投稿日:2025年11月12日

金属カップの印刷で濃淡ムラを防ぐためのインク流動とスクリーン角度管理

はじめに:金属カップ印刷の品質課題とその重要性

金属カップの印刷は、食品や飲料、化粧品など幅広い分野で利用されています。

その中で製品の顔となる印刷品質は、購買バイヤーや顧客からの評価を大きく左右する重要なファクターです。

鮮明で均一な発色、グラデーション表現の美しさなど、細部にわたるクオリティコントロールが求められています。

しかし、現場では「濃淡ムラ」や「かすれ」、「にじみ」などの印刷不良が発生しやすく、特にアナログ工程が多い工場では不良の再発リスクが高いのが現状です。

本記事では、金属カップの印刷においてよく見られる“濃淡ムラ”を防止するためのインク流動およびスクリーン角度の管理について、現場目線で具体的に解説します。

購買担当者のみならず、サプライヤーとしてバイヤーの目線を知りたい方にとっても現場で生かせる実践的な知見を共有します。

印刷の現場で起きる金属カップの「濃淡ムラ」とは?

濃淡ムラの発生メカニズム

金属カップの印刷現場で発生しやすい濃淡ムラとは、同じ製品の中にインクの濃い部分と薄い部分ができてしまう現象です。

このムラはデザイン性・機能面へ大きな影響を及ぼすだけでなく、最終製品のブランドイメージを損ねるリスクがあります。

私が工場現場で出会った「一度濃淡ムラを起点にサプライヤー交代にまで発展した事例」も珍しくありません。
これは「あってはいけない」不良なのです。

よくある原因

濃淡ムラの主な要因としては、以下が挙げられます。

・インクの粘度変動や顔料沈殿
・スクリーン版の摩耗や網目詰まり
・印刷機のスキージ圧不均一
・カップ側の材料表面粗さや油分残留
これらの問題は、現場の“当たり前”となっている場合が多く、根本からの見直しが必要な領域です。

インク流動性の最適管理:濃淡ムラ対策の第一歩

インクの粘度管理の重要性

金属カップ印刷で使うインクは、樹脂系、UV硬化型、溶剤型など多岐にわたります。

いずれのインクでも“適切な流動性”が何よりも重要です。

粘度が高すぎれば版の目詰まりや印刷の“かすれ”を生み、逆に低すぎればベタつきや輪郭の“にじみ”、乾燥遅延によるトラブルにつながります。

現場での粘度実測と調整ノウハウ

多くの工場では、朝一番にインク粘度を「カップ粘度計」で確認して調整します。

しかし、粘度は温度、湿度、作業開始からの経過時間で絶えず変化するものです。

そのため、三時間ごとやロット間ごとなど「定点観測」をルーチン化し、現場ノウハウとして“粘度曲線の可視化”が欠かせません。

また、インクメーカーから提供される標準値を鵜呑みにせず、「自社のライン現場」に最適化した調整基準を設けることが、現場改善の勝ち筋となります。

混合・撹拌工程のラテラルシンキング

インクの顔料沈殿や分離を防ぐために、撹拌機やシェーカーを活用し「インク内の粒子分布を均質化」します。

ここで重要なのは、“撹拌だけ”に頼らず、撹拌時間や回転数、インクタンクへの空気混入による泡立ち発生など、二次的要因まで深堀りすること。

熟練オペレーターの「見た目判断」にも一理ありますが、最終的には見える化による標準作業の構築が不良ゼロへの近道となります。

スクリーン角度:ムラのプロセス起因を制御するカギ

なぜスクリーン角度が重要なのか

シルクスクリーン印刷では、金属カップの立体形状に合わせて版を「巻き込む」工法が多く用いられます。

このとき“スクリーン角度”を適切に設定しなければ、インクの転写圧・流れ方にバラつきが生まれます。

角度が小さすぎればインクが網目を抜けきれず、濃淡ムラや線状不良が高発生。
逆に角度が大きすぎるとインクが流れ落ち、にじみや形状ボケに直結します。

現場実践での角度管理ノウハウ

昭和から続く“勘と経験”に陥りがちな項目ですが、
現代では「角度ゲージ」や「レーザーレベル」を使い、定量管理が可能です。

量産前には必ずサンプル印刷を行い、“標準版”と“角度変動版”との比較をして最適解を追求します。

また、複数パートのオペレーターが交代勤務する場合には、「角度設定チャート」や「セット基準書」を作成し、誰でも同じ品質が出せる仕組みにしておくことが不可欠です。

シンプルに見える作業ほど、定量管理に切り替えることで現場の再現性が飛躍的に高まります。

工程標準化と現場データ活用:昭和アナログからの脱却

標準作業書の整備とデジタル活用

多くの日本の製造現場では、個人頼みの“作業暗黙知”が今も根強く残っています。

「○○さんがいないと安定しない」「あの職人の感覚しか頼れない」といった声が、属人化を引き起こしているのです。

この課題解決に最も有効なのが、“標準作業書の見える化”と“データ活用”です。

紙のマニュアルではなく、タブレットや大型サイネージに“動画付き作業フロー”を整備することで、現場改善のスピードは段違いに向上します。

不良履歴の蓄積と異常予知

従来は不良発生→原因追究→再発防止のPDCAが主流でしたが、最新のIoT技術を取り入れることで「過去のインク粘度やスクリーン角度」「印刷条件の変動履歴」と「濃淡ムラ発生位置」の相関分析が可能になっています。

“情報は会社最大の資産”という視点に立ち、バイヤーからの要求に応じて「再現性」の高い、生産体制の構築を目指すことが現代流の現場改善です。

購買担当者・サプライヤーが知るべき現場視点

バイヤーに求められる“現場深化”の意識

多くの購買担当者はサプライヤーや協力工場の“表向きの品質保証”だけでなく、
「なぜその不良が出るのか」
「どの工程が脆弱なのか」
を深く見極める洞察力が必要です。

具体的には、現物を手に、スクリーン版の管理帳票、インク粘度推移グラフ、作業者ごとの履歴も照らし合わせて確認する習慣こそが“バイヤーとしての力量”を高めます。

サプライヤーとして期待されること

サプライヤーは製品を納めるだけの立場から一歩進み、
「なぜ自社は濃淡ムラが少ないのか」
「なぜ他社は不良が多いのか」
現場レベルでの分析と説明責任を持った情報開示を心がけてほしいです。

たとえば、毎月の条件変動情報や標準作業書の改定履歴など「見える化」資料をバイヤーに提出することが信頼関係の醸成につながります。

まとめ:新たな地平線へ――品質安定現場づくりのために

金属カップの印刷における濃淡ムラの防止は、単なる“製造現場の課題”ではありません。

開発・調達・購買・品質保証・経営層が一体となり、「インク流動」「スクリーン角度」という“現場の肝”を可視化・標準化することで、安定したブランド力と納期・コストの両立を実現できます。

昭和の勘や経験に頼るのではなく、最新のデータ活用とノウハウ共有で“今よりももっと良い現場”を構築しましょう。

それが、製造業バリューチェーン全体の価値向上につながり、日本のものづくりが次世代で勝ち抜く原動力となるはずです。

現場での実践から得た知見を、引き続き現場と未来を志す皆さんに届けていきます。

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