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スカーフのデジタルプリントに使われるインクと布地の相性設計

目次
はじめに:スカーフのデジタルプリントが製造現場にもたらす変革
かつてスカーフのプリントといえば、スクリーン印刷や型押しなどの工程が主流でした。
しかし現在、ファッション業界の短納期要望や多品種少量生産の流れを受け、デジタルプリント方式が急速に普及しつつあります。
製造現場に長年携わった立場から見ると、これは“昭和の常識”を根底から覆すパラダイムシフトです。
その一方で、デジタルプリントの導入に伴い、従来型の製造業と違った新たな課題――とりわけ「インクと布地の相性」が浮上しています。
この課題をどのようにクリアし、現場で落とし込み、高品位かつ効率的な生産を実現するか。
今回は、現場目線でデジタルプリントに用いられるインクと布地の相性設計、その実例と工夫を深く掘り下げていきます。
デジタルプリントの技術概要と特徴
デジタルプリント方式のメリット・デメリット
デジタルプリント方式の最大の特徴は、版を作らずダイレクトにパターンやデザインを生地に印刷できる点です。
納期短縮、多品種少量対応、在庫リスク減少、複雑かつ多彩なデザイン対応などのメリットがある反面、インクコストや発色の均一性、物性耐久といった課題も無視できません。
製造現場担当者やバイヤーは、デジタルプリント導入時、メリットだけでなく、従来工法との差異とリスクも俯瞰して捉えなければなりません。
デジタルプリントに用いられる主なインク
スカーフ用途で使われるインクは主に以下の4種類です。
・反応染料インク:コットンやレーヨンなどセルロース系繊維向き。発色・堅牢度が高いが、後処理(水洗・蒸し)が必須。
・分散染料インク:ポリエステル系に多用。高発色で速乾性も高いが、昇華転写には温度管理が求められる。
・酸性染料インク:シルクやナイロンなど動物系・タンパク繊維用。柔らかな風合いを維持できるが、取り扱い難度は高。
・顔料インク:繊維種類問わず対応力は高い。堅牢性や工程簡便さは魅力だが、風合い面や高級感で劣る場合もある。
バイヤー・サプライヤー・現場管理者は、生地素材ごとにインクを選択し最適な相性設計を進める必要があります。
生地とインクの「相性設計」という現場のリアル
「良いインクを使うだけ」では済まされない理由
よく誤解されがちなのが“高級インクを使えば発色や堅牢性は自動的に良くなる”という考えです。
実際には、同じスペックのインク・同じ設計のプリンターでも、布地の種類によって印刷結果は全く異なってしまうことも珍しくありません。
その原因となる主な要素は、繊維の親水性・疎水性、布地の織り目、染料・顔料の浸透性、プリント時の吸湿特性、セット(定着)工程の温度や湿度です。
現場で失敗が起きやすいのは、バイヤーが「プリンターとインク情報」だけで発注・支給し、布地側の物性を見落としてしまうケースです。
代表的なトラブル例と現場の工夫
・インクが生地表面で弾かれてムラになる
・吸い込みが激しすぎて滲む
・洗濯堅牢度が低く、すぐ色落ちする
・高温転写で生地が縮む/型崩れ
こうしたトラブルを未然に防ぐため、現場では以下のような工夫を重ねています。
・事前に小ロットの試し刷り(ラボサンプル)を数パターン実施する
・布地に合わせた下処理(プリコートやウォッシャブル加工)を変える
・印刷機の湿度・温度設定を素材ごとに最適化
・昇華転写の場合、プレス圧・転写紙のグレードも最適化
・仕上げ工程での検査工程を強化
スカーフのような高付加価値製品では、バイヤーがこうした現場工程の難易度・工数も理解しておくことで、発注やコスト評価でミスジャッジしづらくなります。
インクと布地の「相性設計」手順と押さえるべきポイント
現場で実践される相性設計のステップ
1. 生地素材を特定し、主要特性(吸水性・厚み・仕上げ等)を整理
2. インク種類を選定、必要であれば仕入業者と情報交換
3. ラボテストで小ロットのサンプルプリント実施
4. 目視/物性試験(色ののり、にじみ方、堅牢性等)でデータ取得
5. 問題点を洗い出し、下処理条件やプリント設定を微調整し再テスト
6. 良好な組み合わせ条件を「配合設計データ」として標準書化
昭和からの伝統的大手はもちろん、近年は中堅プリント業者やOEM各社も「デジタルなら何でもできる」という幻想を改め、このプロセスを丁寧に回しながら工場力を磨いています。
バイヤーが知っておきたい“工場実務”の温度感
バイヤーやサプライヤー営業担当はどうしても「○○繊維向けのインクを使うから大丈夫だろう」と推察しがちです。
しかし、現場から見れば、繊維メーカー・ロット・生地の取り都合・保管状態の違いだけで出来あがりが変わる都度調整が必要。
そのため、バイヤーもなるべく試作結果・生地見本・過去の品質不良例に目を通し、現場担当者と同一目線・同じ温度感で意思疎通することがトラブル回避に繋がります。
進化するインク開発と今後の業界動向
より高い柔軟性と持続可能性を目指す開発競争
最近では、複数繊維にまたがって高発色・高堅牢性を実現できる「新規バインダー配合インク」の開発や、環境負荷低減を意識した“水性顔料インク”“バイオ由来染料”も登場しています。
こうした流れは、環境規制が厳しさを増すヨーロッパ輸出マーケットや、アップサイクル・リサイクル布地向けプリントが伸びる背景にもリンクしています。
スカーフなどプロダクトのバリエーション化やブランディング強化のためにも、サプライヤーになりうる企業・工場は今後、デジタルプリントの先端動向に貪欲でいる必要があるでしょう。
“発注側も現場を知る”視点が品質と効率を向上させる
OEM発注担当/バイヤーの立場からすると、「インクも布も規格に沿って手配すれば十分」となりがちです。
しかし、デジタルプリントにおいては、この“相性設計”のノウハウ蓄積と現場コミュニケーションこそが差別化のカギです。
製造業のバリューチェーンがより“共創型”にシフトする今、バイヤーと工場担当者が共通言語・共通課題を持ってスピーディに対応する姿勢が強く求められています。
まとめ:昭和から進化する現場知見を未来につなぐために
デジタルプリントは、スカーフに多様な表現と効率をもたらす画期的技術です。
しかし、その導入・拡大には、「インクと布地の相性設計」と、それを支える現場ノウハウが不可欠であることも忘れてはなりません。
バイヤー、現場担当者、サプライヤーが有機的に繋がり合い、それぞれが“現実の難しさ”を共有・アップデートし続けることが、品質向上と新たな価値創出への近道だと信じています。
これからデジタルプリントに挑戦する企業も、旧来方式からシフトする方も、“現場の知恵”を存分に活かし、製造業の発展に貢献していきましょう。
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