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クラウド移行で既存システムと整合せずトラブルが増えた事例

目次
はじめに
近年、製造業においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が本格的に押し寄せています。
特に調達・購買、生産管理、品質管理、そして工場の自動化など、あらゆる現場領域でクラウドサービスの導入が加速しています。
一方で、「クラウド移行を進めたら、現場の既存システムと整合せずに現場トラブルが倍増した」「昭和体質のアナログな現場との壁が想像以上に厚かった」といった声も根強く聞きます。
この記事では、実際に発生しやすいクラウド移行時のトラブル事例や、その背景にある業界特有の事情を現場目線で紐解きます。
クラウド化の成功と失敗の分水嶺を、現場を知る者ならではの視点から明らかにし、読者の皆さんが自社のDX推進を円滑に進めるためのヒントを提供します。
製造業におけるクラウド移行の実情
なぜ今、クラウド移行なのか
まず、なぜ多くの製造業企業がクラウドサービスの導入に急ぐのか、その背景を整理します。
近年、グローバル競争の激化や顧客ニーズの多様化により、調達や生産・出荷に求められるスピードと柔軟さが従来とは桁違いに高まっています。
また、在宅勤務や拠点分散といったニューノーマル対応も加わり、従来のオンプレミス型システム(社内にサーバーを持つシステム)では、業務変化や拡張への迅速な対応が困難となりました。
その解決策として注目されたのが、柔軟性・拡張性・コスト効率に優れるクラウド移行です。
アナログ業界ゆえの難しさ
しかし、製造現場は「昭和の根性文化」と「紙とハンコの文化」が今なお色濃く残る領域でもあります。
基幹システムは20年以上前に構築されたものが現役というケースも珍しくありません。
熟練者の経験値や人海戦術に頼る現場も多く、ITリテラシー格差も激しいのが実情です。
クラウド移行の波は、こうした現場特有の土着的文化やレガシーシステムとの衝突を引き起こしています。
クラウド移行によって現場で実際に起きたトラブル事例
事例1:調達・購買業務で発生した実際のトラブル
ある大手自動車部品メーカーの事例です。
スピーディな部品発注やサプライヤー連携強化を狙い、クラウド型の調達管理システムを導入しました。
しかし、現場で使っていた従来の在庫管理システムとのデータ連携仕様が曖昧なまま運用を開始。
結果、以下のようなトラブルが発生しました。
– 発注データが二重管理となり、入力ミス・転記漏れが続発
– リアルタイムで在庫引当が反映されず、欠品リスクや納期遅延が多発
– 重要な発注履歴の一部が新旧システム間で紛失・重複記録
特に現場担当者から「二重入力の手間で逆に作業時間が当初の1.5倍」「進捗確認のため、結局紙伝票を保存せざるを得なくなった」といった不満が噴出。
本末転倒の状況になってしまいました。
事例2:生産管理システム刷新時の接続不具合
工場ごとの独自カスタマイズが多い生産管理システムを、グローバル統一のクラウド型ERPに置き換えたある化学メーカー。
本社情シス主導でシステムが導入されましたが、現場独自の製造ライン管理や検査帳票の取り扱いが考慮されていませんでした。
その結果、設備の稼働実績や不良報告、製造指示と実績の突合がうまくいかず、現場オペレーションに大混乱が生じました。
しかも、現場の非IT人材は「誰にどこまで何を伝えればいいのか」が分からず、トラブル対応にも遅れが出ました。
クラウドベンダーも「標準仕様外の現場運用」はノンサポートという冷たい対応に終始し、現場側での応急処置が常態化してしまいました。
事例3:品質管理の旧ファイルとのミスマッチ
品質検査業務のデータ管理をクラウド化した際の事例です。
従来エクセルベースで数十年分の品質記録や工程内異常履歴を蓄積していたのですが、クラウド化の過程で「新システムへのデータ移行仕様」が十分に詰められていませんでした。
結果として
– 過去データの検索性が大幅に低下(旧ファイルと新DBの項目名やフォーマットが合致せず)
– 問題品調査時に必要となる過去情報が即座に照会できない
– クレーム対応や監査時に資料の再作成作業が多発
こうした「データの迷子」による業務リスクは、品質第一の製造業にとって致命的となります。
現場では「結局ローカルにも旧ファイルを残さざるを得ず、クラウド化の意義が分からなくなった」という声が上がりました。
なぜ整合しないトラブルが起きるのか──昭和と令和のギャップ
現場独自カスタマイズ文化の壁
多くの大企業製造現場では、1970~1990年代に導入された基幹システムを現場に合わせて部分最適化(カスタマイズ)しながら維持してきました。
こうしたシステムのカスタマイズ履歴や運用ルールは、現場の「ベテラン担当しか知らない暗黙知」になりがちです。
クラウド化プロジェクトは、本社や情シス・ITベンダー主導で進みがちですが、その“現場で鍛えられた知見”が十分に継承・吸収されていない場合が多いのです。
「標準化」と「現場力」のジレンマ
クラウドサービスは「グローバル標準化」「スピーディな展開」「コスト削減」などのメリットがあります。
しかし一方で、調達・生産・出荷・品質管理など、現場ごとに異なるノウハウやワークフローへの“しなやかな対応力”には弱点があります。
昭和から脈々と続く現場の改善文化、属人的ノウハウがクラウドの標準化思想と対立し、埋めきれない溝としてトラブルを生んでいます。
サプライヤーや顧客との“つながり”の弱さ
オンプレ時代には「自社独自仕様」がサプライヤーとの密接なつながりや情報連携を担保していました。
クラウド導入による標準化は、こうした独自連携の仕様を抜け落ちさせてしまい、バイヤー側・サプライヤー側双方でコミュニケーションミスや業務漏れが多発する温床となります。
クラウド移行で失敗しないための現場主導イノベーション
1. 現場巻き込み型プロジェクト推進体制の構築
クラウド化は情シスや経営層だけのものではありません。
むしろ、現場の実務に即した仕様・業務フローを理解し、現場担当者自らがプロジェクトに「口を出す」体制が必須です。
現場メンバーをプロジェクトに早期から参画させることで、具体的な運用上の問題点・ローカル事情を吸い上げ、システム要件に反映することができます。
2. 移行前の“あるべき業務”と“現場の実態”の棚卸し
クラウド移行プロジェクトでは「理想の業務フロー(あるべき姿)」だけでなく、「実際の現場運用(As-Is)」を詳細に棚卸することが肝要です。
例えば「誰が、どんな帳票・データを、どんな目的で、どうやって業務に活用しているのか」を、現場のリアルな証拠(紙伝票・エクセル・旧システムのログなど)をもとに洗い出します。
これにより、データ連携仕様や新旧システムとの整合要件、マスタ管理の課題など、見落としやすい“盲点”を抽出できます。
3. 段階的(フェーズド)移行と現場トレーニングの強化
一気にフルクラウドへ!という全面刷新は、現場の混乱や抵抗感を大きくします。
まずは負荷の低い一部機能・一部ラインで段階的にクラウド化を進め、現場の課題洗い出しや改善PDCAを回すことが成功のポイントです。
新システム導入時は、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)、現場チャンピオン(現場推進リーダー役)の育成で、現場知見の伝承を重視します。
4. サプライヤー・バイヤー間の双方向コミュニケーション強化
調達・生産・品質管理の現場では、バイヤーとサプライヤー双方が「何に困り、どこに不安があるか」を日々共有できる環境が欠かせません。
クラウド移行による業務フロー変更や情報の見える化は、双方の立場を理解し対話するための重要なきっかけとなります。
「どんな項目・フォーマットが本当に役立つのか」「どこまで業務責任を明確にするのか」など、現場の忖度に頼らない透明性ある関係性を築くことが、クラウド化の真の成果を生み出します。
まとめ:クラウド移行は“技術革新”よりも“現場革新”がカギ
クラウド時代においても、製造業の現場には「現場力」「属人力」「臨機応変さ」など、昭和から受け継がれてきた強みがあります。
しかし、それが時にクラウド化を阻む“壁”になることも、今回紹介した事例の通り事実です。
クラウド移行成功のためには、単なる最新IT導入ではなく、徹底した現場主導のイノベーション、そして現場―情シス―経営層の三位一体による“対話と合意形成”が不可欠です。
また、サプライヤーやバイヤーといった立場の違いを超え「現場の困りごと」に真摯に向き合う姿勢が、ひいてはグローバル競争に勝つ組織体質を作ります。
今まさに昭和から令和、そしてBeyondへと進化しようとする製造現場において、クラウド化の“真の意味”を現場目線で問い直すべき時です。
本稿が皆さんの業務変革の一助となることを願っています。