投稿日:2025年12月3日

夜間作業の増加が事故率を高める深刻な実態

夜間作業の増加が事故率を高める深刻な実態

1. はじめに:昭和から現代まで続く夜間作業の現状

製造業には「止められない、止めてはならない現場」が数多く存在します。

生産ラインを24時間体制で維持するための夜間作業は、昭和の高度経済成長期から変わらず続けられてきた現場の常識です。

人々のライフスタイルや働き方が多様化しデジタル化が進む現代も、「夜勤」は意外なほどアナログで、しかも厳しいままの現場が多いのが実情です。

しかし、近年の人手不足や需要変動への柔軟な対応という名目で、夜間稼働の頻度が増し、「事故」のリスクが確実に高まっています。

夜間作業が増加することで現場にどんな変化が起きているのか、そして、その背景にある業界の根深い課題と今後の方向性について、現場目線で深掘りします。

2. 夜間作業の増加と共に高まる事故率

工場や物流センターなどものづくりの現場では、人員配置やシフト制の見直し・労働時間管理の柔軟化などの施策とともに、夜間対応が増加しました。

しかし、この「夜間作業の常態化」は、多くの課題を引き起こしています。

最大の問題は「事故率の上昇」です。

夜間に起きる労働災害やヒューマンエラーは、厚生労働省の統計を見ても日中の1.5倍から2倍となっています。

私自身、現場管理職として数多くのヒヤリ・ハットや小事故を目の当たりにしてきました。

夜間シフトになると、最も多いのは「疲労による判断ミス」「安全確認の省略」「ルーティンになれすぎた手抜き」「外部とのコミュニケーションロス」です。

たとえば、深夜にフォークリフトが壁に衝突したり、不注意で手を挟んだりといった単純作業ミスが目立ちます。

また、調達ミスによるライン停止や、想定外の設備トラブルが夜間ほど「大事」になりやすいのも特徴です。

3. なぜ夜間作業の事故が減らないのか

夜間の事故リスクが下がらない最も大きな要因は、「人間」を前提とした運用が依然として続いている点にあります。

特に昭和から続くアナログ業界では、管理や運用の根本が「人の勘」「ベテランの経験」「人数合わせ」に立脚しています。

最新の自動化設備を入れても、結局その運用を支えるのは『夜勤要員』という人海戦術に頼っています。

たとえば、ある工場では「設備の安全装置を入れるより、ベテランの配置でしのぐ」ことがしばしば見られます。

昭和的な現場感覚で「多少の危険は仕方ない」「自己責任」という風土が根強く残っていることも問題です。

この結果、夜間には「眠気」「集中力低下」「周囲の見落とし」「意思疎通の悪化」といった、事故を誘発しやすい条件がすべて重なってしまいます。

4. 人材不足との深い関係

近年、夜間作業の増加には深刻な人手不足が絡んでいます。

団塊世代の大量退職や若年層の製造業離れ、外国人技能実習生への依存など、現場の人員構成が激変する中、シフト体制の見直しがうまくいかず、残されたベテランや一部の人に負荷が集中しがちです。

夜勤経験のない新人が突然夜間帯に投入されることも珍しくありません。

また、バイヤーやサプライヤーなど「工場外」で働く方々も、夜間対応を求められたり、納品や緊急調達の調整で深夜に奔走するケースが増えています。

これがバイヤーと現場の間にさらなる「意識のすれ違い」をもたらし、納期厳守や安全担保との差配がますます困難になっています。

5. デジタル化の停滞とアナログ文化の壁

製造業全体ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれて久しいですが、夜間作業の現場では意外なほど変化が緩慢です。

実際、「夜勤帯はベテランに頼る」「IoTやRPAは昼間の管理部門だけ」といったように、現場の運用は相変わらず手作業と紙に依存しています。

夜間は今も現場のメモ書きや口頭指示が多く、「証跡が残らない」「情報伝達が属人的になる」といった構造的な問題が顕在化しています。

この状況が、事故原因の根本的な「見える化」や「共有」を阻み、悪循環を引き起こしています。

6. 夜間作業ならではの心理的リスク

夜間作業には独特の「孤独感」「閉塞感」「ストレス」が伴います。

工場やオフィスが静まり返り、管理者や他部門との連携が難しくなる深夜帯は、どうしても心理的に不安が高まります。

「誰も助けてくれない」「何かあっても気付かれにくい」といった状況が、実際の作業ミスや重大事故後の迅速対応を遅らせます。

また、ヒヤリ・ハットの情報共有や小さな失敗の報告が「朝まで放置」されることも多く、教訓の蓄積・水平展開がうまくいきません。

7. 業界の構造と風土への本質的な問い

本質的な問題として、製造業界には「夜勤は仕方ない」「事故もつきもの」という諦めや慣れがあります。

特にバイヤーやサプライヤーの観点では、品質・納期・コストのプレッシャーが優先され、安全や働き方が後回しになりがちです。

しかも、現場の「夜勤」の大変さや事故リスクが、外部の調達部門や顧客に十分に伝わりにくい=見えにくい構造があります。

「現場で本当に困っていること」が伝達される前に、アナログ的な“調整力”や“根性”で丸く収めてしまいがちです。

この業界固有のムードを変えない限り、夜間作業の事故率問題は本当の意味で解決しません。

8. バイヤー・サプライヤーが知っておくべき現場のリアル

今後、調達・購買担当やサプライヤーの立ち位置の方々にこそ知ってほしいのが、「現場の夜間作業の厳しさと、そのリスクの具体性」です。

納期短縮やイレギュラー対応を依頼する際、それが夜勤現場や物流現場にはどれだけ負荷をかけるかを理解し、可能な限り代替策を考える発想が求められています。

また、事故発生の背景やヒヤリ・ハットの教訓を、現場だけでなく調達担当者・バイヤーが共に「学び」にする仕組みが必要です。

B to Bの現場力向上には、情報の見える化と正確な共有、相互理解がカギとなります。

9. 未来への提言 ~新たな地平線を目指して~

今後は、現場の運用を「人任せ」にせず、自動化・デジタル化・IoT化を夜間帯にも波及させる必要があります。

リアルタイムの状況把握や遠隔監視、AIによるライン異常の自動検知、ウェアラブル端末での見守り、ヒヤリ・ハット情報のデータ化といった仕組み作りが急務です。

また、「夜間作業イコール危険」という現場風土を打破し、多様な人材や働き方(例:ローテーション勤務・ジョブシェア)を組み合わせることで、リスク分散と安全文化の再構築を目指しましょう。

さらには、製造現場だけでなくバイヤーやサプライヤーといった調達サイドも含めた「全体最適」の視点で、「夜間作業の少ない現場そのもの」に舵を切るべき時期に来ています。

短期的な生産効率やコスト削減だけでなく、安全と安心=サステナブルな現場づくりへの意識転換が、企業存続の大前提となります。

10. まとめ

夜間作業の増加がもたらす事故率上昇は、製造業界全体にとって決して「一部の工場の問題」ではありません。

現場目線のリアルな課題を直視し、バイヤーやサプライヤー、管理職すべてが「当事者意識」を持つことが、誤った慣習や思い込みから抜け出す唯一の道です。

昭和の「勘」と「根性」に頼る体質から脱却し、新たな安全・効率の地平線を一緒に切り拓いていきましょう。

それが、次世代の製造業の未来を守る、最良の選択肢です。

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