投稿日:2025年6月10日

射出成形品の設計技術とインサート成形への応用

射出成形品の設計技術が製造現場を進化させる理由

射出成形は、製造業に携わる方であれば誰もが耳にしたことのある、高効率かつ高精度の量産技術です。
プラスチック部品から金属部品への応用まで、その守備範囲は広く、今や産業の根幹とも言える存在となっています。
しかし、現場のリアルな課題や時代の流れを知ると、単なる「成形技術」として捉えるだけでは不十分です。

私が大手製造業メーカーで20年以上経験を重ねてきて実感するのは、設計段階からの技術的配慮が生産性にも品質にも大きな差を生むことです。
特に、近年ではインサート成形への応用や、さらなる自動化対応、コスト削減、サステナブルへの転換といった社会的要請も増え、設計がますます重要になっています。
この記事では、現場でのリアルな目線と共に、射出成形品の設計技術、そしてインサート成形への応用について、深く掘り下げていきます。

射出成形品の設計に必要な基本知識と現場のリアル

成形性と要求品質のせめぎ合い

射出成形品の設計では、部品図を引くだけでは終わりません。
設計者は材料の流動や冷却のクセ、金型の構造、成形機や周辺設備の能力など、現場の”暗黙知”まで理解しておく必要があります。
例えば、コーナーに鋭角を設ければ、材料の流れがよどみ、ウェルドラインやソリが生じやすくなります。
一方で、曲面やリブで補強すれば強度は増しますが、型離れや射出圧など、現場サイドの負担が増します。

また、バイヤーや営業からは「もっと薄く、軽く、コストダウンを」と言われますが、実際には成形品強度の維持、歩留り確保、サイクル短縮といった非常にシビアな要求が加わるのが現場の常です。
現場に根付く「アナログな知見」が意外な問題解決につながることもしばしばです。

型設計・金型構造との密接な連携

射出成形品の真髄は、設計と製造が一体となることで発揮されます。
金型構造の制約(アンダーカットや抜き勾配、ガス抜き、ゲート位置など)を最初から織り込んでおくことが、最終的な良品率や生産スピード、コストにまでダイレクトに効いてきます。

金型のデジタル設計(CAD/CAM)の普及が進んだ今も、昭和から受け継がれる”手作業”の型修正や、現場の勘どころが重要な場面は少なくありません。
設計と型部門が互いに現物を見ながら協議する姿は、今もどの工場でも日常風景です。

インサート成形への応用で設計はこう変わる

インサート成形とは何か?

インサート成形とは、金属や電子部品などの部品をあらかじめ金型へセットし、そこに樹脂を射出して一体化させる高度な成形技術です。
従来なら「組立」工程が別途必要だった製品を、一工程で完成品化できるのが大きな特徴です。
例えば、ナットやボルトを樹脂部品と一体化させたり、端子部材やギア部材を一体成形したりと、モノづくりの幅が大きく広がります。

設計段階で配慮すべき新たなポイント

インサート成形では、通常の射出成形以上に「事前の設計配慮」が成功の鍵となります。
具体的には、以下のような新しい観点が加わります。

1. インサート部品の精度・公差管理
2. 部品位置決めの再現性・偏心防止設計
3. 金属部品と樹脂の熱膨張率や密着性の考慮
4. 成形時のインサート部品の変形・移動リスク対策
5. 成形工程で生じる応力・残留歪み対策(特に電気部品や精密薄物部品)

また、量産現場では、部品供給(ローディング)の自動化やインサート自体の品質管理、省人化対応など、設計初期から「現場で実現できる工夫」が問われます。

インサート成形現場のリアルな失敗事例と対応策

インサート成形でよくある失敗例に、「インサートのズレ」や「樹脂のバリ・スキマ」「端子曲がり」「加熱による部品変形」などがあります。
これらは、設計ミス・金型構造の甘さ・工程制御の不備が絡み合って起きるため、現場のベテランの知恵が欠かせません。

たとえば、電装モジュールの端子をインサートした製品で、樹脂流動の瞬間に端子がわずかに押されて偏心し、不良品となるケース。
これは、端子を型内でいかにホールドし、材料流動が端子に与える力を設計段階でシミュレーションする必要があります。

また、自動化を進めようとした結果、「ロボット投入の際にインサートを傷つける」「投入位置決め精度が足りない」といった課題も現場でしばしば問題になります。
最新の工場自動化では、画像認識やセンサー技術と連動し、機械側でのミス防止策やフィードバック制御が取り入れられています。

射出成形とインサート成形の今後のトレンド

デジタルツイン・シミュレーション技術の進展

先進的な製造現場では、設計CADデータを基礎とし、射出成形シミュレーション(流動解析、応力解析、冷却解析)を用いて最適設計を進める手法が通常となりつつあります。
これにより、製品設計から金型製作、試作〜量産までの不具合発生リスクを飛躍的に低減できます。

特にインサート成形では、金属部品・樹脂の複合挙動解析や、製造現場のデジタルツイン化(仮想現場での設備・人・材料の動き再現)が今後一層求められます。
昭和の職人技やアナログ的な現場力と、最新のシミュレーションツールが共存して強い現場を作っていくことが重要になるでしょう。

自動化・スマートファクトリーとの連携

現場では「人手不足」「多品種少量」「短納期化」の波が押し寄せるなか、インサート部品のローディングや取り出しの自動化が必須課題になっています。
自動搬送(パレタイジング)、位置決めロボット、AI検査システムの導入も進みます。

しかし、完全な無人化の前には「現場の段取り替え」「微妙な調整」「型出し時のトラブル対応」など、人の勘所が生きる「アナログの知恵」がまだまだ有効です。
新旧融合の現場づくりが本当の「製造業の未来」を支えます。

サステナブル目線での新材料・リサイクル対応

社会的な要請として、今後ますます「環境配慮」「リサイクル材料利用」などサステナブルな製造が求められます。
再生樹脂やバイオ樹脂の採用は、インサート成形でも増加。
強度や密着性、歩留まり(材料ロス)など、材料選定段階からの工夫や成形条件の最適化がますます大事になります。

サプライヤーとバイヤー、それぞれの立場で押さえておきたいポイント

サプライヤー(成形メーカー)視点

インサート成形品を受注・生産するサプライヤーにとって重要なのは、「設計と現場力」の両立です。
部品の図面を鵜呑みにせず、「この設計で本当に狙い通りの成形ができるか?」「インサート部品の安全な供給が現場で現実的か?」を見極める提案力が勝負を分けます。

現場実績や、工程トラブル時の解決事例を武器に、バイヤーと積極的に打合せし、“つくり手視点”での設計変更提案も恐れず出すことが、信頼獲得の鍵です。

バイヤー(調達購買)視点

一方でバイヤーは、単なる「安く発注先を探す仕事」ではありません。
「設計意図」を深く理解し、どの成形メーカーが自社の品質・納期・コスト・技術的課題にどこまで応えてくれるのか、本質的な目利き力が求められます。

インサート成形現場のリアルを知り、「本当に現場で成立する工程か?」「自動化や省人化、サステナビリティまで見据えた提案になっているか?」をきちんと見抜ける“業界通”が、今後一層必要になります。

まとめ:これからの射出成形・インサート成形技術者が目指すべき道

射出成形品、そしてインサート成形の設計技術は、単なる知識や理論だけでは競争力を生みません。
現場の実体験、アナログな職人技からAI自動化まで、幅広い視野を持って本質を突き詰める力が、ものづくりの現場でますます重視されています。

昭和の時代から続く現場の「知恵」と、デジタル化・シミュレーションなどの「最新技術」が融合することで、日本の製造業は再びグローバルで強い現場を実現できます。
バイヤーを目指す方も、サプライヤーの現場の声に耳を傾け、現場で起こる本当の課題・技術進化の最前線を理解することが、これからの成長の鍵となります。

射出成形品やインサート成形の設計技術は、まだまだ進化の途中です。
現場の一員として、一緒に未来のものづくりを切り拓いていきましょう。

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