投稿日:2025年10月4日

複数システムの統合が進まず情報が分断される問題

はじめに:なぜ「システム統合」は製造業の永遠の課題なのか

製造業の現場では、長年にわたり多様な管理システムが導入されてきました。
生産管理、調達購買、品質管理、在庫管理……それぞれが異なる時代や目的でシステム化され、工具箱のように個別に使われているのが現状です。
しかし、多くの現場リーダーや工場管理職が悩んでいるのが複数システムの統合問題です。
情報が部門ごと、システムごとに分断されてしまい、現場が本当に必要とする「リアルタイムな全体最適の意思決定」が難しくなっています。

本記事では、私自身の20年以上の現場経験と、現場目線に立った実践知をベースに、なぜシステム統合が進まないのか、その影響や課題、解決への実践的アプローチを深く掘り下げて解説します。
また、デジタル化の波が押し寄せる一方で、昭和的アナログ文化が根強く残る製造業における”分断のリアル”についても述べていきます。

多発する分断:複数システムが生み出す現場の問題点

業務が増える「現場のサイロ化」

企業の成長段階、部門のニーズ変化、M&Aやグループ再編。
このような様々なタイミングで、現場ではそれぞれが必要とするシステムやツールを次々と導入してきました。
例えば、SAPやOracleといったERPを使う生産管理部門と、AccessやExcelで管理を続ける購買部門、独自開発した品質管理システムなど。
こうした状況の積み重ねが「部門サイロ化」を招き、情報の連携やデータの再利用が困難となっています。

データの二重入力と人手ミスの増加

異なるシステム間で情報を共有できていないため、同じ数値やデータを複数回入力する「二重入力」が常態化しています。
この作業は極めて非効率で、入力ミスや伝達エラーの温床となります。
私の経験でも「購買依頼書をFAXで送った後、再度システムへ手入力した結果、発注ミスが頻繁に発生した」など、苦い経験が絶えませんでした。

マスター情報の食い違いと在庫・納期リスク

品目マスターや取引先マスターなど、基幹となるデータがシステムごとに食い違っていることも珍しくありません。
「Aシステムでは品番変更済みなのに、Bシステムでは旧品番のまま」など、こうした齟齬が納期遅延や誤発注を生み出します。
現場では「誰が正しい情報を持っているのか?」が分からず、確認作業や調整に多くの工数を奪われています。

なぜ統合できない?昭和アナログ文化とITリテラシーの壁

現場力重視の文化が招く保守的姿勢

製造業は「改善」「現場力」に価値を置く、極めて現場主義の産業文化が根付いています。
現場で成功を収めて出世する人材は、往々にして泥臭い地道な仕事と人間関係調整が得意です。
一方で、IT導入やシステム構築は「机上の空論」「現場を知らない人が考えたシステム」と見なされがちです。

現場の「抵抗勢力」とトップの温度差

現場や中間管理職には「今のやり方を変えたくない」「新システムへの教育が面倒」と感じる人も少なくありません。
さらに経営トップも、表面的にデジタル化を掲げつつ、実際の現場導入には消極的で「縦割り組織に任せきり」なケースが目立ちます。
このトップと現場の温度差が、分断解消をますます難しくしています。

IT人材不足とベンダー依存の悪循環

中小製造業は特に「IT専門人材の育成」に取り組めていません。
外部ベンダーに「丸投げ」することで、その場しのぎのシステムを増やし続け、「手のつけようがない多重システム状態」に陥ります。
アナログ業務の温存とIT人材の不在…この構造が過去30年、ほとんど変わっていません。

「分断」がもたらすビジネスリスクと競争力低下

リードタイム長期化とコスト増大

複数システムにまたがるデータ収集や突合せ作業は、リードタイム全体を大きく押し上げます。
たとえば、調達購買から在庫、納品までを複数部門で管理している場合、1件の発注に数日かかることも珍しくありません。
工数が増えることで残業が増加し、不具合やリワーク発生時の対応も遅れてしまいます。

サプライチェーンの柔軟性喪失

グローバル競争が激化し、サステナビリティ・BCP(事業継続計画)が求められる現代。
情報分断により、外部環境変化(災害、パンデミック、部品不足等)に対するスピーディな意思決定ができなくなります。
DXが進む競合他社と比べてビジネスの俊敏性・柔軟性で明確なハンデを抱える要因となっています。

バイヤー・サプライヤー関係にも潜む分断リスク

サプライヤー側はバイヤー情報と自社システムが連携できず、取引スピードやトレーサビリティで遅れを取るケースも増えました。
また、取引先への情報共有が遅れることで、信用不安や発注ロスを生み、全体のサプライチェーン最適化を阻害しています。

現場主導で分断を超えるには?実践アプローチとヒント

Excel管理とEAI(データ連携)で「小さな統合」から

いきなり基幹システムをドリフトさせるのではなく、最小単位で「現場主導のデータ連携」の仕組みを確立することが現実的です。
たとえば「エクセルフォーマットの標準化」や、「EAIツール(Enterprise Application Integration)」による変換マクロなど、小さな工夫の積み重ねが分断を少しずつ解消していきます。

KPIと現場ニーズを一致させる合意形成がカギ

部門間で扱う情報やKPI(重要業績指標)を明確にし、各システムで「共通言語」を持つように設計することが重要です。
現場リーダーが率先して「なぜシステム統合が必要か」「分断解消でどんなメリットがあるか」を意識共有し、横断的なチームで共通目標に取り組むプロセスを作りましょう。

システム統合は「目的」ではなく「手段」と再認識

システム統合それ自体が仕事のゴールではありません。
「無理なく・確実に・現場のクオリティが上がる」仕組みづくりを主眼に置くべきです。
現場とIT部門の間にリーダー的な調整者(システム・オーナー)を置くと、現実的な対応案が見えやすくなります。

今後の展望:アナログ業界の飛躍と分断解消へのヒント

競争優位のためのデータドリブン経営へ

IoTやAIが身近になる今こそ、「情報分断の解消=競争力強化」という発想が求められています。
生産現場データ、調達情報、品質データ、サプライチェーン情報を一元化し、経営と現場の壁をなくすことで、意思決定のスピードと質が大きく向上します。

「一気通貫」に固執しないフレキシブルな発想

レガシーシステムの一斉刷新は、コスト・人材・現場負荷の観点から現実的ではありません。
むしろ現場で発生する小さな分断・ボトルネックを現場主導で改善していく「スモールスタート型」の変革が、真のシステム統合への近道です。

サプライヤー・バイヤーとして考えたいこと

バイヤーは分断解消への投資や取り組みをサプライヤーと共有し、連携強化を進めましょう。
サプライヤーは「自社だけ現場力が高くても、分断が解消されなければ全体最適化は実現できない」ことを意識し、共創型の取引体制へ進化させることが重要です。

まとめ:分断された業務を「つなぐ」覚悟が未来を変える

製造業の分断問題は、昭和から続く産業の宿痾かもしれません。
しかし、現場を知る私たちこそが、自らの課題を「問題」として自覚することで、変化への第一歩を踏み出せます。
システム統合は目的ではなく、強い製造業・強いサプライチェーン・強いチーム作りの「手段」です。
泥臭さも柔軟な発想も武器にして、現場から始める小さな統合がやがて大きな成果につながっていくことでしょう。

読者の皆さまが、分断の壁を乗り越え、製造業の未来に力強い一歩を踏み出されることを祈っています。

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