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海外拠点への横持ち輸送で起きる情報断絶の問題

目次
はじめに:グローバル物流で避けて通れない「横持ち輸送」
製造業におけるサプライチェーンは、近年ますます複雑化しています。
グローバル化が進む中、海外拠点間での横持ち輸送、すなわち「拠点間物流」は今や当たり前の存在です。
日本本社と海外工場、あるいはアジア域内のサプライヤーからヨーロッパ現地工場への移送など、多岐にわたります。
この「横持ち輸送」は、単なるモノの移動ではありません。
生産管理、品質保証、調達購買といった部門が密接に関わり、時には数多くの関係者が情報を共有しながら進める必要があります。
しかし現実には、横持ち輸送を巡って「情報断絶」という深刻な課題が顕在化しています。
なぜ情報は断絶されてしまうのか。
どんなリスクがそこに潜むのか。
そして現場はどのような解決策を講じているのでしょうか。
今回は、20年以上にわたり製造業現場を見続けてきた筆者が、その現状と本質課題、さらに、昭和から続くアナログな業界体質と新しい潮流について、現場視点で深堀りしていきます。
横持ち輸送とは何か?その重要性と課題
製造業における横持ち輸送の定義と広がり
横持ち輸送とは、異なる拠点間で材料、部品、半製品、完成品などを移送する物流のことを指します。
単純な日本国内だけのやり取りではなく、アジア・欧米の複数拠点を跨って荷物と情報が行き交う時代となりました。
例えば、日本で生産された主要部品をタイの工場に横持ちし、そこで組み立て。
その後、ベトナムの最終組立工場に再度横持ちされ、現地納品といった流れです。
グローバルな分業体制やコストダウン、高付加価値製品の柔軟な生産体制を実現するために、横持ち輸送はなくてはならないものです。
なぜ横持ち輸送で「情報断絶」が起きるのか
現場ではよく「横持ちはモノさえ動けばOK」と認識しがちです。
しかし実際には、輸送手配、在庫管理、品質情報、納期調整など、伴って動く『情報』が重要な意味を持っています。
この「情報」が適切に共有・伝達されない、いわゆる「情報断絶」によって、次のような問題が発生します。
- 各拠点で二重在庫が発生し、コストが無駄になる
- 品質問題が起きた時に、どのロットがどの拠点にあるかが追えない
- 納期遅延の原因が正しく特定できず、顧客クレーム対応が滞る
- 生産計画の精度が落ち、急な生産停止に結び付く
特に多拠点展開が進む中堅・大手メーカーでは、この「情報断絶問題」が、円滑な事業運営の大きなボトルネックとなっています。
横持ち輸送における情報断絶の実態
昭和から続く「紙とFAX文化」の弊害
いまだに多くの現場では、オーダー表や輸出書類、出荷指示書などが「紙」や「FAX」でやりとりされています。
現場の担当者がエクセルで管理し、その都度、紙出力して関係者へFAX。
現地拠点では、到着したFAX内容を再度手入力し、ローカルシステムに登録する。
このような仕組みでは、データの一貫性は保てません。
伝達ミスや遅延、二重入力に起因する人的ミスも頻発し、「今どこに、何があるか」が誰にも正確に分からない状況になります。
現場担当者の異動・退職による「暗黙知の喪失」もよくある課題です。
何十年も変わらないやり方のまま、次代のグローバル競争に突入しているわけです。
情報システムの「壁」とサイロ化
「だったらITシステムで全部つなげればいいじゃないか」
理屈としてはその通りですが、現場には様々な「壁」が立ちはだかっています。
- 本社はSAP、本国拠点はOracle、ASEAN拠点はローカル独自システム…と、使うシステムがバラバラ
- システム同士の連携が困難で、「CSV出力→メール添付→ローカルで手入力」というアナログなやりとりが残る
- データ項目や日付形式が揃っておらず、情報が混乱・断絶
- 拠点ごとに「自分たちのやり方」がローカルルール化しており、標準化が進まない
- IT部門と現場部門の連携不足で使い勝手が悪く、結局“紙”や“Excel手書き”運用が残る
このような現場環境では、「本社は出荷済みと認識しているが、現地では未着」「品質問題の履歴が拠点ごとにバラバラ」といった事態が、日常的に起きます。
海外拠点間で文化的ギャップによる情報断絶も
海外拠点とのやりとりでは、言語や商慣習、さらには「現地優先文化」といった目に見えないギャップも厄介な障害です。
たとえば、日本本社では「口頭で伝えれば済む」と思っていた内容が、海外拠点では「明文化された指示書類がないと動けない」と認識されます。
その結果、本社と現地の担当者間で認識齟齬や行き違いが発生。
「言った・言わない」トラブルにつながります。
このような現場間の“文化”の断絶も、情報流通の壁となっています。
情報断絶がもたらすビジネスリスク
1. サプライチェーン全体の脆弱化
情報が分断されていると、どこかのピースでトラブルが起きた際に即応できません。
例えば、品質クレームの発生時、本社では「問題の部品ロットがどの工場にいくつ残っているか」を瞬時に特定する必要があります。
しかし、横持ち輸送ルートのどこかで情報が断絶していると、正確な追跡が困難となり、リコール対応や原因究明が遅れてしまいます。
結果として、対応コストが膨れ上がり、ブランド信頼の毀損やサプライヤーとの関係悪化など重大な損害を招く恐れがあります。
2. 在庫ロス・コストアップの増加
拠点間で情報共有ができていないと、各拠点が保険的に「予備在庫」を多めに持とうとします。
そのため、サプライチェーン全体として不必要な在庫が積み上がり、結果として在庫回転率は低下。
キャッシュフローの悪化や、古くなった在庫の廃棄ロスなどが発生します。
販売好調な場合は「売り逃し」、不況時には「不良在庫」として、どちらに転んでもマイナスのスパイラルが発生します。
3. 生産トラブルや納期遅延
情報断絶の究極的リスクは、生産現場での「手待ち時間」や「生産計画の崩壊」です。
材料や部品が着くはずのものが届かない、現地で届いていても情報が共有されず「どこにあるかわからない」などの混乱により、生産ラインがストップしたり、顧客納期に間に合わないといった問題が噴出します。
こうしたトラブルは、サプライチェーン全体の信頼を失墜させ、市場競争力の低下につながるのです。
現場から実践する「情報断絶」解決のヒント
現場ヒアリングから見える改善の切り口
約20年にわたり、複数の拠点・立場で横持ち輸送の現場課題を見てきました。
トップダウンのシステム導入も重要ですが、まずは現場で「情報がどう流れているか」を丁寧に洗い出すことが鍵となります。
- 実際に現場担当者がどこで、どんな情報(帳票・データ)を扱っているか
- 手書きや口頭、メール・紙・FAXなど“アナログ区間”がどこに多いか
- トラブル発生時、どの情報が正ではなく、どこがねじれているのか
現場ヒアリングやローカルフローチャート作成を通じて、「現物・現場・現人」の目線で情報導線を可視化することで、“情報断絶点”を特定できます。
昭和体質を乗り越える、段階的なデジタル化のすすめ
一気に全拠点をフルデジタル化するのは現実的ではありません。
まずは最もトラブル頻度が多い、または重要なクロスポイントからデジタル化・標準化を進めていきましょう。
- エクセル・紙の帳票をデジタル帳票(例えばクラウドで共有)に変換
- 現場主導でミニマムな「情報共有プラットフォーム」(チャット+ファイル共有等)の導入
- 出荷実績や在庫移動を簡易に入力できるスマホ・タブレット活用の検討
- 連絡手段の多様化(定型の情報はシステム、緊急はチャットやオンライン会議)
重要なのは、現場リーダーが「これは使える」と納得できること。
無理なシステム押しつけではなく、各現場の“肌感覚”に寄り添いつつ、徐々にデジタル化を浸透させることがポイントです。
サプライヤー・バイヤー間の「情報連携」の深化
サプライヤー目線では、バイヤーが何を重視し、どこで課題を感じているかを理解することが信頼関係構築の第一歩です。
たとえば、単なる納期連絡ではなく、「なぜ遅延が発生し、それがどの拠点で発生したのか」「今後の運用にどう活かすのか」といった情報をオープンに共有することで、両者にとってのリスクが低減します。
品質異常情報や急な生産変動への対応も、「透明性の高いリアルタイム共有」によって初めて拠点間連携が実現します。
まとめ:現場から始める“つながる”サプライチェーンへ
横持ち輸送における「情報断絶の問題」は、現代の製造業にとって避けては通れない課題です。
単なるシステムやITの問題ではなく、拠点間の情報共有・現場文化・組織連携など、様々な要素が複雑に絡み合っています。
昭和的なアナログ慣行が根強く残る業界では、「現場視点」と「段階的なデジタル化」を両立させることが、地に足の着いた改革の第一歩です。
読者の中には、バイヤーを志す方、サプライヤーとしてバイヤーの思考を理解したい方も多いと思います。
現場に根差した「情報の見える化」「標準化」「信頼ベースの連携」を心がけていただければ、これからのグローバル競争時代において大きな強みとなるはずです。
現場の知恵と新技術のハイブリッドで、“つながる”未来のサプライチェーンを一緒に創り上げていきましょう。
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