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納入拠点の分散要求で物流コストが増える問題

目次
はじめに:物流コスト増加の背景
製造業に従事されている皆様であれば一度は経験されたことがあるであろう、納入拠点の分散。
昨今のサプライチェーン強靭化や、緊急時対応の観点から、多拠点への納入要求が増加しております。
「顧客満足のため」と分かってはいても、その裏に潜む物流コストは無視できない負担となっています。
本記事では、私自身の現場経験や業界の最新動向を織り交ぜつつ、納入拠点の分散がもたらす物流コスト増加の課題を解き明かします。
そのうえで現場で実践可能な対策や、アナログからの脱却が難しい製造業だからこそ活かせる工夫についてもご紹介します。
バイヤー志望者やサプライヤーの方も、きっと新しい気づきを得ていただけるはずです。
なぜ納入拠点は分散されるのか
サプライチェーンリスク対策としての分散
コロナ禍以降、サプライチェーンの脆弱さが浮き彫りとなり、多くのメーカーが「一拠点集中」のリスクを痛感しました。
そのため、納入先を複数に分ける動きが加速しています。
BCP(事業継続計画)の一環として、「複数拠点での納品」をサプライヤーに要求するケースが増えています。
生産・在庫の最適配置による分散
さらにグローバル競争が激化する中、各地での需要の変動に俊敏に対応するために、製品や部材を複数拠点で受け入れるという戦略的な発想も根付いてきました。
拠点ごとの生産計画や在庫配置の最適化を目指す流れは、必然的にサプライヤー側の納入拠点分散へとつながります。
拠点分散がもたらす物流コストの現実
「物流効率の悪化」という副作用
納入拠点が増えるほど、配送ルートの重複や積載率の低下、運行距離の増加が発生します。
これにより、1カ所集中配送時に比べて車両台数や人員、燃料コスト、さらには伝票や管理業務の煩雑さまでもが肥大化します。
結果として、「物流を単に外部委託すればいい」という従来発想が通じなくなっているのです。
アナログ業界特有の「見えないコスト」
紙伝票や電話・FAX手配、手作業での伝達ミスが発生しやすい“昭和的”な現場では、これらが配送拠点分散時に顕著になります。
一度の伝票エラーや積み間違いが「再配送」「謝罪対応」「納期調整」など大きな手間と損失に繋がります。
これらは現場で働く人にしか見えない、まさに「隠れたコスト」です。
現場経験者からみたコスト増加の具体例
私が工場長をしていた時代、100%集中納入から5拠点納入へ切り替えた際の事例を紹介します。
当初は「1回のトラックで往復すれば大して変わらない」と考えがちでした。
しかし現実は違います。
・全5拠点の納入指示書作成(事務負担が一気に5倍へ)
・積み荷の分割・仕分け作業(現場スタッフ2倍体制に)
・トラックの出入り回数増加による待機時間の発生
・配送ミス発生率の上昇
・問い合わせ・クレーム・現場立ち会いも急増
結果、「経費を年間20%圧縮」という目標は一転。
むしろ年間物流コストが10%増加してしまったのです。
表面には見えない各所の“割り込み業務”が増え、どこかで必ずムダが発生します。
業界動向:なぜ抜本的な改革が進まないのか
レガシー文化が根強く残る理由
製造業、とくにアナログ業界では「今までのやり方から抜け出せない」傾向が強いです。
IT導入が遅れ、現場の職人技へ頼る部分が多いため、抜本的な物流改革、生産・出荷・納入体制の再構築が進みづらいのが現状です。
「配送料は必要経費」「多少の無駄は仕方ない」といった慣習が組織文化として根付いており、外部委託時にも“伝票・電話”などアナログ作業を要求し続けてしまうのが日本特有の現象です。
バイヤー(調達側)はどう考えているのか
バイヤー側の立場から見ると、
「コストは抑えたいが、万が一のリスクや納期遅延は絶対に回避したい」
「できるだけ多様なサプライヤーから柔軟に納入したい」
「管理しやすい情報体制になってほしい」
という思いがあります。
とはいえ、現状の業務プロセスを大きく変えるリスク、システム投資への慎重さも根強いのです。
サプライヤー・バイヤー両面からの対応策
(1)納入拠点の“最小化交渉”を戦略的に
サプライヤー側は「どうしても拠点分散が必要か?」というスタート地点に立ち返ることが重要です。
バイヤーとの綿密な対話を通じて、拠点ごとの在庫調整、まとめ納入の可能性、納入頻度の見直し(JIT納入からバッチ納入も含め)など、最小限で済むように交渉しましょう。
(2)中継・保管型拠点の活用
拠点ごとに“直送”するのではなく、物流センターや中継デポを活用し、一括納入後に必要な分だけ各拠点分に仕分けて最後の配送を行うスキームも有効です。
物理的な距離だけでなく、「納期」や「在庫回転率」の観点から全体最適を模索する発想が求められます。
(3)物流・出荷管理の自動化・見える化
IT導入やIoT活用が遅れがちな業界ですが、簡易的な出荷状況の“見える化”アプリや、配送計画の自動最適化ツールを活用する事例も増えてきました。
既存システムと組み合わせる「カイゼン」を積み重ねることで業務の平準化・合理化が進み、無駄な再配達や人為的ミスが減り、長い目でコスト削減につながります。
(4)現場ヒアリングの充実と“ボトムアップ”意見の重視
社内外、納入業務に携わる現場スタッフ・ドライバー・事務方の声を拾い、業務フローの“痛いポイント”を丁寧に洗い出しましょう。
現場で生まれる小さな工夫(納入リストの標準化、段取りチェック表の導入など)は即効性があります。
今こそ昭和アナログの強みも見直す
地場密着型物流の“顔が見える関係”は財産
一見、非効率にも感じる昭和的な「ご用聞き」「個別相談」も、納入拠点分散時の細やかな要求調整やトラブル時の即応力に活かせる部分があります。
全国規模の物流企業一辺倒ではできない「地場業者との連携」や、「きめ細かいアナログ対応」は日本の製造業の実は強みなのです。
小規模改善(カイゼン)から始めるべき理由
抜本改革が難しいと悩まず、できることから始める。
ひとつひとつの仕組みを小さくでも見直し、集中的に“点検”することで、アナログの現場でもじわじわとコスト最適化が進みます。
まとめ:ラテラルシンキングで新たな解決策を
納入拠点の分散要求は、今後もますます増加が予想されます。
物流コスト増加は「仕方がない」とあきらめるのではなく、課題を多面的に捉えて深掘りし、ラテラルシンキング(水平思考)で新たなアプローチを模索することが重要です。
1. バイヤー・サプライヤー間の本音の対話で“最低限必要な分散”の見極め
2. 中継拠点や最新の物流IT技術を柔軟に取り入れる姿勢
3. 昭和アナログ現場の良さを活かし、小さな工夫改善(カイゼン)を重ねる行動
4. 現場最前線からのボトムアップ提案を重視
これらを実践することで、コスト上昇を抑えるだけでなく、より強靭で柔軟なサプライチェーンを構築する第一歩が踏み出せます。
現場で奮闘するすべての方へ――いま目の前の業務に「一歩だけ」「新しい視点」を持ち込み、共に未来の製造業を切り拓いていきましょう。
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