投稿日:2025年9月29日

属人化で工程設計が属人依存になり効率が悪化する課題

はじめに:製造業の現場で頻発する「属人化」問題

製造業の現場において、「属人化」とは特定の個人に業務やノウハウ、工程設計が大きく依存し、その人以外が業務を円滑に進めることが難しい状況を指します。

多くの企業で「〜さんでなければ分からない」、「あの工程は○○リーダーのやり方で進めよう」といった光景が今もなお見受けられます。

特に昭和から続くアナログ色の強い業界ほど、属人性による現場力を評価しがちです。

ですが、これが工程設計や業務効率の「悪循環の温床」ともなり、業績や競争力、さらには未来の事業承継にまで大きく影響を及ぼしているのです。

この記事では、属人化によって工程設計が属人依存となり、効率悪化を招いてしまう仕組みや背景、現場目線での課題、そして現状を打破するためのヒントを紹介します。

属人化がもたらす工程設計上の課題

なぜ属人化が進むのか

属人化が進む理由は主に2つあります。

ひとつは、現場に根付いた「職人文化」や「現場主義」です。

現場リーダーやベテラン作業者が長年の経験で培ったノウハウを持ち、口伝やOJT(On the Job Training)で教える文化が色濃いため、文書化やシステム化が遅れがちになります。

もう一つは、経営層や管理職が改善や標準化の効果を実感しにくく、表面的な「現場の責任感」や「小回りの利く現場力」に安心してしまうことです。

その結果、暗黙知が形式知へと転換されず、「○○さん任せ」となってしまうのです。

属人化による工程設計への影響

工程設計が属人化すると、以下のような課題が顕在化します。

– 工程フローや仕様書が整備されていない
– 作業手順が個人毎に異なり標準化できない
– 新人や異動者の教育に膨大な時間がかかる
– 工程の全体最適ができず、現場で局所最適に陥る
– 休職・退職・異動で業務品質が一気に低下する

こうした状況が継続されると、現場が「ブラックボックス」化し、トラブル時の原因究明や再発防止も難しくなります。

また、属人化が進んだ現場は改善意欲やイノベーションの土台も育ちにくく、企業としての持続的な競争優位性を失いかねません。

属人化にとどまる業界背景と深層心理

「昔ながらのやり方」が変われない理由

多くの工場が「今までこれで上手くいってきた」「一人前になるには時間がかかる」と、属人化に居心地の良さを覚えています。

これは「人事評価が難しい」「システム導入などの投資対効果が分かりづらい」など、経営的な事情にも因っています。

さらに、IT化や自動化が進んでも「現場を分かっていない」「使い勝手が悪い」といった批判も起こりやすいものです。

職人技に替わるだけのデジタル基盤や標準書が存在しない場合、「効率化より現場力に頼る」という固定観念が根強く残ります。

属人化の裏に潜む「安心」と「啓発不足」

属人化は現場でのトラブルや顧客への迅速な対応では一時的な「安心」を生みます。

しかし、その安心感が習慣化・固定化し、変化への痛みを避けてしまう「現状維持バイアス」が見られるのも特徴的です。

また、工場長や管理職が改善活動の「本当の価値」や「標準化・見える化の意義」を現場に十分に啓発できていないケースも多くあります。

現場のベテランが能力を発揮できる環境を維持しようとする一方で、「変えてはいけない」という消極的な心理状態が、新しい仕組みの導入を阻害しているのです。

属人化が実際にもたらすリスクとコスト

人材流動化時代での深刻なリスク

近年、少子高齢化や若手採用難の影響で、現場からベテランの離脱が次々と発生しています。

従来なら「○○さんがいなくなっても、そのうち新しいリーダーが出てくるまで待とう」といった先延ばしが通用してきました。

しかし、リモートワークやジョブ型雇用といった現代的な流動化社会において、属人化した工程は一気にパフォーマンスを落とし、納期遅れや品質不良、さらには顧客流出を招きやすくなっています。

企業間の競争が激化する中で、「人材リスク=事業リスク」そのものとなってきていることを認識しなければなりません。

コストや納期・品質への直結

工程設計がブラックボックス化すると、「本当の意味でのコストダウン」「生産効率化」ができません。

現場では作業手順の違いによる手戻りや、必要以上の部材や工数の増加が発生し、小さなロスが積み重なります。

さらに、工程ごとのばらつきが発生すると、品質不良やミスの発生率も上昇しがちです。

不良品率が高止まりすれば、顧客への納期遅延や最悪の場合、賠償リスクにもつながりかねません。

また、後継者への技術継承も難しくなり、長期的には設備投資や製品開発力の低下という「見えないコスト」も大きな影響を及ぼします。

バイヤー・サプライヤーの立場からみた属人化の影響

バイヤー目線:安定供給とサプライリスクの懸念

調達担当者(バイヤー)としては、サプライヤーに「安定供給」と「標準化された品質」「バックアップ体制」を求めます。

ところが、属人化が色濃い現場は「この人がいないと出荷調整が難しい」「クレーム対応のスピードにむらがある」といったリスクを抱えやすくなります。

近年、大手バイヤーほど「BCP(事業継続計画)」や「多能工の体制」「マニュアル管理」など、可視化・標準化された工場運営を重視する傾向が顕著です。

属人化が強いサプライヤーは、将来的な取引縮小やランクダウンにつながる恐れがあります。

サプライヤー目線:バイヤーの期待と現場のギャップ

サプライヤーとしては、「長年の信頼」や「現場力」が強みだったとしても、バイヤーからは「可視化されていない現場はリスク」と評価されがちです。

特に、現場のやり方を変える難しさや、従業員のモチベーション維持に苦慮している工場ほど、バイヤーが求める水準とのギャップに悩んでいます。

今後は「標準化への努力」「透明性と改善力」を示すことで、バイヤーからの信頼感や新規案件獲得のチャンスも広がるという視点を持つ必要があります。

属人化から脱却するための実践的アプローチ

ラテラルシンキングで現場の新しい地平を切り拓く

属人化の最大の打開策は、現場の知恵や経験を「形式知(ナレッジ)」として共有・仕組み化することです。

ですが、「書類作成」と言っただけでは現場の納得感は得られません。

ここで大切になるのがラテラルシンキング、すなわち「これまでのやり方以外」を徹底的に考えてみることです。

たとえば、

– 「動画マニュアル」をスマホで気軽に残す
– 失敗事例・成功事例を「現場カンファレンス」で全員で議論する
– ベテランから新人まで「混成チーム」で改善会議を行う
– KPI(工程ごとの指標)を一人ひとりでなく「現場単位」で評価する
– 「できていること」ではなく「できていないこと」に注目し善意の競争を促す

こうした多角的なアプローチで属人化を緩やかに解きほぐし、組織全体の知恵として定着させることで、新たな現場力を獲得できます。

IT・デジタルを部分導入し、補正的に活用する

一気に「全てを自動化」や「完全なIT管理」は現実的に困難です。

まずは、アナログとデジタルの“ハイブリッド”を意識し、「現場で困っていること」だけピンポイントでデジタル化を進めましょう。

たとえば、生産日報だけをタブレット入力へ変更し、データを自動集計する。

前後の工程の作業内容や進捗が「見える化」されるだけで、改善議論の質が高まります。

これにより、ベテランの知恵を現場で「見える」化しつつも、人の創意工夫が活かされる現場環境を維持できます。

まとめ:属人化は現場の強みを活かし、効率化の推進力に変えよう

工程設計の属人化は、確かに「現場の柔軟な対応力」や「日本的な職人文化」の価値を体現してきた側面もあります。

しかし、現代の不確実な社会やサプライチェーンのグローバル化、そして人材流動化社会では、「属人化→立ち止まり→遅れ」のリスクが日に日に高まっています。

この大きな潮流の中で、いまこそ現場力を属人化ではなく、「組織の知恵」に昇華させる機会が到来しています。

「従来の良さ」を活かしながらも、新しい地平に向けて変革を進める。

そのためには、現場のリアルな課題に正面から向き合い、ラテラルシンキングで“知恵の形式知化”を進め、一歩踏み出しましょう。

バイヤー・サプライヤー双方の信頼を勝ち取り、持続的な競争優位を築くために、いまこそ属人因子の抜本的な見直しが求められています。

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