投稿日:2025年12月10日

部品標準化が進まず似た部品が大量に増える非効率性

はじめに:製造業の「部品標準化」という永遠の課題

製造業に携わる皆様にとって、「部品標準化」という言葉は耳が痛いほど聞いているテーマではないでしょうか。

実はこの部品標準化、現場での改善テーマとして何度も提起されながらも、なかなか進まず、いつの間にか数百種類もの“ほぼ同じ”部品が棚にぎっしり並ぶ――そんな現場を私は何度も見てきました。

昭和から続く商慣習、業界独特の文化、社内部門間の壁、設計現場の縦割りなども影響し、部品の標準化は思うように進みません。

本記事では、なぜ部品標準化が進まないのか、その背景や現場での実態、アナログ業界ならではの事情、そしてバイヤーおよびサプライヤーのそれぞれの立場に立った課題解決の糸口を掘り下げていきます。

部品標準化が進まない現場のリアル

似たような部品がなぜ増えてしまうのか

私の実体験から言うと、現場で最も多く耳にするのは「微妙に仕様が違うから仕方ない」「設計者ごとのこだわり」「過去の実績品をそのまま流用」といった理由です。

例えば、直径8mmのボルト一つにしても、「材質が違う」「ネジ山のピッチが微妙に違う」「頭部形状が違う」といった細かな違いで全く別品番として管理されます。

設計者は、自分が描く製品の性能やコスト、スケジュールを最優先するため、安易に既存品を流用せず、小さな違いでも新規部品を起こしがちです。

また「前例踏襲」が根付いた日本の設計現場では、昔から使われていた部品図面をコピペし、そのまま新機種でも使う“設計者の保守性”も根深いです。

購買部門・生産管理のジレンマ

調達部門や生産管理部門からすると、部品が増えれば増えるほど管理が煩雑になります。

購入品も内製部品も品目数が増えると、在庫の適正管理が非常に難しくなり、場合によっては同じ性能のネジやスペーサーを二重三重にストックする無駄が発生します。

発注ロットもバラバラになり、量産効果によるコストダウンの機会が失われるだけでなく、調達先の管理・管理負荷も増大します。

実際、部品数の単純増加だけで管理工数・在庫コスト・調達リスクは2倍にも3倍にも膨らみます。

非効率性がもたらす業界全体への影響

部分最適と全体最適のジレンマ

部品標準化が進まない理由の根本には、「自分の仕事をやりやすくしたい/リスクを避けたい」という各部門の“部分最適志向”があります。

例えば、設計は「いま・この製品を最適化したい」。
生産技術や調達は「全社でコスト・納期・在庫を最適にコントロールしたい」。
ここに大きな溝ができ、その調整役が不在の場合、「似たような部品が量産体制でどんどん増えていく構造」になっています。

サプライヤー側の視点:混乱と非効率の連鎖

サプライヤーも、客先が似たような仕様の“別型番”で発注してくることで、生産現場・工程管理・納期管理の全ての工程が複雑化します。

標準化されていればライン化・自動化も進めやすいのに、細かな違いが増えることで、小ロット・短納期・多品種少量対応が求められるという、非効率のループに陥っていきます。

結果、単価は高止まりし、納期リスクも増大し、全体としての競争力低下を招きます。

なぜ部品標準化は失敗するのか?本音と構造的課題

設計主導文化と“ものづくりの美学”

日本のメーカー文化には、「設計が主導権を持つ」「製品カスタマイズこそ価値」という土壌が強く残っています。

設計側が「お客様仕様」「用途条件の多様化」を理由に標準化の必要性を軽視、または理解はするが本気で取り組まないという事例は枚挙に暇がありません。

「ほんのちょっと違うだけで、寸法だけ変えれば終わりだから…」という安易な考えが、数年後には膨大な部品型番・在庫・管理コストの爆発につながっていきます。

デジタル化遅れとアナログ体質

他方、製造業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に本格的に取り組むには、まだ壁が多いのが実態です。

部品情報がアナログ管理のまま(エクセル、紙ベース、部門別の台帳等)で、情報共有が属人的に留まっています。
結果、「この部品、他でも使ってる?」「標準部品に指定されてる?」といった照会にすぐ答えられず、重複発注・重複設計が続いてしまう。

標準部品リストの整備やPLM(製品ライフサイクルマネージメント)ツールの導入も進みにくく、現場のアナログ性が長年、似た部品の山を生み出してきたのです。

経営層・管理職のコミット不足

部品標準化は「誰がやるべき仕事か」が曖昧です。

設計、製造、調達、生産管理――部門横断的な取り組みになりますが、どこかが強いリーダーシップを発揮せず、優先順位を下げてしまいがちです。

現場からすると「今の製品開発・量産を止めてまで標準化はできない」「目先の納期やコスト改善が優先」という短期的志向と、“経営的判断の不在”が現場にしわ寄せされているのが現状です。

部品標準化への抜本的アプローチ

全体最適を徹底する仕組み作り

一つめのポイントは、トップダウンで「標準化推進」を全社目標に組み入れることです。

経営層の明確なコミットメントの下、バイヤーや設計者、サプライヤーを巻き込んで部品標準化プロジェクトを設置します。

部品型番削減数・標準部品採用率といった“明確で定量的なKPI”を設定し、成果を「業績評価」と連動させることでようやく現場も本気で取り組みはじめます。

バイヤーがリードする“部品共通化戦略”

バイヤー(調達)は単なる仕入れ担当ではなく、設計や生産技術と連携する“部門横断のコーディネーター”になるべきです。

設計段階から「この仕様なら既存の標準パーツで対応できませんか?」と提案し、仕様の詰め段階で“標準化目線”を持ち込みます。
実際に日立製作所やトヨタなどでは、調達部門が設計会議に同席し、部品共通化のチェック・フィードバックがされています。

またサプライヤーとも協力し、「御社の共通部品リストを教えていただけませんか?」「共通化で量産効果をシェアしませんか?」と持ち掛けることで、業界全体でのコストダウンと強固なサプライチェーン構築につながっていきます。

ITツール・データベースによる部品情報の“見える化”

標準部品リストや仕様データベースを社内で一元管理します。

PLMやERPシステム、クラウド型の部品情報ツールを導入し、各部門がリアルタイムで共通部品情報にアクセスできる仕組みを作ることが、重複発生の大きな抑止力になります。

“設計者が部品登録時に必ず既存標準部品の適合・非適合を選択しなければ先へ進めない”ような業務フローを組み込むのも有効です。

バイヤー・サプライヤー・現場がつながる未来

「標準化=無機質」ではなく「競争力の源泉」

誤解されがちですが、部品標準化は現場のモチベーションを下げる「画一化」ではなく、「地道な現場の知恵・知財の結晶」です。

特に自動車や電機業界などグローバル競争の進んだ分野では、“標準部品率”が高い企業ほどコスト競争力・納期対応力・品質の安定性の三拍子を実現しています。

部品標準化は、設計や製造現場の自由度は多少下がるかもしれませんが、
・手戻り・設計ミス減少によるQCD(品質・コスト・納期)の向上
・サプライヤーとのコラボによるコストダウン
・在庫最適化・工程自動化推進
といった、攻めの経営に直結する大きな武器になります。

未来の部品標準化を加速させる“共創”のカタチ

これからの部品標準化は、単なる内製努力だけでなく、サプライヤーとの共創(コ・クリエーション)、業界横断の標準化(業界標準品、デファクトスタンダード)へと進化しています。

異業種連携・オープンイノベーションの視点で、
・プラットフォーム型の部品情報共有
・共同購買による部品標準化推進
・サプライヤーによる提案・共通仕様開発
といった流れが広がりつつあります。

設計・調達・製造・サプライヤーが「とりあえず昔からやってきた」という昭和的慣習から一歩抜け出し、「データと対話、現場の知見」を融合した共創型標準化へ、業界全体が変わっていくべき時代です。

まとめ:製造業と部品標準化、あなたが「今」できること

部品標準化はコストカットだけが目的ではありません。

「調達購買力」「現場力」「生産・品質の安定力」「業界の競争力UP」を同時に実現する最大のレバレッジです。

まず“自分の現場、自分の工程”にある似た部品をリストアップし、「なぜ同じような品目が複数存在しているのか?」とゼロベースで問うところから始めてはどうでしょうか。

昭和的な“設計自由主義”やアナログ管理から脱却し、バイヤーとサプライヤーが“全社・全業界”の視点で「部品のあるべき姿」を考える――そこに、これからの製造業の成長の鍵があると私は確信しています。

現場を変えるのは、現場で働くあなた自身です。
標準化という“地味だけど本質的な改革”に、今日から一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

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