投稿日:2025年11月11日

薄手Tシャツの乾燥でインク浮きを防ぐための赤外線加熱と対流乾燥の組み合わせ

はじめに:薄手Tシャツとインク浮きの課題

薄手Tシャツは、軽やかな着心地とファッション性の高さから、アパレル業界で年々需要が増しています。
しかし、薄手素材特有の「インク浮き」――これはプリントTシャツの製作において避けがたい大きな品質課題です。
特に製造現場においては「生地が薄いからこそ、インクがしっかり生地に定着しない」「量産時にムラが発生しやすい」など、多くの声が聞かれます。

本記事では、20年以上製造現場で働いてきた経験と、多様な工場自動化案件への取り組みをもとに、薄手Tシャツのインク浮きを根本から防ぐ『赤外線加熱×対流乾燥』という現場の新常識について詳しく解説します。
また、購買や調達、品質管理に携わる方や、サプライヤーの立場で現場目線やバイヤーの“本音”を知りたい方にも有益な情報をお届けします。

インク浮きが発生する理由を現場目線で考える

インク浮きのメカニズム

Tシャツプリント工程で「インク浮き」が起こる原因は大きく3つ考えられます。

1. インクの乾燥不十分――薄手生地は厚手より熱容量が小さく、均一な乾燥が困難です。
2. 生地の目が粗く、インクが定着しづらい――薄手Tシャツは織りが甘く、インクが生地の奥まで入り込まず、表面にとどまってしまう。
3. 乾燥工程での温度ムラ――乾燥機や加熱方式にムラがあると、インクが「半生」状態で残り、後工程で浮きや割れが発生します。

特に昭和から続く旧来型の工場では、生地やインクの特性に合わせた工夫がなされていなかったり、乾燥のタイミングや温度バラツキが現場任せになりやすいのが現実です。

現場でよくある“あるある”エピソード

例えば、夏場の湿度が高い時期や、夜間帯の乾燥時間が短縮されるラインスピードを上げる中で、「検品時に指でインク部をこするだけで剥がれる」「色むら」「ごくまれなピンホール(小さな穴)」などのクレームが発生することがあります。
こうした品質事故は、納期遅延や再製造によるコストアップだけでなく、バイヤーや小売顧客からの信頼低下にもつながります。

赤外線加熱と対流乾燥――なぜ組み合わせが強いのか?

赤外線加熱のメリット

赤外線加熱は、短時間で対象物の表面から内部まで“直接”加熱できるという特徴があります。
これにより、生地の表面に載ったインク溶剤を素早く“飛ばす”ことが可能です。
とくに薄手Tシャツのように熱容量が小さい素材では、加熱の立ち上がりが速い赤外線ランプが効果を発揮します。
また、エネルギーロスが少ないため、消費電力の面でも効率に優れています。

対流乾燥のメリット

対流乾燥は、温風を生地表面にあててインク溶剤を蒸発させる方式です。
この方式は、生地の凹凸部や、細かな部分にもまんべんなく熱を供給できる点が大きなメリットです。
特に複雑な立体フォルムや、Tシャツが重なり合って乾燥するような現場では、熱風による対流作用が乾燥ムラ防止に役立ちます。

なぜ「組み合わせ」が有効なのか

単独では成しえなかった次元の乾燥品質を、「赤外線加熱」と「対流乾燥」を組み合わせることで実現できます。
まず、赤外線加熱でインクの表面と交差部を一気に急速加熱し“焼き固め”を行い、その後対流乾燥で生地やインクの内部に残る微細な溶剤や水分をしっかり蒸発させます。

この「競争と協調」のW機構により、インク浮きを未然に防ぐだけでなく、乾燥スピードと歩留まり向上を両立させます。

現場導入時に気をつけたいリアルなポイント

設備投資のコスト試算

赤外線ヒーターや対流乾燥機は、最初の導入コストこそ一定額かかりますが、インク不良による歩留まりロスやクレーム対応の人件費・失注コストを鑑みれば、数年で十分回収可能です。
大手メーカーの一括調達時には、サプライヤーから赤外線ヒーターとのパッケージ調達を提案することで、コストメリットが享受できます。

ラインスピードと生産性とのバランス

現場目線で重大なのは「乾燥工程がボトルネック化しないか?」です。
適切な機種選定・ライン設計を行い、前後工程とのタイムラグを最小化することが肝心です。
現場リーダーとエンジニアが意見交換することで、実際の生産量・Tシャツの厚み・インク種類から最適なパラメータ設定を“現場標準”としてマニュアル化しましょう。

品質管理と作業標準

目視検査や剥がれ試験も大切ですが、「温度記録の自動化」や「インク硬化度の定量評価」を導入し、ヒューマンエラーを減らしましょう。
赤外線サーモグラフィカメラなどのIoT機器を取り入れることで、異常加熱や乾燥ムラのリアルタイム検知が可能です。

アナログ業界の課題とDX化への道

まだ“昭和のやり方”が根強く残る多くのTシャツ関連工場では、「経験と勘」に頼った品質維持が行われがちです。
しかし、今や世界的トレンドは「デジタル基点の生産性革命」にシフトしています。
赤外線&対流乾燥のベスト設定値や、生地×インク別の“歩留まりデータベース”の構築は現場のデジタル化の第一歩です。

更に、DX化の本質は単なる機械更新ではありません。
調達購買担当は「データに基づいた最適な設備提案をサプライヤーに求める」。
サプライヤーは「現場リアリティを柔軟にくみ取り、バイヤーの“真意”を先読みし高付加価値を訴求する」。
そうした“現場と経営・サプライチェーンの橋渡し”が、今後の業界競争力の決め手となります。

サプライヤー・バイヤー視点での提案と差別化

バイヤーに響く提案とは

調達担当者は、機械の性能だけでなく、歩留まり・品質安定・メンテナンス容易性などトータルコストで設備選定を行います。
赤外線と対流乾燥のハイブリッド化は「不良削減」「納期短縮」「省エネ」の訴求ポイントが明確です。
納期遵守率や想定クレーム率、数値データに基づく提案は説得力があります。

サプライヤーとしての差別化策

・薄手Tシャツインク浮き専用の最適化機種セット提案
・ランニングコスト試算や、現場実測データの提示
・予防保全やリモートモニタリングによるトータルサポート
といった“現場志向”の提案が、高評価に繋がります。

現場改善実例:薄手Tシャツでの導入事例

筆者の関与した現場では、過去数十万点/年という大ロットラインにおいて、赤外線&対流乾燥の新設備によりインク浮きによるクレームが9割減少。
加えて、従来の火力式ガス乾燥に比べ消費エネルギーが約30%カット、温度・湿度センサの自動記録で生産管理も省力化されました。
省人化と生産安定も両立可能です。

まとめ:アナログ業界こそ“進化”の好機

薄手Tシャツのインク浮きは、伝統的な現場の勘やノウハウだけでは乗り越えにくい課題です。
しかし、赤外線加熱と対流乾燥という二つの技術を融合させることで、短納期・高品質・低コストの“新常識”が生み出されつつあります。

今後、バイヤーはより厳格な品質・納期・コスト管理をサプライヤーに求め、サプライヤー側も「現場目線」の実践的・データドリブンな改善提案が求められます。
伝統の延長線上にせず、ちょっとしたラテラルシンキングの導入で、新しい時代の製造業を切り拓いていきましょう。

今まさに、アナログ業界こそ「進化する現場改善」の主役です。
皆さまの現場での成功と挑戦を心より応援しています。

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