投稿日:2025年11月30日

OEMパーカーのプリント耐久性を決めるインク選定と焼成温度管理

はじめに:OEMパーカーに求められるプリント耐久性

OEM(Original Equipment Manufacturer)パーカーは、アパレル業界で非常に需要が高まっています。
その理由のひとつは、企業やブランドが自社仕様のパーカーを手軽に展開できる点です。
近年では、ノベルティやユニフォームのみならず、D2Cビジネスや限定販売でも活用されています。

そんな中で最も大きな課題となるのが「プリントの耐久性」です。
せっかくデザイン性が高いパーカーを作っても、洗濯ですぐにプリントが剥がれたり、色が薄れたりしてはブランド価値を損ないます。

実は、プリントの耐久性を本質的に左右しているのは、インクの選定と焼成温度の管理です。
ここでは20年以上の製造現場での経験をもとに、バイヤー側とサプライヤー側の双方の視点も交え、現場目線・実践的な内容として解説します。

プリント手法によるインク種類と特徴

シルクスクリーン印刷のインク選定ポイント

OEMパーカーのプリントで現在最も多用されている手法が、シルクスクリーン印刷です。
この手法には「水性インク」と「プラスチゾルインク(溶剤系)」の大きく2種類があります。

水性インクは、通気性や風合いを生かしたいという要望に適しています。
特に着心地を重視する高級パーカーには水性インクがよく使われます。
ただし、水性インクは生地の種類によって発色や密着性が変化しやすく、撥水加工やポリエステル混合の素材では耐久性が損なわれやすい側面があります。

一方、プラスチゾルインクは塩ビ樹脂ベースで、発色が鮮やかで、耐久性も高いのが特徴です。
プロの現場では洗濯負荷試験や摩耗試験で優れた結果を示すため、工場の標準として多く採用されています。

OEMパーカーとして「何回洗濯してもプリントが残る耐久性」への要求が高い場合や、業務用ユニフォームなどタフな使用環境を想定する場合は、プラスチゾルインクを選定するのがセオリーです。

昇華転写プリントのインクと用途

もう一つ、近年増加しているのが「昇華転写プリント」です。
これは、昇華型インクを使い、熱と圧力で生地に染み込ませるプリント手法です。

主にポリエステル100%素材が対象で、ユニフォームやスポーツウェア、高発色を求められる限定商品などに使われます。
昇華転写プリントは、インクが繊維自体に染み込むため剥がれや色落ちが起きにくく、長期間使ってもプリントが鮮明なまま維持されるのが大きなメリットです。

ただし、綿100%や綿混素材には適しません。
また、オーバープリント(プリントの上にさらにプリントする)や細かいグラデーション、写真表現には極めて強みがあります。

焼成温度の管理が耐久性を左右する理由

インク特性と焼成温度の関係

工場の現場でしばしば問題となるのは、「プリントがはがれてしまう」「色落ちが早い」というクレームです。
その多くは、製造現場の焼成(キュアリング)工程に原因があります。

たとえば、プラスチゾルインクの場合、メーカーが指定する「キュアリング温度(約160〜170°Cで1〜2分)」でしっかり焼成しないと、インク内部の樹脂が完全に硬化せず、摩擦や洗濯で剥がれやすくなってしまいます。

逆に焼成温度が高すぎても、生地自体の変色や縮み、風合い劣化の原因になります。
昭和時代からのアナログ工場では、この温度設定がまちまちで「勘と経験」に頼っているケースが非常に多いのが実情です。

最新の現場管理術と自動化の潮流

現代では熱風乾燥炉(コンベアオーブン)や赤外線乾燥機、温度センサーを組み合わせ、「IoTで温度管理を自動記録」する新技術も登場しています。
こうした設備投資は初期コストが掛かるため、いまだ多くの中小企業・町工場では導入が遅れがちです。
ですが、プリント耐久性の安定こそがOEM信用の根幹であるため、工程見直しは費用以上のリターンにつながります。

OEMバイヤーの立場では「工場の焼成温度管理体制をどのようにチェックするか」が品質確保の最重要ポイントです。
サプライヤー側も、温度プロファイルやトレーサビリティ、品質記録書(作業日報・焼成温度ログなど)の提出体制を整えておくことが、今後の差別化に直結します。

現場目線で重要な「管理の仕組み」とチェックリスト

インクと焼成条件の最適な組み合わせを探るには

インクの選定と焼成温度の最適化は、実際の生地サンプルを使った「現場検証」なくして成功しません。
バイヤー・OEM発注者は、「本番前のプリントサンプル作成&耐久試験」を必ず依頼してください。
このステップを省略すると、ロット生産後の大規模なクレーム・返品リスクが高まります。

具体的なサンプル検査としては、以下のような項目が業界の標準です。

・印刷部位をカッターで切り取っての洗濯摩耗テスト
・各インク別に推奨焼成温度でプリントし、洗濯後の色残り比較
・複数の温度条件(10〜20℃刻み)で焼成し、最適カーブを解析

このようなラテラルシンキング=横断的な検証プロセスが、昭和から脱却し、次世代の高耐久OEMパーカーを実現する切り札です。

バイヤーが押さえるべき工場管理体制チェック項目

実際にサプライヤー管理またはサプライヤー選定を行う際には、以下のような独自チェックリストを用意することを強く推奨します。

・インクメーカー名、型番、ロット管理体制の有無
・プリントと焼成を分業化/一貫生産か、それぞれの品質管理責任者の存在
・焼成温度のモニターとその記録ツール(アナログ温度計かIoTシステムか)
・生産日・作業者・設定温度が追跡できる日報体系
・過去の不具合履歴と再発防止策の説明

これらの情報を開示できる工場は、OEMパーカーの品質向上にコミットしている現代的なサプライヤーとみなせます。

アナログからデジタルへの移行がもたらす業界変革

OEMアパレル業界全体を見ると、いまだに「作業員の経験値」や「勘」による工程管理が根深く残っています。
そこにIT化・自動化・IoTの波が押し寄せつつあるのが、直近5年間の大きな動向です。

温度管理装置のIoT化や、作業ラインの自動記録システムは、データの蓄積と解析によって欠陥率を下げ、コスト削減や市場クレーム防止に大きな効果をもたらします。

今後は、大手サプライヤーのみならず中堅・中小メーカーも踏み込んだデジタル化対応が、バイヤーからの信頼獲得・新規受注の生命線と言えるでしょう。

まとめ:OEMパーカーのプリント耐久性を高めるために今やるべきこと

OEMパーカーのプリント耐久性を最大化するためには、インク選定力と焼成温度管理の最適化が不可欠です。
そして、それらを支えるのは「現場でデータ化された品質管理」と「現物サンプルの多角的な検証」です。

バイヤーは、インクや焼成の仕様を明確に指定し、サプライヤーの管理体制をチェックすることで、長期的なブランド価値維持に貢献できます。
サプライヤーは、自社の経験値と最新設備・新技術の導入をバランスよくアップデートし、昭和型アナログ管理からの脱却を図るべきです。

アパレル製造業は、ラテラルシンキングを生かし、従来の制約から自由な視野で生産現場を進化させることが鍵となります。
これからバイヤーを目指す方、現場サプライヤーの方も、OEMパーカーの品質革新を通じて、業界の新しい地平線を切り拓いていきましょう。

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