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射出成形における成形不良対策とハイサイクル成形への応用

目次
はじめに:射出成形の現状と製造業が直面する課題
射出成形は、幅広いプラスチック製品の生産に不可欠な製造プロセスです。
自動車、家電、医療機器、日用品など、身の回りの多くの製品が射出成形によって作られています。
一方で、昭和時代から変わらぬアナログな現場体質や、技能伝承の難しさ、デジタル化の遅れなど、古き良き職人技と現代的な生産性向上とのあいだで葛藤が絶えません。
実際の現場では、不良率低減やコストダウンは当然のテーマであり、近年は自動化やハイサイクル成形など、さらなる効率化の波も押し寄せています。
この記事では、射出成形における不良対策の具体手法や、ハイサイクル化への実践例を、20年以上の現場実務経験をふまえて詳しく解説します。
よくある射出成形不良とその発生メカニズム
ショートショット(充填不足)
成形品に樹脂が十分に行きわたらず、部分的に穴や欠けが生じる現象がショートショットです。
金型設計のミス、成形条件(圧力・温度・速度)の最適化不足、樹脂自体の乾燥不足や配合ミスなどが主な原因です。
現場では、射出圧力や速度調整、金型内部の通気性確保(エアベントの清掃や改善)、材料の保管・乾燥管理などの総合的な見直しが不可欠となります。
ウェルドライン(溶着線)
樹脂の流れが合流する部分でしばしば発生する線状の痕です。
強度低下や見栄えの悪さの原因となり、設計段階で流動解析を行い、流れの合流数を減らす、ゲート位置を最適化するなどの対応が望まれます。
また、成形条件の見直しによって樹脂温度や型温度を適正化し、流動性を高めることで発生を防ぎます。
シルバーストリーク(銀条)・気泡
樹脂材料内に微細な水分が残留していたり、成形時に混入した空気が逃げきれなかったりすると、表面にシルバー状の筋や気泡ができます。
原料の事前乾燥はもとより、金型内のベントやランナーの見直し、射出条件の最適化を地道に積み重ねる必要があります。
フラッシュ(バリ)
製品の合わせ目に余分な樹脂があふれ出す現象です。
金型の摩耗や締め込み不足、型締め力の不足、樹脂圧力の過剰など、複合的な要因が背景にあります。
金型のメンテナンス習慣化や、保守コストを嫌がらずに必要な投資を重視することが、逆に稼働率アップにもつながります。
成形不良対策のための現場実践ノウハウ
金型の設計・保全の重要性
不良対策の第一歩は、金型設計の精度向上と、定期的な保全活動の徹底です。
特に射出成形の場合、ミクロン単位のズレが成形品質に直結します。
設計段階では、計測装置やCAD/CAEによる流動解析で「不良が出やすい領域」を予測し、金型温度の安定やガス抜きなどの工夫を凝らすことが求められます。
現場レベルでは、金型の分解清掃や摩耗パーツの早期交換、日常点検記録の活用が不可欠です。
「型の汚れは不良品の源」と肝に銘じて、少人数化・自働化の進展と併せて、ワークフロー内に“こまめに金型を見る習慣”を根付かせることが肝要です。
材料管理――混合・乾燥・保管の徹底
材料の水分率・配合ミスによる不良は、意外と見落とされがちな現場課題です。
特にナイロンやABS、PBTなど吸湿性樹脂は乾燥管理が必須です。
また、着色剤や添加剤の分散も不良率に直結します。
ミキサー運用ルールやロット数管理手順を作業員全員に周知徹底し、「人に頼らない標準作業」を確立することが重要です。
成形条件の最適化とデータ活用
経験値だけに頼った成形条件設定から、見える化・数値化への転換が不可欠です。
射出圧力、速度、金型温度、時間ごとの不良率やライン停止回数などをIoT機器やMES(製造実行システム)で記録・解析し、標準値から逸脱時のアラームや自動調整につなげる取り組みが進んでいます。
現場リーダー自らが主体的にデータを扱うこと、報告書ではなく「現場の不良現物」を見て自分の仮説を検証する体験を重視することが、結局は属人化の防止と後継者育成に役立ちます。
トラブルシューティングのためのチェックリスト
現場での成形不良に対しては、「何かあった時に即座に確認する」チェックリスト運用も有効です。
射出装置の稼働状況、金型温度、材料ロット、スタッフの操作履歴など、標準化されたフォーマットに日々記録しておけば、不良トラブル発生時の初動対応が迅速に進みます。
ハイサイクル成形への挑戦――現場アップデートの勘所
なぜ今、ハイサイクル化なのか
多品種少量生産への対応や、世界的な人手不足を背景に、射出成形現場でも「ハイサイクル化」(製品1個あたりの成形時間最短化)のニーズが高まっています。
ただし、単に全工程のスピードを上げるだけでは不良発生リスクも増大します。
そのため、「速さと品質」の両立が最大の難所といえるでしょう。
ハイサイクル化のボトルネックと突破口
1ショットあたりの成形サイクル時間を短縮するには、主に以下の要素を見直す必要があります。
・型冷却効率の向上(冷却回路の設計改善・温調装置の最適化)
・金型開閉/成形機の搬送タイム短縮(サーボモーターやロボット導入)
・樹脂の流動性向上(材料グレード選定、添加剤使用)
・自動バリ取り・自動検査装置の導入
これらをハード面だけでなく、「止めない現場運営」「切り替えロスの削減」「コマ止め時点検標準化」などソフト面と一体的に進めていくことが成功のカギとなります。
現場力アップのポイント――関係者全員の意識改革
昭和から続く「職人の勘」のみで成り立つ現場では、ハイサイクル化のための装置投資やデータ分析、標準作業書の導入に抵抗感も根強く残っています。
ですが、「変えるべきは人ではなく環境」と考え、現場の自動化投資やIoT環境整備に適応した人材育成に舵を切ることが肝要です。
例えば、
・新規装置導入時はオペレーターを巻き込んだ条件出し、小集団活動での運用ルール策定
・成功事例の共有や失敗情報の“見える化”による全体最適化
・属人的ノウハウの図解や動画化、教育ローテーション体制の構築
など、現場主導の変革が結果としてハイサイクル化への持続的推進力となります。
バイヤー・サプライヤー視点で知っておきたい成形不良・ハイサイクル化の要点
品質コストの適正化を重視するバイヤーや、技術サービス提案力を求められるサプライヤーにとって、以下のような視点が現場信頼の獲得に必須となります。
・「不良対策の現実解」と「コストダウンの矛盾」を説明できるか
・トレーサビリティや工程内検査、IoT設備投資に関する提案力
・ハイサイクル化による納期短縮・コスト競争力増大の実効性説明
・型保全の文化・トレーサビリティなど、目に見えにくい部分への現場訪問・監査の徹底
一方向的な“価格交渉”のみならず、「どうしたら安く・早く・継続的に高品質な部品を納入し続けられるか」といった双方向のコミュニケーションが求められています。
おわりに:射出成形業界の未来と現場からのイノベーション
射出成形分野は今、機械性能・設備投資・IoT化といったハードの進化と、現場運営の標準化や人材育成といったソフトの進化が両輪で問われている時代です。
これからの製造業現場は、「失敗から学び、現場の知恵を標準化・データ化し、変化を恐れずアップデートする」ことで初めて世界と戦える力を持つと私は信じています。
不良対策に粘り強く取り組み、ハイサイクル化の障壁を打破する、現場の知恵が、新しい日本の製造業の礎になることでしょう。
この知恵と経験を、ぜひ次代の現場やサプライヤー・バイヤーの皆様に広く役立てていただきたいと思います。
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