投稿日:2025年10月11日

属人化が進んだ調達で不正リスクが増大する課題

はじめに:なぜ今、調達の「属人化」に注目すべきか

ものづくり大国・日本の製造業は、かつての高度経済成長期から長期にわたり、現場力と個々の担当者の経験・スキルに大きく依存して進化してきました。
しかし、それが裏を返せば、調達購買部門における「属人化」が長年放置されてきたことも意味します。
近年、不正リスクの顕在化やコンプライアンス違反のニュースが増える中、調達の属人化がいかに深刻な課題か、改めて考え直す時が来ています。

本記事では、調達業務の属人化がなぜ不正リスクの温床となるのか、そして昭和型のアナログ体質からどのように脱却して、サステナブルかつ透明性の高い調達体制へ移行するべきか、現場目線で実践的に解説します。
製造業に携わる方はもちろん、バイヤーを目指す方や、サプライヤーとしてバイヤー目線を知りたい方にも役立つ内容をお届けします。

調達の「属人化」とは何か?

業務が「人」について回る日本の特徴

調達購買の現場では、担当者ごとに「取引先リスト」や「価格交渉」、「納期調整」のノウハウが個人に蓄積されがちです。
これは「匠の技」や「名人芸」と称され、美徳とされた時代もありました。
一方で、仕組み化や情報の共有が進まないことで、業務が特定の人にしか分からないブラックボックス状態になっているところが多いのも事実です。

なぜ属人化が進行するのか? 根本原因に迫る

属人化が進む主な原因は以下の通りです。

・アナログな業務フロー(FAX、電話、Excel台帳…)
・長年の慣習に基づく「引継ぎ」不足
・部署内のコミュニケーション不足
・人手不足によるリソース分散の困難さ
・「前任者からそのまま受け継ぐ」という意識

こうした背景には、「従来通りが一番」という現場の保守性や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れも大きく影響しています。

属人化が引き起こす不正リスク

不正の起きやすい“温床”とは?

調達業務が属人化すると、全ての取引情報や発注の流れが一元管理されず、人任せになってしまいます。
担当者にしか分からないやり取りや、監査が届かないグレーゾーンが日常的に発生しやすくなります。
更に、逆境・プレッシャー下では、担当者の「裁量」が暴走し、不正を誘発する可能性も出てきます。

典型的な不正・グレーな事例としては下記が挙げられます。

・キックバック(リベート)の受領
・特定サプライヤーへの利益誘導(癒着)
・見積競争を偽装した随意契約
・見積書の改ざんや架空発注
・納品数量・単価の水増し

これらは「監視の目が届かない」「付き合いの長いサプライヤーに頼りきる」環境下でこそ起きやすい現象です。
実際に、大手メーカーですら調達部門の不正発覚事例が相次いでおり、社会的な信頼失墜につながるケースも目立っています。

現場担当者が不正に手を染める“心理的背景”

多忙・プレッシャーの中で、現場担当者が不正に手を染めてしまう心理的な背景には、

・独りよがりな“達成感”(「自分がいないと現場が回らない」意識)
・サプライヤーとの“なれ合い”や“恩義”意識
・内部牽制・ダブルチェックが機能していない安心感
・不正発覚時のリスク低減(「どうせバレない」という慢心)

などが見られます。
特に中堅・中小・ローカル企業においては顕著で、「現場力」の美名の下、まだまだ属人的なやり方が根強いのが実情です。

「昭和」型調達を脱却するための実践的アプローチ

1. 調達業務の標準化・マニュアル化の徹底

まずは、誰がやっても同じレベルで業務を進められるように、調達プロセスを詳細に棚卸・可視化します。
全ての手順を「業務フロー」「チェックリスト」「マニュアル」として文書化し、属人的な手法を排除します。
階層や役職を問わず、全社員による共有・浸透を図るのがポイントです。

2. IT化・システム化による可視化と透明性の向上

調達システムやERP(基幹業務システム)、電子契約・電子承認などの導入も今や必須です。
受発注や見積など全ての取引データをシステムで一元管理し、履歴のトレースやモニタリングを可能にします。
また、改ざん防止機能やアクセスログ管理によって、不正抑止の環境も整います。

3. 二重チェック・複数人による承認フローの実装

「担当者一人」に全ての判断や権限を持たせず、必ず複数の目で審査・承認する体制にします。
ヒューマンエラーや不正の芽を早期に摘み取るダブルチェック、役職ごとの承認ワークフロー設定が肝要です。

4. 定期的な教育・コンプライアンス研修

業界動向や法令改正、社内ガバナンス方針などの最新情報について、定期的な教育・研修を実施します。
グレーな事例を教材とし、「自分たちが置かれたポジションの危うさ」を現場レベルに再認識してもらうこと、さらには内部通報制度の徹底周知も大切です。

5. 可能な限り「匿名評価」「ベンダー360度評価」の導入

特定の担当者による「えこひいき」や「サプライヤーとの癒着」を予防するため、取引先評価や価格条件、納期遵守率などを個人任せせず、データドリブン・チーム評価していく観点も重要です。

バイヤーを目指す人・サプライヤーの立場から見た注意点

バイヤーになりたい方へのポイント

スキルや経験値以上に大切なのは、内部統制や調達ガバナンスの視点を持つことです。
「自分の裁量で動いて当然」ではなく、「透明性・説明責任」を常に意識しましょう。
社内外から信頼を勝ち取り、会社の顔=バイヤーであるという意識を持つことが、不正リスク回避にもつながります。

サプライヤーから見たバイヤーの“腹の内”を読むコツ

取引において注意すべきは、バイヤーも一人で決めているわけではなく、内部での承認プロセスや監査の目があるという点です。
「口約束」や「担当者とのなれ合い」だけでは長続きしません。
むしろ公正でデータ主導な評価を歓迎し、仕組みのうえでWin-Winの関係を築く姿勢が必要と言えます。

アナログ業界でもできる「小さな一歩」

また、全社レベルでのDXやERP導入は中堅・中小企業にとってはハードルも高いのが現実です。
そこでまずは、下記のような小さな一歩から始めましょう。

・取引先台帳をExcelで整理し直す
・担当者だけに任せず、定期的な上長レビューを実施する
・契約書・見積書・請求書など取引文書を順次電子ファイルに変換して保管する
・社内ミーティングで「取引先選定の基準」「調達ルール」の明文化を進める

こうした地道な積み重ねが、属人化解消の大きな足掛かりとなります。

まとめ:属人化の壁を乗り越え、信頼される調達部門へ

調達業務の属人化は、長年ものづくりを支えてきた現場風土と密接に絡み、根の深い構造問題です。
しかし、不正リスクの芽を摘み、安全・安心なものづくりを未来につなぐためには、今こそ「昭和型調達」からの脱却が欠かせません。

組織の規模や業種業態を問わず、IT化や内部統制の取り組みを「自分ごと」として一歩ずつ始めていきましょう。
属人化を解消し、誰にとっても働きやすく、コンプライアンスを重視した調達部門を実現できるかどうかが、日本製造業の持続的成長を左右すると言っても過言ではありません。

この記事が、今まさに調達購買の現場で奮闘する皆様の課題解決や自己成長のヒントとなることを願っています。

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