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ITベンダー依存度が高まり自走できない問題

目次
はじめに―ITベンダー依存がもたらす製造業の自走困難とは
ここ十数年で、製造業もデジタル技術活用が急速に進みました。
工程管理、生産スケジューリング、品質トレーサビリティ、サプライチェーンの最適化など。
現場はもはやIT抜きでは語れません。
しかし、その裏で深刻化する問題があります。
それが「ITベンダー依存度の高まりによる自走力低下」です。
私自身、工場長や調達・生産管理担当として、数多くのプロジェクトでITベンダーと協働してきました。
新規システム導入や工場自動化、IoT活用において、ITベンダーの力が不可欠な場面も多いです。
ですが現場では、こんな声も上がります。
「ベンダー抜きでは何もできない」
「ちょっとした設定変更も全部お任せ」
「現場から出た要望さえ、ベンダー経由でしか反映できない」
こうした状態は「自走できない工場」「自律できないバイヤー」を生み、柔軟な改善やコスト圧縮、現場目線のイノベーションを阻んでしまうのです。
今回は製造業のリアルな現場事情と、現実に起こっているITベンダー依存と自走困難化の問題について、業界内での通説や「昭和の感覚」も交えながら、ラテラルシンキングで掘り下げていきます。
なぜITベンダー依存が高まっているのか―背景と本質
背景1:デジタル化の波―外部委託の必然性
デジタル技術の専門性は年々高まっています。
製造ラインの自動化システムやMES(製造実行システム)、EDI(電子データ交換)、品質トレーサビリティなど、IT化の進展は目覚ましいものがあります。
しかし、それらを「自前」で技術開発・運用することは現実的に困難です。
メーカーは本来、物理的なものづくりや工程・品質管理が主戦場。
IT専門人材も圧倒的に不足しています。
このため、開発・運用を大きくITベンダーに頼らざるを得ない。
外部委託はある意味、必然とも言える構造です。
背景2:業界特有のアナログ壁とベンダー任せ体質
製造業は「昭和の現場感覚」が色濃く残る業界でもあります。
現場には熟練者の暗黙知、マニュアル処理、多段階の承認フローが根強く残っています。
IT化の際に「これはベンダーに頼みましょう」と丸投げしやすい土壌があるのも事実。
会議で「分からないなら、まずベンダーに聞け」と言われることも少なくありません。
こうした伝統的なアナログ体質も依存度を加速させています。
背景3:調達部門の変化とベンダーコンソーシアム戦略
近年はサプライチェーン全体最適化やバリューチェーン改革がトレンドとなり、調達バイヤーもITベンダー各社の「コンソーシアム型提案」と向き合うことが常態となりました。
RFP(提案依頼書)から開発・保守まで、すべてを一括受託させる方式はラクな半面、自分たちで「勉強して判断する」感覚が薄れやすくなっています。
自走できない状況がもたらす製造業のリスク
1. システム改善スピードの鈍化
ITベンダーに依存すると、ちょっとした現場の「気付き」や改善提案も、いちいちベンダーに説明し、見積りや工程合わせをしなければなりません。
現場で「あれを変えたい」「この仕様を調整したい」と思っても、自分たちで手直しできず、大きな時間的ロスが生じます。
2. コスト増大とベンダーロックイン
毎回都度の見積りや追加開発費が発生します。
また、自社独自の仕様や業務フローに合わせすぎると、他ベンダーに乗り換えが難しくなる「ベンダーロックイン」状態になりやすいです。
これは長期的にコストアップや競争力低下に直結します。
3. 現場の当事者意識・イノベーション減退
自分たちでシステムを構想・運用し、試行錯誤する経験が失われます。
結果、現場メンバーのITリテラシーは上がらず、改善やイノベーションの意欲も減少していきます。
「どうせベンダー任せだし」という空気が蔓延すると、新しい価値創出や効率化も止まってしまいます。
4. DX(デジタル・トランスフォーメーション)停滞の根本的要因
近年、多くのメーカーがDX(デジタル変革)推進を叫んでいます。
しかし「システム導入=DX」と誤解し、中身の変革(業務プロセスや人材育成の改革)が進まないケースが非常に多いです。
これはすべて「ベンダー任せ」で自分たちで何とかしよう・変化しようという主体性が育たないことが根本要因の一つです。
ラテラルで考える!自走力を高めるために変えるべき視点
1. 自社エンジニアの「翻訳者」役割を戦略的に位置付ける
自前ですべて開発・運用は難しくても重要なのは「現場要件⇔ベンダー技術」の橋渡し役=『IT翻訳者』を自社人材内で確立することです。
業界ではこの役目を「業務改革推進者」や「情報システム部門担当」と形式的に呼ぶことが多いですが、実際は現場感覚、なんなら製造現場を知る「現場上りエンジニア」がこれを担うべきです。
導入前にベンダーの専門用語がわかる。
現場の困りごとをIT的に砕いて説明できる。
こうした人材を意識的に育てれば、ベンダー依存体質が一気に変わります。
2. ノーコード・ローコードを現場の新しい武器に
2020年代に入ってから注目が集まる「ノーコード・ローコード」ツール。
これまでエンジニアしか触れなかった領域を、現場担当者でもアプリ作成や帳票自動化が可能になっています。
例えば調達・購買プロセスの簡易ワークフローや、在庫トラッキングの見える化。
大規模システムを変えなくても、まず部分的な現場主導のIT活用から始めてみる。
こうした「小さな自走体験」が全社の自立意識を刺激します。
3. ベンダー選定時に「自社で手を動かせる領域」を明確に
新規システム選定やベンダーとの契約時には、カスタマイズ・設定変更・運用保守など、どこまで自分たちでできるかをはじめから整理しておくことがポイントです。
RFPや要件定義で、「自社が主体となれる領域」をベンダーと徹底的に詰めていきましょう。
また、保守契約についても「自社内対応可のメニュー」を用意したり、トレーニングの提供を条件とするなど、工夫できる点は多いです。
4. バイヤーも「業務標準化」へラテラルに挑戦を
ベンダー依存の最大の温床は、現場ごと・担当者ごとにルールやフローがバラバラな点です。
これを「全部作り込んでベンダーに合わせさせる」時代から、「どこを標準化して外部リソース活用しやすくするか」という発想に切り替えましょう。
サプライヤー側も自社標準化が進めば、バイヤーの意図や考えをつかみやすくなり、より建設的にシステムの利用や改善点を提案できるようになります。
現場/バイヤー/サプライヤーのそれぞれの立場で考える、新しい連携姿勢
製造現場目線:現場IT人材の育成と成功体験の蓄積
現場の主導権を取り戻すには、現場発の小さな自動化・デジタル変革が鍵です。
全体最適より部分最適の積み重ねでも、現場にとってプラスなら十分です。
「できることから始める・自分たちで手を動かす文化」を根付かせましょう。
バイヤー志望者目線:ベンダー任せから「業務設計」の主役に
自社システムを理解し、自分たちの業務をどう標準化・最適化するか。
現場とのヒアリング力こそ、バイヤーに必要な最大の武器です。
単なる価格交渉屋から、業務プロセスのデザイナーという新しい役割へ進化しましょう。
サプライヤー目線:バイヤーの業務視点を理解し提案力へ
サプライヤー側は、自社製品やサービスがどのようにバイヤーの業務プロセスに関与するのか。
単に売るだけでなく相手目線で「どう使われているか・どこで困っているか」をつかみ、「こんな運用方法もありますよ」と提案できる人材が求められます。
この連携こそ、従来型の「囲い込みビジネス」から、共創時代の成長戦略へ切り替えるヒントになるはずです。
まとめ―自走する現場へ。再びものづくりの強さを取り戻すために
ITベンダーの力はこれからも不可欠です。
一方で、「自分たちの現場を、自分たちで考え、作る」というものづくりのDNAを決して失ってはいけません。
自走力とは、単にITスキルを持てという話ではありません。
現場の要望を自社でかたちにできる経験者を育てること。
ノーコードや標準化も武器。
ベンダーに全て依存せず、自分たちで動かしてみる勇気。
その積み重ねが、柔軟で強い製造現場を生み、サプライヤー・バイヤーの双方で「共創」を実現します。
今こそ昭和の成功体験やアナログ体質から一歩抜け出し、「自走するものづくり」へ。
これこそが、これからの日本の製造業を支える本当の競争力となると私は信じています。
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