの条件がよいか」という観点から、複数の取引先や案件で使い分ける柔軟な発想が理想です。
例えば輸送ルートのデジタル化が進み、サプライチェーン管理のDXが実現した今、「EXWで仕入れ、港~現地までAI物流トラッキングで管理、自社コントロールを最大化」というような形も現実的になってきました。
また、「小規模な緊急発注はDDP、通常量産品はEXWからの一括ロット納品」など、調達の内容・規模・納期ごとにインコタームズを細かく最適化する方法も有効です。
バイヤー志望・サプライヤー双方に伝えたい本質的ポイント
これからバイヤーを目指す方、あるいはサプライヤーの立場でバイヤーと交渉したい方には「インコタームズによるコスト全体像を正確に設計できる力」が何より必要です。
単なる条件提示、価格交渉だけでなく、
・現場でどんなトラブルが起きやすいか
・書類上の「責任」はどこまで現実に作用するか
・物流会社や現地エージェントとの交渉力、現地対応フロー
まで、真の「現場力」を鍛えておくことが自社の強みになります。
また、サプライヤー側も「バイヤーがなぜFOBを選ぶのか」「実はDDPにするとトータルコストで損をしているのでは?」と裏読みすることで、自社製品の魅力を正しく伝えつつWIN-WINの提案ができるはずです。
まとめ:最適なインコタームズ選定=製造業の勝ちパターン
インコタームズの選定は、表面的な取引条件の問題ではありません。
サプライチェーン全体のコスト・スピード・リスクを「見える化」し、自社・現場に最適化するための知恵とPDCAの積み重ねが不可欠です。
昭和から続くやり方にしがみつくのではなく、現場の知恵と最新情報(DXなど)を柔軟に取り入れ、場面場面で「なぜその条件なのか」を深く考え抜くことが、これからの製造業バイヤー・調達担当者に期待されます。
EXW・FOB・DDP―「どれを選んだか」ではなく「なぜ、それを選んだか」。
その戦略的思考を深めることが、製造業全体のコスト競争力・リスクマネジメント力の底上げに直結するのです。
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