投稿日:2025年11月11日

陶器マグの印刷で気泡発生を防ぐためのインク脱気と印圧速度調整

陶器マグ印刷における気泡トラブルの本質と対策

陶器マグの印刷工程は一見すると単純に思えるかもしれません。
しかし、現場では「印刷時に気泡が発生して品質が不安定になる」といった課題に直面することがよくあります。
印刷後に小さな気泡が陶器表面に残ることでデザインの美観が損なわれたり、耐久性が低下したりするのです。

本記事では、製造業での現場経験と最新の業界動向を踏まえて、気泡発生メカニズムから、インクの脱気(デゲージング=脱泡)、そして印圧・印刷速度という物理的パラメータの調整方法まで、プロ視点で解説します。

陶器マグの印刷工程と気泡発生ポイント

陶器マグの主な印刷手法

陶器マグへの印刷には主に以下の手法が活用されています。

– シルクスクリーン印刷
– 転写印刷(水転写、熱転写など)
– インクジェットダイレクト印刷

この中でも、シルクスクリーンやインクジェットプリントは現場での微細な調整が求められるため、気泡発生の管理が特に重要となります。

気泡発生の主な原因

印刷時の気泡はおおまかに以下のような要因によって発生します。

1. インク自身に気体(空気)が混入している
2. 印刷基材である陶器の表面にノイズ(粉塵や油分)がある
3. シルクスクリーンや転写シートに微細な空気が挟まる
4. 印刷工程の圧力や速度条件が適切でない

これらの原因が単独、あるいは複合的に作用することで、肉眼で見える気泡から微細なピンホールまで、さまざまな不具合が現れます。

印刷インクの脱気処理(デゲージング)の重要性

なぜインク脱気が必須なのか

印刷に用いるインクには、原材料の混練や攪拌、容器への注ぎ工程などを経て微細な空気が混入されています。
このまま印刷工程に移すと、印刷面にて気泡がはじけたり、乾燥・焼成時に気泡が拡大してしまうという問題が起きます。

そのため、現場では「インクの脱気=インクから空気を抜く」処理が極めて重要です。
これにより、最初から気泡の発生リスクを大きく低減できます。

脱気の方法—現場で使われている実践テクニック

企業や工場によってスタンダードな方法は異なりますが、代表的な脱気処理手順を紹介します。

– 渦巻き式の攪拌機+減圧タンクでインクを真空脱気する
– 専用のデゲージャー(脱泡機)を使い、あらかじめ空気抜きを徹底する
– 手作業の場合は少量ずつ、時間をかけて撹拌→静置→表層の泡を除去
– 粘度調整時は攪拌ではなく、できるだけ上下反転など低衝撃な撹拌方法と併用する

脱気の度合いを確認する際は、シャーレや小皿にインクを広げてピンセットでかき混ぜたあと、10分以上放置して泡が浮いてこないかテストチェックすることをおすすめします。

印圧・印刷速度—現場目線での最適化ノウハウ

印圧(プリント圧力)の調整ポイント

陶器マグの印刷で使用する印刷機は、ドクターやスキージーでインクを基材に転写します。
このときの「圧力」が強すぎるとインク層が潰れて泡が内包されやすくなり、逆に弱すぎるとインクの転写不良やピンホールが発生することがあります。
このため、

– 「インクが薄すぎず厚すぎず、表面全体に均一にのる」圧力
– シルク印刷ならスキージーの角度や速度も合わせて最適化
– 圧力を変える場合は、必ずトライアル&エラーで仕上がりを直接確認

といった段階的な調整が重要です。

印刷速度と気泡の発生リスク

印刷速度が速いとインク供給のムラが生じやすく、空気の巻き込みや印刷面への気泡混入リスクが増大します。
一方、遅すぎる場合は生産効率が落ちたり、逆に溶剤や粘度によっては乾燥皮膜が先にできてしまい、品質不良を招くことも。

多くの現場では以下のような方法で最適な速度を模索します。

– 標準レシピ(例:10m/min)から少しずつ増減し、最も気泡が少ないゾーンを見極める
– インク粘度と印刷速度・圧力をセットで微調整する(セットアップループ)
– パイロットロットや本番生産後に「品質チェックリスト」で気泡率を可視化しながらPDCAを回す

現代ではセンサーや画像認識を活用したリアルタイムモニタリングも徐々に導入が進んでいます。
ですが、まだまだ「人の微調整能力&経験値」が品質の差に及ぼすインパクトは大きいと言えるでしょう。

昭和型のアナログ現場からどう脱却するか

根付いた慣習と若手への継承のギャップ

日本の多くの陶器・印刷工場では、いまだに「職人の勘」や「昔からのやり方」が色濃く残っているのが実情です。
たとえば、

– インクの脱気は朝番のベテランが目視判定
– 速度や圧力の調整値は口伝え、帳尻あわせは現場都合
– 不良発生時も「まぁこんなもんだ」となあなあで流される

といった雰囲気が根強い工場も少なくありません。
これでは本質的な品質改善は前進しません。
しかも、若手や中途入社のオペレーターにはノウハウが属人化して伝わりにくいというギャップも生まれます。

デジタル/データ活用への現場推進策

業界全体が変革期にあり、昭和的な感覚のままでは競争力が低下しかねません。
今こそ、「データベース化」と「工程標準化」に真正面から取り組むべき時代です。

– インク脱気後の気泡チェックを画像認識AIで数値化
– 全ての印刷条件(脱気処理時間/印圧/速度/温度湿度など)をフォーマット化
– 設定条件ごとにサンプルを残し、恒久的な「ゴールデンレシピ」を資料化
– 異物混入や気泡発生事例は品質会議で全オペレーターに共有

これらは管理職・工場長がリーダーシップを発揮し、デジタル活用の先端部隊と「現場リアル」を繋ぐことで初めて実現できます。

サプライヤーやバイヤーの立場から見た品質保証のポイント

サプライヤーが気泡対策で徹底すべきこと

サプライヤー(受託印刷会社、インクメーカー等)は「気泡ゼロ印刷」に向けて、インクの脱気や印刷条件の標準化、検査工程の可視化を徹底すべきです。
また、顧客(バイヤーや最終ブランド)からの問い合わせ時に「どんな手順・体制で再発防止しているか」をわかりやすく説明できる資料化も求められます。

バイヤーはどこを見て発注可否を判断するか

バイヤーの立場からすると、下記の観点で評価すると安心感が高いです。

– インクの脱気や印刷条件が「見える化」されているか
– 生産ごとの品質記録が残っているか
– クレーム発生時の再発防止フローが整備されているか

単に「安い」「納期が早い」だけではなく、「不良ゼロ保証」のための技術的裏付けやデータ開示体制が選定基準になっています。

まとめ:進化し続ける現場力と品質保証体制の両立

陶器マグの印刷で「気泡ゼロ」を達成するには、インクの徹底脱気・物理パラメータ(圧力・速度)の最適化・昭和型現場のデータドリブン化という3本柱が欠かせません。
これらは一朝一夕では身につかず、職人のノウハウと新しいデジタル活用を融合させながら、現場全体が「良品保証」にコミットする文化づくりから始まります。

同時に、バイヤーやサプライヤー目線で「品質がどうやって守られているか」を可視化し、データに基づく信頼関係を築くことが、これからの製造業の競争力となるでしょう。
進化する現場力で、より高品質な陶器マグを世界へ届けていきましょう。

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