使いやすいUIデザインを実現する情報構造化とインタラクション設計

はじめに：製造業の現場を変えるUIデザインの重要性

製造業と聞くと、重厚長大な設備や多層的な管理体制、長年変わらぬやり方がいまだに色濃く残る業界、というイメージを持つ方が多いかも知れません。
しかし今、DX化の波は確実に現場に押し寄せており、生産性向上や効率化のために各種システムやITツール、IoTデバイスの導入が急速に進んでいます。

このような変化の中で「使いやすいUI（ユーザーインターフェイス）デザイン」が生産現場の改革において極めて重要になってきました。
これまでの業務システムは、「使いにくさ」や「分かりにくさ」による現場混乱、入力ミス、抵抗感などが、せっかくのIT投資効果を十分に引き出せず、大きな足かせとなってきたのです。

この記事では、製造現場にも本当に使いこなせるシステムを実現するために不可欠な「情報の構造化」と「インタラクション設計」のポイントを、現場視点から詳しく解説します。
また、アナログ管理が根強い業界でも受け入れられる実践的なアプローチについても言及します。

情報構造化とは何か？現場で陥りがちな失敗例

情報構造化の重要性

情報構造化とは、膨大な情報や操作・手順を体系的に整理し、ユーザーが必要な情報にストレスなくアクセスできるようにすることです。
特に多機能で複雑な業務システムほど、情報の整理・分類・ラベリングの質がUI全体の「使いやすさ」を大きく左右します。

現場のスタッフがどんな状況・目的でどの情報を見たいのか、次にどんなアクションを取りたいのかを徹底的に掘り下げ、業務現場のプロセスやルール・慣習までしっかり分析することが肝要です。

よくある失敗例1：帳票の名残がUIに・・・

紙の帳票やエクセルの列項目をそのままシステム画面のレイアウトやフォームに反映してしまう失敗は非常に多いです。
この方法は一見効率的に見えますが、結果的に「何のために、どんな場面で、どこを見たり入力したりするのか」が曖昧になり、使う側は画面上の情報の“海”に溺れてしまいます。

よくある失敗例2：「上から目線」の設計

システム開発側や管理者が「現場なんて、これくらい分かるだろう」と決めつけて設計するケースも散見されます。
現場作業員は必ずしも専門用語や業務知識を熟知しているとは限りません。
特にパートや派遣、非正規雇用の比率が高い現場では「伝わらないUI」は致命的です。

情報構造化の実践ステップ：現場目線で進めるコツ

1. ペルソナとユーザーストーリーの設定

製造業の現場ごとに「ペルソナ＝代表的なユーザー像（例：新人作業員、ベテランリーダー、間接部門の担当者）」を明確にします。
本当に現場を熟知した人材によるヒアリングや、実作業の観察、「現場なまり」のニーズ抽出が重要です。
業務プロセスごとに「どのユーザーが、どんなシーンで、どんな情報を見たいか」「どこで迷いやすいか」といったユーザー体験（UX）をストーリーとして詳細化します。

2. 情報分類・グルーピング・ラベリング

多様なデータや操作項目を“現場の文脈”で意味あるまとまりに整理していきます。
たとえば「材料在庫」ひとつ取っても、調達担当と現場作業員とでは知りたい内容が異なります。
「どのライン」「今日必要な量」「どのサプライヤー分」など、利用者の役割ごとに求める粒度や見え方を先に決め、その分類でメニューや画面のタブを設計すべきです。

現場用語や略語にも配慮します。
分かりやすい表現やピクトグラムを活用することで、「とっつきやすさ」や「操作の迷い」を減らします。

3. 優先順位付けと情報の階層化

すべての情報を一画面に並べず、「必須情報だけを最前面に、その次に詳細情報や設定項目へ誘導」という“引き算”の設計思想が鍵です。
ダッシュボード形式で「状況異常」「今日のタスク」など重要アラートだけ強調表示し、詳細は画面遷移やドリルダウンで掘り下げられる構造にするのが理想です。

業務の“流れ”ごとにSTEPを明記し、終わった作業を見え消しにするなど、作業者の負担を減らす細やかな工夫も有効です。

インタラクション設計：現場で本当に役立つ体験をつくる

インタラクション設計の基本とは

インタラクション設計とは「ユーザーとシステムがどのようにやりとりし、操作体験を生み出すか」を設計することです。
たとえば入力する時、エラーが分かりやすいアラートが出るか。
操作の結果が即時フィードバックされるか、などがインタラクションの質を決めます。

昭和的現場への配慮：温かいUXが肝

製造業現場は、長年手書き帳票やブルーカラーならではの口頭伝達で業務を切り盛りしてきた人材が多いです。
そのため、複雑な操作や抽象的なデザインは、かえって現場混乱を招きます。
・タッチ操作するボタンは大きく
・たまにしか使わない機能は目立たせない
・ミスしてもリカバリーが容易な設計
こうした細部配慮が、現場定着のカギとなります。

また「いきなり全体リニューアル」ではなく「現行の帳票をベースに徐々に細部をUI化」することで、現場の心理的ハードルも下げることができます。
「実際の使われ方」に着目したプロトタイピング（試作）とフィードバックの積み重ねが成功の秘訣です。

サプライヤー, バイヤー双方が押さえたい、業界動向とUI設計のコツ

バイヤー側：サプライヤー選定基準は「現場使いやすさ」重視へ

かつてバイヤーは価格・納期・信頼性がすべてという時代が長く続きました。
今や「新しいITツールやMES（製造実行システム）を現場に導入しても、現場が使いこなせない」「運用定着せず投資回収できない」といった苦い経験が蔓延しています。

そのため、操作性や現場作業者の“生の声”を製品開発プロセスにどれだけ反映しているかが、サプライヤー選定基準になりつつあります。
さらに、AIや自動化ツールが進化するほど「難解な黒魔術」のようなUIではなく、平易かつ直感的なUIデザイン（例：ドラッグ＆ドロップ、音声入力）が求められるようになっています。

サプライヤー側：テンプレートの焼き直しでは通用しない

現場特有の作業リズムや帳票フローを理解せず、他業界用パッケージを安易に流用するサプライヤーは、今や現場に選ばれません。
現場見学やヒアリングを通じて現状業務をとことん観察し、現場で本当に必要な機能、要らない機能を取捨選択した提案が必須です。
特に、外国人技能実習生や高齢者など多様な作業者に配慮した多言語対応やアクセシビリティ配慮も今後のトレンドです。

現場に根付く“アナログ魂”を活かす！ラテラルな提案で新常識を

現場の暗黙知をUIで可視化するには

昭和から継承される現場管理には、口伝えや数字感覚、KY活動（危険予知活動）など、マニュアル化されていない「暗黙知」が根付いています。
ここにこそ、ラテラルシンキング―つまり“既存の枠を超えた視点”が求められます。

例えば、現場で“暗黙に”チェックしていた作業ポイントや異常発見ポイントを、タブレットの写真・動画記録や、対話型チェックリストUIとして可視化すれば、技能継承と品質安定の両立が可能です。
また「パートリーダーがみんなの作業進捗を口頭で把握して報告していた」という観察から、システム上で進捗を自動集約・簡単シェアできる機能を追加するなど、現場の“影のルール”を活かした提案も効果的です。

現場目線とデジタルの融合へ：成功事例と今後の地平

昨今、工場自動化やIoT導入現場で、「現場プロとIT設計者が膝詰めで意見交換⇒大小の修正を重ねて磨き上げる」アジャイル開発手法が成功を収めています。
現場リーダーやベテランの知恵を「見える化・使える化」するUI設計、AIの予兆検知を現場目線で直感的なアラートやタスク表示につなげるインタラクション設計が普及しています。

今後は、「使う人自身がシステム改良アイデアを出しやすい」UI、いわば「現場に育てられるUI」が主流になります。
さらなる地平として、音声対話UIやスマートウォッチ連携など、新たなインタラクション体験も現場に広がっていくでしょう。