投稿日:2025年8月29日

与信調査が不十分な顧客との取引で未回収リスクが高まる問題

はじめに:製造業の“売掛リスク”はなぜなくならないのか

製造業で長年働いてきた中で、「どうしてこんなに与信調査が疎かになるのか」と何度も疑問に思ってきました。

特に昭和的な“口約束文化”、相手と会えば「まあ大丈夫だろう」という空気感で、事前の与信調査をせずに取引を始めてしまうケースはいまだに多く見受けられます。

近年、DXや自動化の波が押し寄せる中でも、“未回収リスク”——つまり売掛金が回収できず損失を被る事例は後を絶ちません。

この記事では、与信調査が甘い顧客とのビジネスが招くリスクや、現場で実際に起こりうる問題点、そして明日から実践できる未回収リスク回避策を、現場目線で解説します。

購買担当、バイヤーを目指す方、またサプライヤーとしてバイヤーの“本音”を知りたい立場の方にもきっと役立つ内容となっています。

製造業における与信管理の重要性

現場のリアル:売掛未回収は「ヒトゴト」ではない

「まさかうちが…」と誰もが思いたいですが、与信調査を怠ったがために、実際に取引先の倒産や支払い遅延などで“売掛焦げ付き”を経験した現場は少なくありません。

特にBtoB取引が多い製造業では、一案件の金額も大きく、1件の未回収でも事業の屋台骨を揺るがしかねません。

私の経験でも、長年の取引先だからといって安心し切り、突然の倒産報道に唖然としたこともあります。

定期的な与信調査の重要性が、いかに現場で軽視されてきたかを痛感しました。

なぜ“与信”は後回しにされるのか

製造業の多くは営業部や現場部門が、どうしても「売上優先」の意識に引っ張られがちです。

過去に支払遅延がなかった顧客だから大丈夫、担当者同士の付き合いが長いから問題ない、という先入観がリスク管理を鈍らせます。

また、「与信は経理部や本社の仕事」「自分たちは納品と生産が主業務」と役割の分断も背景にあります。

このような風土自体が、昭和的・アナログ体質からなかなか脱却できない理由の一つなのです。

取引開始時の“なあなあ感”が生む悲劇

与信調査をしないまま商談を進め「まずは小ロットから始めましょう」と軽い気持ちで受注。

その後、相手も誠実に見え、受注ロットがどんどん膨らみ、売掛金の金額も大きくなります。

いざ債権回収の段階になり、連絡が取れなくなり初めて「調べておけば…」と後悔。

このような声、皆さんの現場からも聞こえてこないでしょうか。

与信調査を怠ることで生じる具体的なリスク

売掛金未回収による直接的損失と連鎖倒産リスク

もっとも大きなリスクは、取引先の倒産や経営悪化により、納品済み商品やサービス代金が未回収になる損失です。

これは単に利益の消失だけではなく、未回収分が自社の資金繰りを悪化させ、更なる支払い遅延や追加融資の必要性を生み、最悪の場合は連鎖倒産にまで至るケースが実際にあります。

“二次リスク”~信用失墜と業界イメージの低下

売掛が未回収になることで金融機関や他取引先からの信用も毀損します。

また、製造業界特有の「情報共有ネットワーク」の中で、悪い噂は瞬く間に広まり、自社の新規取引チャンスにも悪影響を及ぼす場合があります。

現場リーダーにとってのストレスとモチベーション低下

未回収が発生すると、現場リーダーや管理職にも回収業務の負担が増え、生産活動自体に支障をきたします。

債権回収担当の精神的ストレスや部署間におけるギクシャク感など、「人の心」をむしばんでいくリスクも見過ごせません。

昭和的アナログ感覚がリスク回避を困難にしている

“義理人情”文化が与信管理の妨げに

日本の製造業では、長年培われた「義理人情」や顔が見える商売を尊重する文化が、与信管理の必要性を曖昧にしがちです。

「うちは長い付き合いがあるから」「ここの社長はよく知ってるし」といった思い込みが、リスクの芽を見落とす根源となります。

紙とFAX文化が情報取得を阻む現実

多くの企業がいまだに紙の請求書やFAXでやりとりを行っています。

こうしたアナログ文化は、取引先の財務状況の変化、支払い遅延などに“気付きにくい”温床ともなっています。

ITリテラシー不足や「システムの使い方が分からない」という意識も、与信精度の向上を難しくしています。

サプライチェーン上の“見えないリスク”

取引先からさらに先の下請け、外注先にまで与信チェックや管理が行き届かず、想定外のリスクが広がっているケースもよくあります。

とくに最近は、グローバル化で新たなサプライヤーと取引が増えているため、“見えない未回収リスク”が複雑に絡み合っています。

実践!現場でできる未回収リスク対策と与信管理強化策

1.まず経営層・現場全体で「危機意識の共有」を始める

「与信管理は経理や監査部門の仕事」とせず、経営層、営業、現場リーダー全員で情報を共有しあいましょう。

失敗事例をみんなで率直に話す場を設けることで、「自分にも起こりうる」というリアリティが芽生えます。

特に、現場が主体的に危機意識を持つことがリスク低減の第一歩です。

2.簡易的でも良い、与信調査の「型」をつくる

専門ベンダーや信用調査会社に頼る前に、自社独自の簡易的なチェックリストから始められます。

・直近期の決算書の提出依頼
・資本金、役員経歴の確認
・取引開始前の現地訪問
・過去の支払い遅延歴 聞き取り
・商業登記簿謄本の確認

これらをテンプレート化し、担当者の「勘」ではなく「事実」で評価する文化を根付かせましょう。

3.“情報の見える化”をITツールで実現

伝票管理や請求情報、入金状況をExcelではなく可能な限りクラウドシステムで一元管理します。

SFAや会計クラウドサービスなら、支払い遅延や入金漏れを自動で警告する機能もあります。

デジタル化が難しい小規模工場でも、「未入金チェック用紙」などのアナログ台帳を作り、現場での情報共有を強化することで、未回収リスクを大幅に低減できます。

4.サプライヤーの視点で“バイヤーの心理”を考える

もし貴社がサプライヤーの立場なら、バイヤーが何を与信の根拠にしているかを想像することが重要です。

最近は「CSR審査」「コンプライアンスチェック」も重視されるため、取引実績や支払い状況を積極開示し、自社の健全性アピールが取引の安定化につながります。

製造業界内でも“取引情報を見える化”することで、自社の新規受注チャンス拡大に繋げていくことが可能です。

5.契約書の整備でリスクを明文化

「お付き合いだから契約書は要らない」「どうせテンプレートだし…」と軽んじると、いざという時にリスクを被ります。

支払い条件や遅延時のペナルティ、債権保全に関する条文を明文化し、どの部門も内容を把握しておくことが重要です。

法務部や顧問弁護士に相談し、契約書のアップデートをこまめに行いましょう。

まとめ:時代が変わっても“与信”は継続的な努力で守る

製造業界は、これまでの“人情”や“現場主義”が強固な分、与信調査やリスク管理への意識が後手に回りやすい傾向があります。

しかし、グローバル競争やサプライチェーンの多様化に対応するためには、組織全体で一丸となったリスク対策が不可欠です。

商習慣が変わらないからと言って、「与信管理はうちには無縁」などと油断せず、今日からできる小さなアクションを継続していくことが、会社も自分の現場も守るカギとなります。

「あのときちゃんと調べておけばよかった」と後悔しないためにも、製造業で働く皆様が自分事として、“未回収リスク”と向き合っていただけることを願っています。

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