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導入初期は効果が見えたが継続的改善が止まる問題

目次
はじめに
製造業の現場は、「効率化」「コスト削減」「品質向上」といったキーワードが常に頭から離れない環境です。
日本の製造業は長らくアナログ的手法に頼ってきましたが、2000年代にかけてデジタル技術や自動化システムの導入が進み、導入初期には劇的な成果を上げてきました。
しかし、導入初期の成果が一段落した後、継続的な改善活動が停滞してしまう、いわゆる「改善の踊り場」問題に直面する企業が少なくありません。
本記事では、製造業の調達購買、生産管理、品質管理、自動化など幅広い領域で現場を知り尽くした立場から、なぜ導入初期の効果に満足し、継続的改善が止まってしまうのか、その本質を深掘り。
そして、本質的な打開策や、これからの日本の製造業が進むべき地平を提示します。
改善活動の停滞、その根本的な理由とは
導入初期はなぜインパクトが大きいのか?
新しいソリューションやシステム、業務プロセスの見直しを初めて導入すると、多くの企業で目に見える効果が現れます。
例えば、手作業だった工程が自動化されれば、工数が大幅に削減されます。
ロット管理や生産計画をシステム化すれば、計画や在庫の「見える化」で混乱が減り、納期遅延や欠品も減少します。
これは、従来の業務が非効率きわまりない「昭和的アナログ」の世界に浸かっていたからこそ、課題が山積し、その分だけ「やればやるほど成果が出る」からです。
業務プロセスのテコ入れやデジタル化の初動は、こうした“すぐ目に見えるムダ”の解消が中心になるため、現場も経営層も効果を実感しやすいのです。
なぜ、改善は停滞するのか?フェーズごとに変化するハードル
では、なぜ一定ラインを超えると改善が止まりやすいのでしょうか?
1. 「成果=ゴール」とする組織心理
多くの現場では、KPIや数値目標を設定して改善を進めます。
目標ポイント(例:不良率1%削減、リードタイム30%短縮など)をクリアした時点で、「これでひと段落」と考えやすい傾向があります。
トップダウン型の目標設定が多い日本企業では特に、この心理が強まります。
2. 段階的に改善難度が上がる
初期は“誰の目にも明らかな”ムダが多く、誰がやっても成果が出ます。
しかし、ある程度の改善が進むと、残る課題は構造的な、または定量的に掴みにくい内容になります。
たとえば「現場の熟練者しかノウハウを知らない」「工程間のコミュニケーションロス」「サプライヤー単位でバラつく品質」など、単なる仕組み化・デジタル化では解消しきれない問題が残ります。
3. 継続的な“現場巻き込み”の難しさ
現場主導で改善を回し続けるには、モチベーション維持や人材のローテーションといった「現場力」の再構築が必要不可欠です。
しかし、成果が現れにくくなると、「どうせやってもすぐ効果は出ない」「上に言われない限り動かなくていい」と消極的態度が蔓延しがちです。
昭和の名残とアナログ文化が招く壁
なぜ“伝統”と“惰性”は強力なのか
現場に根付く「昔からやってきたやり方」という伝統、これこそが改善活動の大敵です。
とくに日本のものづくり現場では以下のような構造的要因が組織に染みついています。
・“ベテランの暗黙知”信仰
・“横並び”での安心感
・旧来からの“現場至上主義”の価値観
こうした文化的しがらみが、「もう十分やったよね」という停滞感を生み出し、次なる一歩への挑戦をためらわせてしまいます。
アナログ業界だからこその“現場目線”
IT・デジタル業界の改善活動は、もともとPDCAやカイゼンのサイクルが根付いています。
一方で、部品供給・在庫管理・生産管理といった現場は、IT以前の「現場主義」や「職人技」が色濃く残るまま。
ここで大切なのは、現場のアナログな強みを理解しつつ、無理なくデジタルや改善活動を組み込む視点です。
「継続的改善」を阻む現場リアル
現場負荷と業務優先度のジレンマ
改善活動は“通常業務”の延長線ではありません。
忙しい日常生産、短納期対応、突発の問題解決……。
目の前の火を消すことが最優先になり、改善活動は「時間があるときにやるもの」に追いやられます。
また、現場リーダーや工場長は売上や生産達成に“直接貢献しない”改善活動より、現場の“止まらない運用”を優先しがち。
この現場感は、現実的には無視できません。
“見える化”の限界と、改善PDCAの停滞
「見える化」は初期改善の目玉ですが、本当に“改善”の種を発掘できているかは別問題です。
帳票やKPIが形だけ運用され、数字の変化=改善サイクルだと勘違いしてしまう落とし穴があります。
机上のシステム改善が現場で活きていない状況は、想像以上に多いのです。
なぜバイヤー、サプライヤーも無関係ではいられないのか
調達・購買から見た「継続的改善」
バイヤーの立場からすると
・コストダウン要請が一巡して
・サプライヤーの改善活動が停滞し
・「これ以上の値下げは無理」となりやすい
この局面で「サプライヤーの頑張り頼み」やトップダウンの一方的な値下げ要求が増えるのも、よくある事象です。
サプライヤーとしても「これ以上は勘弁してほしい」という本音が出てきますし、現場の改善提案も形骸化しやすいのです。
取引先全体で変革を進める時代
今後は、バイヤーもサプライヤーも巻き込んだ「価値創造型の調達改善」が避けられません。
現場同士が「生産・調達プロセスの全体最適」を意識して協働し、本来の“Mutual Growth(共成長)”に力を入れるフェーズです。
継続的改善を止めないための現場アプローチ
改善サイクルを自走化するには
1. トップダウン+ボトムアップの両輪
指示待ち型組織ではなく、「現場発信型」で小さな改善を回し続ける風土醸成。
現場の成功体験を組織で共有し、「やった分だけ評価される」仕組みづくりが重要です。
2. 成果指標の再設計
初期の“インパクト勝負”から、今後は“改善ストック”や“横展開”といった定性的成果も評価する仕組みへ転換しましょう。
3. 部門横断型の改善
調達・生産・品質管理など、部門間での情報共有や協調による全体最適。
他社・他工場のベンチマークにオープンに取り組むことも大切です。
地味だが効く「現場リアル施策」
・現場OJTでの小集団カイゼンと日々の“気づき”を大切に
・改善事例共有会や、部門超えた成功事例の発表機会を作る
・現場リーダー向け「次世代カイゼン力」研修
・AIやIoTなど新技術のスモールスタート導入で、“新たな地平線”を現場に見せる
こうした積み重ねが、やがて「止まっていた改善エンジン」を再回転させる原動力となります。
バイヤー、サプライヤー視点を深掘りしよう
単なるコストダウン志向を越え、Win-Winとなる継続的改善を目指す時代に突入しています。
バイヤーの立場からは、技術連携やコストだけではない新たな価値基準(品質、納期安定、供給リスク分散など)でサプライヤーと共に改善目標を設定する。
サプライヤーの立場からは、現場改善事例を「価値提案」として見せていく、単なるコストカット型から次の革新を提案する姿勢が求められます。
まとめ
導入初期ほど派手な成果が出ない“踊り場”こそ、実は真の「現場改革力」が問われるタイミングです。
昭和的アナログ現場が根強い日本の製造業だからこそ、現場の本音と文化を理解し、その上で新たな改善サイクルを創り出していきましょう。
小さな改善でも、現場発の新発想や“横展開”こそが、これからの時代の競争力を生みます。
バイヤー・サプライヤー双方の目線を持ち、現場でリアルに使える「継続的改善」の本質を、今こそ私たち現場人間が推進していきましょう。
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