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熱転写とシルク印刷のハイブリッド工程でのインク層管理法

目次
はじめに – 製造業の印刷現場における「ハイブリッド工程」開発の背景
製造業における製品マーキングや装飾工程は、かつてシルク印刷が主流でした。
その後、熱転写技術が導入され、工程効率や表現力、高品質化が大きく進化しましたが、現場ではどちらか一方に完全移行できないケースが多いのが“現実”です。
特に多品種少量生産やカスタム製品、あるいは意匠・品質・コスト・納期を同時に追求したい場合、熱転写とシルク印刷の「ハイブリッド工程」が増えてきました。
しかし、その現場ではシンプルな工程管理では対応できず、インク層の重なりや品質安定化の難しさ、伝統的ノウハウ(アナログ文化)と最新プロセス(デジタル管理)が混在する課題が山積しています。
本記事では、昭和のアナログ時代から現場を知り抜いた管理者としての視点と、令和の製造現場が直面する最新の実務課題に焦点を当て、ハイブリッド工程におけるインク層管理法の“実践解”をお届けします。
ハイブリッド印刷とは? シルク印刷と熱転写方式の特徴
シルク印刷:伝統と信頼性の技術
シルク印刷は“スクリーン版”にインクを通して製品にデザインを施す手法です。
古くから工業製品のロゴや番号、装飾印刷など幅広く活用されてきました。
特長は、厚膜形成ができて耐候性・接着性に優れることや、金属・樹脂・ガラスなど多様な素材にダイレクト印刷できる点です。
一方、色数・表現力には限界があり、精密なグラデーションや写真品質には和らぎません。
熱転写:複雑な高精細表現に強い
熱転写は、事前に印刷した転写フィルムを製品に貼り付け、加熱と圧力でインク層だけを移す工程です。
デジタルデータからフィルム製造が可能で、多色やグラフィック、微細模様も正確に再現できます。
加えて、フィルム在庫や準備の手間をコントロールしやすいという利点も持ちます。
ですが、コスト・リードタイム・密着力・耐久性など、用途や製品形状によって個別対応が不可欠です。
なぜ両者の「良いとこ取り」が必要なのか
製造業の現場では、単に技術進化の波に乗ればよいというわけではありません。
従来の製品が持つ「求められる品質保証」「お客様固有の仕様」「価格競争」「生産性」「納期遵守」「日々変わる仕様追加」など、多数の制約条件をパズルのように組み立てなければなりません。
そのため、熱転写+シルク印刷というハイブリッド工程が現実解となるのです。
ハイブリッド工程が内包するインク層管理の難しさ
インク層管理が成否を分ける理由
熱転写とシルク印刷、それぞれで求められるインク層の「意味」と「機能」は大きく違います。
一例として、熱転写インク層は極めて薄く、均質なフィルム状である一方、シルク印刷は局所的には厚膜になるものの密着・定着力が強力です。
この2種類が“重なり合う”と、界面剥離や加飾ムラ、変色、変質、あるいは製品寿命への影響など、多数のリスクが発生します。
さらに、日本の製造業現場には「何となく昔からこれでやってきた」というアナログノウハウが根付いており、デジタル管理や工程標準だけでは見逃されやすい“微妙な違和感”や“現場の勘”が潜んでいます。
反面、これら「なぜか不良が出る」「再現性がない」という事象を論理的かつ定量的に見極めることが、ハイブリッド工程では絶対に必要です。
インク層管理の具体的なアプローチ
1. インク層の膜厚測定の重要性
まず大前提として、各工程の「インク層膜厚」を正確に測定・記録する必要があります。
熱転写では、フィルムメーカーが公称厚み情報を出していますが、実際の転写率により、製品上での実膜厚は異なります。
シルク印刷では、スクリーンメッシュやスキージー速度、印圧・粘度などによって生産ロットごとに実際の厚みが変動しやすいため、膜厚マイクロメーターや非接触光学測定器を適宜導入します。
さらに重要なのは「どちらか片方の数値管理に終始しない」ということです。
ハイブリッド工程では、「重なる領域×複数インク異種物性の界面」こそ不良リスクの温床になるため、2層間の“合計膜厚の上限下限”“互いの物性マッチング”をデータ化し、作業標準やQC工程図に明示して管理します。
2. 物性適合性と界面制御の徹底
熱転写インク・接着層と、シルク印刷インクの組み合わせでは、多くの場合異なる樹脂ベースや可塑剤が用いられています。
ここで「両者の密着力(ピール試験・クロスカット試験等)」「耐薬品性」「環境安定性(高温高湿、UV耐候性)」をそれぞれ単独、そして重ねたモデルで徹底的に評価します。
たとえば、アクリル系インクとウレタン系インク、あるいは溶剤系対UV系インクは、物性・溶剤レジスタンスが大きく異なる場合も多いです。
重ね塗り時は必ず「下地インク硬化(乾燥・焼付)の完全性」を確実にしてから次工程へ進めることが大前提です。
反応固化型ならポストキュア、紫外線硬化型や熱硬化型は装置の性能校正を定期的に行いましょう。
3. 現場リーダーが押さえる「工程バランス」
現場では「熱転写>シルク印刷」か「シルク>熱転写」どちらを先にするべきか悩むことが多いです。
基本は、「工程内で工程短縮と品質安定が両立する順番」を選びます。
一般に熱転写のほうが薄膜・フラットであるため、先にベース面を作成、その後に必要な部分へシルク厚膜で強調や追記を行う方が全体が安定しやすいです。
また、この工程順の選定には「治具」「搬送」「ワークセット」など現場設備との相性や、工程間の手戻りリスク(作業者の動線や治具の取り外し回数など)も必ず評価対象とします。
現場バイヤーとしては、この「工程順変更の理由とその裏付けデータ」をサプライヤー提案時に求めることが多く、ただの作業者の勘や現場慣行ではなく、明確なエビデンス(過去の不良率や作業統計)の添付が重要ポイントとなります。
4. 現場教育と勘所の見える化
日本の古参現場には、「この配合、この順序、こんな天候なら何ミリ盛る」など、書面に残らない“勘”が多く潜んでいます。
これを「なぜ」「どの条件で」ベテランは判断していたのか、その再現性を「標準作業書」「帳票のデータベース化」「動画記録」などで組織知見として抜け漏れのないよう“形式知化”することが大切です。
そのうえで、現代的な検証や品質データとの紐付けを行い、「なぜ不良が減ったのか」「なぜ歩留まりが改善したのか」を自社・サプライヤー間でロジカルに連携できるよう情報インフラも整備していきます。
まとめ - “現場知”と“デジタル管理”の融合が要
熱転写とシルク印刷のハイブリッド工程は、最新と伝統、デジタルとアナログ、コストと品質の“せめぎ合い”が最も激しい領域のひとつです。
インク層の管理は「何となく」では絶対に組織的品質を担保できません。
膜厚測定や工程順序の最適化、界面物性のデータ化など、現場で得た経験則を数値やデジタルデータへ落とし込み、生産・品質・購買担当者が一体となって情報をシェアできる仕組みが、今後ますます求められます。
そのためには、現場リーダー・製造バイヤー・サプライヤーのそれぞれが「製品の背景・現場制約」を互いに深く理解しあい、変化し続ける製造課題に柔軟に対応できるラテラルな思考が必要です。
このような視点で管理手法をアップデートしつつ、現場“ならでは”の豊かな経験を業界発展のために次世代へ繋いでいきましょう。
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